ノンテクニカルサマリー

メガバンク合併が企業-金融機関関係と借入金利に及ぼす影響

執筆者 内野 泰助 (リサーチアソシエイト)
植杉 威一郎 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 効率的な企業金融・企業間ネットワークのあり方を考える研究会
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

特定研究 (第三期:2011~2015年度)
「効率的な企業金融・企業間ネットワークのあり方を考える研究会」プロジェクト

90年代以降の日本では金融機関間で数多くの合併が生じた。最も大きな業態である都市銀行でも、度重なる合併の結果、1980年時点では13行あったものが2005年時点では4グループにまで減少した。本研究は、これら都市銀行(メガバンク)間の合併に焦点を当て、メガバンク合併後に取引関係にあった非上場企業がどのような影響を被るかを検証したものである。

分析対象とする合併は、2005年から2006年にかけて実施された東京三菱銀行(BTM)とUFJ銀行(UFJ)によるものである。日本における最大規模の金融機関合併であること、数多くあった金融機関合併のほぼ最後に実施されており効果を定量的に把握しやすいことが分析対象とした理由である。

約1万社の非上場企業サンプルを、合併前の段階でBTMとUFJの両方と取引していた企業(MERGER2)、いずれかと取引していた企業(MEGER1)、BTMとUFJのいずれとも取引のなかった企業(MERGER0)にサンプルを分割し、それぞれのグループにおいて2005年から2008年にかけて支払金利や借入金額がどのように変化したかを追跡・比較した。分析手法にはPropensity score matchingを採用し、事前の企業属性などの差異が事後の貸出条件の変化にバイアスを与えないための工夫をした。

得られたのは以下の結果である。第1に、合併により取引銀行が1行減少したMERGER2では、支払金利が相対的に上昇した。上昇幅はMERGER0と比べた場合に40bpであった。第2に、BTMとUFJのいずれかと取引していたMERGER1でも、いずれとも取引していないMERGER0に比して支払金利が20bp上昇した。特に、取引先支店が統廃合された企業では支払金利の上昇幅が大きかった。第3に、MERGER1の中で、合併行(BTM)と取引していた企業と被合併行(UFJ)と取引していた企業を比較すると、被合併行との取引企業がより不利な取り扱いを受けることを示した先行研究とは異なり、支払金利の変化に有意な違いは見られなかった(表参照)。

今回の結果は、取引金融機関数の減少により貸し手金融機関が借り手企業に対する交渉力を強めたため、もしくは、支店の統廃合などにより企業-金融機関間関係が変化して蓄積されていたソフト情報が毀損したために、これまで取引関係にあった借り手企業における支払金利が上昇したものと解釈することができる。一方で、金融機関が大規模な不良債権処理を迫られる中で行われたメガバンクの合併は、金融システムの安定化や米国などに比して低い金融機関における収益性の改善という面からは、前向きに評価すべきではないかとの指摘もあり得る。

いずれにせよ、今後とも、BTMとUFJの合併に限らず日本における金融機関合併が企業の資金調達に与える影響を包括的に検証することで、金融システムや資金の効率的な配分に関するより深い知見を得ることが求められる。

表:メガバンクの合併後における支払金利の変化
表:メガバンクの合併後における支払金利の変化
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