執筆者 | 森 知也 (ファカルティフェロー)/Tony E. SMITH (ペンシルバニア大学) |
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研究プロジェクト | 経済集積の形成とその空間パターンにおける秩序の創発:理論・実証研究の枠組と地域経済政策への応用 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
地域経済プログラム (第三期:2011~2015年度)
「経済集積の形成とその空間パターンにおける秩序の創発:理論・実証研究の枠組と地域経済政策への応用」プロジェクト
「集積」は今日の経済立地の典型的な形態であり、先進国では70%以上の人口が都市部に居住している。日本の都市化率は実に87%に達し、総面積の3%に人口の65%、雇用の86%が集中している。他のアジア諸国も同様で、韓国の都市化率は80%を超え、後進の中国も1980年には20%であったが現在は40%に達し、沿岸部では80%を越えている。このことは、国内のみならず、東アジア、EUなどの国際地域における交易や経済発展を理解し、地域政策を考察する上で、人口や産業の集積メカニズムを理解することの必要性が高まっていることを示唆している。
このような世界的な集積傾向を背景として、1980年代以降、「集積の経済学」は都市・地域経済学の理論研究における中心的な分野となった。実証研究では、1990年代後半より、Gini係数、Hirfindahl係数、エントロピーといった分布の不均一性を表す指標に、経済学的・統計的基礎付けを施した集積のスカラー指標の開発が進み、これらを用いて、経済集積要因の特定や、集積と地域/国の成長や生産性との関係を明らかにするための計量経済分析が精力的に行われてきた。
これらの指標が示すスカラー値としての集積度は、立地が完全に分散している状態に対応する基準分布を設定し(たとえば、可住地面積上の一様分布や、製造業等の集計産業の立地分布など)、その基準分布と実際の立地分布の乖離を、空間的に集計して得られたものである。しかし、スカラー値で表された集積度は、計量経済分析における扱いやすさの一方で、本質的な集計問題を抱えている。最も好ましくない問題は、集積度の個々の値が、通常、集積・分散の空間スケールの異なる複数の立地パターンに対応することである。質的に異なる集積パターンを区別しない集積度の値を比較したり、地域の成長率や生産性と関連付けたりする意味は明確でないからである。本研究では、各産業の個々の集積を地図上で特定し、集積・分散の空間範囲について定量的に評価する統計分析枠組を紹介し、日本の製造業の集積パターンの特徴づけに応用する。
図1は、集積のスカラー指標の1つであるD指標を2001年時の製造業小分類163業について計算して得られた頻度分布である。図中に印したように、「プラスチック成形材料製造業」と「清涼飲料水製造業」は、ほぼ同様な集積度を示している。
一方で、これらの産業について、我々の手法を用いて検出された集積群の空間パターンを示した図2は(色の濃さは雇用者数規模の大きさに対応)、これらの産業の集積パターンが質的に異なるものであることを表している。「プラスチック成形材料製造業」は、「大域的集中・局所的分散型」であり、立地は太平洋岸の工業ベルト地域への集中するが、ベルト内ではユビキタスである。一方で、「清涼飲料水製造業」は、「局所的集中・大域的分散型」であり、生産は狭い範囲においては集中するが、全国的にはユビキタスな産業といえる。これらの集中・分散は、理論的には全く異なるメカニズムで起こることが、新経済地理学では明らかになっている。
本論文では、集積・分散の空間スケールを定量的に考慮した集積・分散パターンに関する系統的な分類手法を提案し、日本の製造業に適用して、集積パターン・要因分析における、我々のクラスタ検出手法の有用性を具体的に議論している。私が執行するプロジェクトでは、このような空間集計の問題に対処するべく、一般的立地空間を前提とした空間経済の理論モデルに依拠し、集積・分散の空間スケールを明示的に考慮した、集積の実証分析枠組を提案していくことを計画しており、本論文はその第一歩として、産業集積を定量的に測る上で、空間的な集計に関する根本的な問題を指摘している。