このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
産業・企業生産性向上プログラム (第三期:2011~2015年度)
「東アジア企業生産性」プロジェクト
中国では近年国営企業の民営化が進み、それとともに輸出企業が増大している(図)。本研究は、中国の大半の企業をカバーする企業レベルデータを用いて、国営企業の民営化が輸出を促進するかについて定量的な推計を行った。その結果、輸出をしていない国営企業が翌年に輸出を開始する平均的な確率は約3%であるが、民営化されることによってこの確率が約5%にまで大きく上昇することが見出された。つまり、民営化によって企業が輸出をする可能性が大きく上昇したことが認められる。
さらに、本研究はこのような民営化の効果がどのような経路で引き起こされたかを詳細に分析した。その結果、民営化は生産性や企業規模を増やすことを通じて輸出性向を促進し、長期負債を減らすことを通じて輸出性向を減退させているが、量的にはこれらの経路による民営化の効果は非常に小さいことがわかった。つまり、民営化によって輸出が活発になるのは、民営化によって生産性、規模、財務状況の変化を通じてではなく、既存のデータには表れない企業特性が変化することによって引き起こされているといえる。
そのような特性とは、たとえば利益やリスクに対する企業としての姿勢が考えられる。つまり、中国の国営企業は、利益を上げることにはそれほど関心を持たずにいられたし、したがって積極的にリスクをとって輸出をしようとは考えなかった。しかし、民営化によって利益を上げなければ企業として存続できなくなり、またそのためにはリスクを取って輸出市場に打って出る必要が生じたのである。言い換えれば、民営化によって「アニマルスピリット」が生じ、それが企業をして海外市場に目を向けさせたのだ。
このような結論は、RIETIにおける日本企業の研究による結果とも整合的である。たとえば、日本企業においても、輸出など企業の国際化を決定している要因として生産性、企業規模や財務状態の役割は非常に小さい(DP09-E-019)。さらに、中小企業においては、経営者のリスク性向、時間性向、海外経験の有無が国際化を決定する主要な要因になっている(DP11-E-026)。
日中の企業レベルデータを使ったこれらの研究結果は、企業が国際化するためには企業の心理的な要因が大きいことを示唆している。したがって、企業の国際化のための政策は、海外情報を提供したり、人的なネットワークの構築を支援したりすることで、国際化に対する心理的な障壁を低くし、アニマルスピリットを喚起することが必要である。