ノンテクニカルサマリー

金融市場の不完全性下での資産価格と金融政策

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

問題意識

「金融政策は資産価格変動を考慮に入れるべきか」という議論は、金融政策に関する伝統的な問題の1つである。この議論に関しては、すでにさまざまな研究者が分析を行ってきているが、その多くは土地や資本など実物資産の価格と金融政策に焦点を当てた研究となっている。

これに対して最近の理論研究では、金融政策が株価に反応する場合、経済の不安定さが増してしまうため、望ましくないという結果が得られている。しかし、この既存研究では、金融市場がいわゆる完全であり、消費者や企業が必要なだけ金融市場から資金を調達することができると仮定されている。金融政策と資産価格変動に関する議論は、日本のバブル崩壊後の不況期や近年のアメリカの金融危機による不況期のように、金融市場の混乱が原因と考えられる不況の際に議論されることが多く、その面からは既存研究での議論の前提となる仮定は必ずしも望ましくないと考えられる。

本研究のアプローチと得られた結果およびその解釈

本研究では、金融市場が不完全な場合の株価と金融政策の関係を分析した。とくに、企業の運転資金の借り入れが各企業の保有する株式価値に制約されてしまい、自由な借り入れができない場合に、株価変動を考慮する金融政策が実体経済にどのような影響を及ぼすかを考察した。その結果、既存の研究とは異なり、たとえ金融政策が株価に反応したとしても、経済の不安定性は生じないことが明らかになった。

これまでの理論研究によって、金融政策当局はインフレーションに対して厳しい態度で臨むことが、経済を安定化させるのに重要であるという結論が得られている。しかし、既存研究が仮定するように、企業が自由に資金の借り入れが行える場合、株価はインフレ率が上昇する場合に低下してしまうため、金融政策が株価に反応すると、インフレーションに対する態度が緩み、そのため経済の不安定さが増してしまう。

これに対して、本研究のように株式が企業の資金調達の担保として用いられる場合には、株価は担保としてのプレミアムも含むため、インフレ率が上昇する際にも株価は低下することがなく、結果として金融政策が株価に反応しても経済の不安定さが増すことはないと解釈できる。

政策インプリケーション

金融政策が株価に反応する場合、経済が不安定になってしまい、望ましくないとする議論があるが、本稿によって得られた結果によると、金融市場に不完全性があり、企業の資金調達に制約がある場合、金融政策が株価に反応しても既存研究が主張するような経済の不安定さは生じえない。従って、資産価格変動を考慮する金融政策を模索していくことにも意味はあるといえる。