ノンテクニカルサマリー

パートタイム労働時間と生産性-労働時間の多様性と生産性推計の精緻化-

執筆者 森川 正之 (副所長)
研究プロジェクト 産業・企業の生産性と日本の経済成長
ダウンロード/関連リンク

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

問題意識

中長期的な日本経済の成長にとって生産性向上、特に経済の7割を占める非製造業の生産性向上が政策課題となっている。諸外国においても事情は同じである。的確な成長政策の立案と政策資源配分のためには、企業の研究開発、IT投資、無形資産投資、グローバル展開等がどの程度企業の生産性と関係しているのかを定量的に把握する必要がある。このため、企業・事業所レベルのデータを用いた生産性の実証分析が活発に行われているが、労働生産性、TFPいずれも、アウトプットやインプットの正確な計測が前提となる。

日本のパートタイム労働者比率(5人以上事業所)は、2009年(速報)には27.3%と10年前(1999年)の19.5%から8%ポイント近く増加している。日本だけでなくOECD全体で見てもパートタイム比率は約16%になっている。業種別には特に小売業やサービス業でパートタイム比率が高い。しかし、一口にパートタイム労働者といっても、フルタイムにかなり近い労働時間の人もいれば、ずっと短い労働時間の人もいる。企業の経営戦略・労務管理政策によってもパートタイム労働者の働き方には大きな違いがある。従来の生産性分析のほとんどが、産業集計レベルの労働時間データを用いているため、パートタイム労働者の企業による異質性を反映していない。

こうした状況を踏まえ、この論文では、「企業活動基本調査」の最近のデータを使用し、企業毎のパートタイム労働投入量の正確な捕捉に伴う生産性推計の精度に対する定量的な効果を分析する。

分析結果のポイント

分析結果の要点は以下の通りである。
(1)パートタイムの労働時間は同じ産業内でも企業によって大きな異質性がある。
(2)パートタイム労働時間として産業集計データを用いた場合、計測される企業レベルの生産性にはサンプル平均値で4%前後、中央値で1~2%のバイアス(絶対値)が生じ、特にパートタイム労働者比率が高い飲食店、小売業、宿泊業等のサービス産業でバイアスが大きい。
(3)ただし、企業別労働時間データによる生産性と産業集計データを用いた生産性の間の相関は非常に高く、各種企業特性や政策要因の生産性への効果を分析する際、産業集計データを用いることによって誤った結論を導くおそれは比較的小さい。
(4)産業集計レベルの労働時間データを使用せざるを得ない場合、サービス産業の企業を対象に含む生産性分析では、フルタイムとパートタイムを一括して「常用労働者」として扱うのではなく、両者を区別してそれぞれのマンアワーを使用することが望ましい。

インプリケーション

実効ある経済成長政策を企画・立案することの重要性に鑑みると、企業・事業所データを用いた精緻な生産性分析が求められる。この点、「企業活動基本調査」においてパートタイム労働者の労働時間が把握可能になったことは1つの前進である。企業、事業所統計における調査内容の充実は費用対効果の高い投資である。

図 産業集計レベルのパートタイム労働時間を使用した場合の生産性の推計誤差
図 産業集計レベルのパートタイム労働時間を使用した場合の生産性の推計誤差
(注)数字は企業レベルでの推計誤差(絶対値)の各産業中央値。