ノンテクニカルサマリー

貢献か、フリーライドか? 公共財経済における自主的参加

執筆者 古沢 泰治 (ファカルティフェロー)
小西 秀男 (ボストン大学)
研究プロジェクト 地球温暖化防止のための国際制度設計
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

環境は公共財である。従って、環境問題を考えるに当たっては、公共財供給問題で最も重要視されているフリーライダー問題を避けては通れない。環境改善のための各経済主体の努力は、他の経済主体の厚生に直接好影響を与える。この外部性のために、環境改善努力は社会的に見て過少となる。社会的に最適な環境水準に少しでも近づくためには、この外部性の内部化が必要である。

地球温暖化問題などのグローバルな環境問題に内在する外部性を内部化する1つの有力な方法は、多くの国を巻き込んだ国際的な協調体制を確立することである。実際、京都議定書など、国際環境協定は数多く存在する。しかし、京都議定書の枠組みにアメリカ合衆国と中国が入らなかったように、国際協調体制はフリーライダー問題を克服していなくてはならず、そのような体制が果たしてどの程度実行力を持つのかは、重要でありながらも未解決な問題である。

本論文は、フリーライダー問題を克服した協調グループの特徴を求め、そのグループの大きさや特徴を見ることにより、協調体制の実効性を探ろうとするものである。ここでは、環境問題にとどまらず、広く公共財供給問題の枠組みで議論を進めていきたい。

本論文の主要な貢献は、公共財供給問題の新たな解概念を提示したことである。Free-Riding-Proof Coreと呼ぶこの解概念は、協調ゲームと非協調ゲームの双方の解概念を含んだハイブリッド型の解概念である。この解概念が魅力的なのは、まずはこの解が、公共財供給の3段階非協力ゲーム(1.公共財供給グループの形成、2.グループ構成員による政府など公共財供給主体への金銭的貢献の実行、3.公共財供給主体による公共財供給)のPerfectly Coalition-Proof Nash Equilibriumの厚生分配と一致することである。そして、後者に比べ計算が容易であることも重要である。

この解概念を用いて簡単な公共財供給問題を考えた結果、いくつか重要なことが見えてきた。たとえば、京都議定書のように、重要なプレーヤーが公共財供給グループに含まれないことがあること、そしてプレーヤーの数が増えるに従って、フリーライダー問題が深刻になり、結果的に公共財供給が減少してしまうことである。

重層的協調体制
重層的協調体制

これらの結果に基づき、地球温暖化問題に取り組む国際協調を考えるならば、まずは約200カ国ある世界中の国々をほとんど全て巻き込む協定は実現可能性が低いことがわかる。たとえば、ヨーロッパ、アメリカ大陸、アジア・オセアニア、アフリカといった大きなグループに分け、まずはそのグループ内で協調体制を組むならば、それらのグループ内で実効性の上がった協調体制が組めるだろう。そしてその上で、これらの大きなグループ間で協調するという重層的な協調体制が有効であると、この研究は示唆している。