ノンテクニカルサマリー

新経済地理学は現実を描写しているか?

執筆者 田渕 隆俊 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 都市の成長と空間構造に関する理論と実証
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

地域経済プログラム (第三期:2011~2015年度)
「都市の成長と空間構造に関する理論と実証」プロジェクト

ブラジル(1872-2010年)、フランス(1851-2009年)、イギリス(1701-2010年)、イタリア(1881-2001年)、日本(1721-2010年)、スペイン(1900-2010年)の地域人口分布の長期時系列を調べた。日本の長期時系列は以下のとおりである。その結果、産業革命以前には各地域に分散していた人口が、次第に首都圏へ集積してきたこと、そしてその集積が近年加速してきたことが明らかになった。

図:日本の地域人口分布の推移
図:日本の地域人口分布の推移

本論文では、このような首都圏へ人口集積してきた歴史的事実を、新経済地理学(new economic geography)の複数のモデルによって再現できることを示した。新経済地理学のモデルでは、解析を行う都合上、地域の数を2に限定しているが、それでは現実の経済活動の分布を描写することができない。そこで、本論文では、任意の数の地域にモデルを拡張して分析を行った。その結果、交易費用が大きい初期においては、経済活動の分布や人口の分布は全地域に分散するが、交易費用が小さい後期においては、経済活動の分布や人口の分布は1地域に集積することを、複数のモデルで示した。

さらに、厚生分析を複数のモデルに関して行った。金銭的外部性が存在するため、経済活動の一極集中は、地域間移動が可能な労働者にとって望ましいけれども、地域間を移動できない過疎地の農業労働者にとって望ましくないことが明らかになった。万人にとって望ましい経済活動の空間分布が見いだせないということは、地域間で何らかの所得移転が必要だということを意味する。市場の力によって生じる一極集中は国全体の経済成長の原動力になるので重要ではあるが、その果実の一部は地方に還元すべきであろう。