ノンテクニカルサマリー

病院の生産性-地域パネルデータによる分析-

執筆者 森川 正之 (副所長)
研究プロジェクト サービス産業生産性向上に関する研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

問題意識

急速な高齢化が進行する中、医療セクターの重要性は高まる傾向にあり、2007年度の国民医療費は34.1兆円、国民所得比で9.1%となっている。国民医療費は1997年度からの10年間、年率1.7%で増加し、国民所得比も1.5%ポイント上昇している。医療セクターの生産性向上は、日本経済全体にとって重要な課題である。

日本の病院は、人口当たり病床数が多く平均在院日数が長い、中小規模の病院が多いといった特徴があると指摘されてきた。「医療制度改革大綱」(2005年)は、2015年度までに平均在院日数の全国平均について、最短の長野県との差を半分に短縮するという長期目標を設定している。また、入院期間短縮のための対策として、急性期段階における医療機関の機能分化・連携、慢性期段階における療養病床のうち介護的なケアを主として必要とする高齢者が入院する病床を介護保険施設等に転換することが掲げられた。各都道府県においても「医療費適正化計画」が策定され、医療療養病床数の削減、平均在院日数の短縮の目標とそのための施策が掲げられている。

こうした状況を踏まえ、本稿では、厚生労働省「病院報告」等の公表されている都道府県(一般に「三次医療圏」に相当)および二次医療圏レベルのデータをパネル化した上で、アウトプットの質の向上を考慮に入れて日本の病院の生産性を計測する。主な関心は、医療圏および病院の規模の経済性である。入院医療サービスの品質の尺度として在院日数を使用して生産性を計測した。医療圏レベルのデータを使用することで患者構成(case mix)の影響を回避している。パネルデータを用いることで人口構成、食習慣、気候、風土病といった医療・健康に関わる地域特性の影響を考慮するとともに、数量データのみを用いて分析することで価格の地域差の影響を排除している。

分析結果のポイント

都道府県ないし二次医療圏内での平均病院規模が大きいほど生産性が高いという関係が確認され、二次医療圏レベルでは地域固有効果を考慮してもなお顕著な病院規模の経済性が存在する。この効果は経済的にも大きなマグニチュードであり、平均病院規模が2倍になると入院医療の生産性は10%以上高くなるという関係である。この関係は、在院日数という品質を考慮しない場合には観察されない又はあっても非常に小さく、病院規模の経済性が主として医療サービスの質の向上を通じて顕在化していることを示している。

都道府県別に1997~2008年の間のTFPの伸び率を見ると、神奈川県、愛知県、宮城県等でTFPの伸び率が高く、沖縄県、長野県、大分県では比較的大きなマイナスとなっている。長野県は平均在院日数が日本で最も短く、医療制度改革において目標とされている県だが、意外にも生産性はこのところ上昇していない。

インプリケーション

医療政策はしばしば批判の対象となるが、在院日数の短縮を通じた実質的な生産性向上という意味で一定の成果を挙げてきている。分析結果は、医療圏の中での病院の集約化等を通じた規模拡大が医療サービスの生産性向上に寄与する可能性を示唆している。ただし、本稿の分析は治療成果というアウトカムや医療機器をはじめ資本ストックの質の向上は考慮していないなどの限界があることに留意する必要がある。

図:病院規模とTFP(二次医療圏)
図:病院規模とTFP(二次医療圏)