ノンテクニカルサマリー

異質性と輸出・外国直接投資の構造:日本の製造業の産業横断分析

執筆者 田中 鮎夢 (研究員)
研究プロジェクト 「国際貿易と企業」研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

問題意識

産業によって、国際化(輸出・外国直接投資)を行っている企業の割合は大きく異なる。たとえば、2005年、日本の食肉産業においては、輸出企業は260社中の3.5%、多国籍企業(外国直接投資を行っている企業)は5.0%に過ぎない。一方で、金属加工機械産業では、輸出企業は255社中の58.8%、多国籍企業は35.3%にも及ぶ。

なぜこうした産業間の差異が生まれるのか? 産業間の違いを生む原因を明らかにすることは、国際化を促進するための政策立案にとっても、基本的な知見を提供するものとして重要と考えられる。

主要な分析結果

本研究は、2000年以降、発展してきた新々貿易理論(異質な企業モデル)を拡張し、企業の異質性・研究開発・関税に着目した実証分析を行った。本研究の基本的な考えは、(i) 生産性の高い企業が多数を占める、従って企業の異質性(企業規模格差)の大きい産業においては、国際化が活発に行われている、(ii) 研究開発によって優れた製品を開発している産業は、国際化を優位に進めている、(iii) 関税が低く競争的な産業においては多くの企業が国際的にも活躍している、という3つである。

本研究が、1997―2005の期間の日本の製造業の産業レベルデータを用いて明らかにした事実は以下に要約できる。

  1. 企業の異質性(企業規模格差)の大きい産業ほど、国際化(輸出・外国直接投資)を行っている企業の割合が高い。
  2. 研究開発集約的な産業ほど、多国籍企業の割合が高い。
  3. 関税率の低い産業ほど、国際化を行っている企業の割合が高い。

下の図は、2番目の点、研究開発集約的産業に多国籍企業が多いという事実を示している。

図:研究開発集約度と多国籍企業の割合
図:研究開発集約度と多国籍企業の割合
出所:『企業活動基本調査』(経済産業省)に基づき作成。
注:図中の番号は産業コードを示す。産業コードは論文Table 5記載。研究開発集約的産業としては医薬品(205)、通信器具(303)、電子応用装置(304)、自動車(311)などが挙げられる。

政策含意

  • 輸入関税によって保護されている産業ほど国際化を果たせていない。この現状を克服するために、産業内の新陳代謝を高める政策が求められる(分析対象期間中の関税率が高かった産業としては、「その他の食料品製造業」、「精殻・製粉業」等が挙げられる。下図参照)。
  • 国際化に先立って求められる巨額の研究開発費用の企業負担を減らす政策(たとえば税制優遇)は、企業の国際化を促進する可能性がある。
  • 図:1997―2005の期間の日本の産業別平均関税率(関税率の高い産業)
    図:1997―2005の期間の日本の産業別平均関税率(関税率の高い産業)
    出所:世界銀行データベースに基づき作成。
    注:単位は%。