ノンテクニカルサマリー

中国の産業は外資スピルオーバーからどのように利益を得ているか?

執筆者 伊藤 萬里 (研究員)/八代 尚光 (コンサルティングフェロー)/ 許 召元 (中国国務院発展研究中心企業研究所)/ 陳 小洪 (中国国務院発展研究中心企業研究所)/若杉 隆平 (研究主幹)
研究プロジェクト 国際企業・貿易構造の変化と市場制度に関する研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

外資企業からのスピルオーバー効果の経路の違い

この研究の特色は、外資企業から国内企業の生産性と特許申請数という2つの異なるタイプのイノベーション指標へのスピルオーバー(波及)効果を検証するほか、外資企業の所有形態(合弁か100%出資)や出資元の国(香港・澳門・台湾系かその他)の違いに加え、知識生産活動(R&D投資)と財の生産活動という活動の違いを勘案した波及効果の計測を行う点にある。下図は、結果の概略を簡潔に示したもので、矢印は、中国の国内企業の全要素生産性(TFP)あるいは財の発明(発明特許申請数)に対する影響の存在を示しており、正の効果の場合は黒の実線、負の効果の場合は赤の実線で表している。点線の箇所は効果が弱いもしくは不明確であることを示す。主な結果は以下のとおりである。

  • 内資企業によるR&D投資は、TFPと特許申請にともに正に寄与。
  • 同一産業内で活動する外資企業のR&D活動からの波及効果は、内資企業の特許申請に正に寄与する一方、TFPへの統計的に有意な寄与は確認できない。
  • 特許申請への波及効果の大きさを所有形態や出資元の外資企業について比較すると、概して香港・澳門・台湾系の合弁企業のR&D投資からの効果が最も小さい傾向にあるが、その他の外資企業について明確な順位付けは難しい。
  • 他産業の外資企業からの波及効果は、川上産業における外資企業の生産活動からの波及効果が内資企業のTFPに正の寄与。一方で、川下産業における外資企業のそれは負に寄与している。特許申請数への産業間波及効果は検出されなかった。
図.外資企業から中国企業へのスピルオーバー効果の経路
図.外資企業から中国企業へのスピルオーバー効果の経路

外資企業からの波及効果の政策的含意

著者の計算では2000年~2006年の中国の国内産業の平均的なTFP成長率は毎年約10%であり、自らのR&D投資はその22%を、川上産業における外資生産活動からの波及効果は14%を説明している。TFPが労働と資本以外の他のさまざまな要因によるものであることを考慮すると、外資波及効果の寄与は重要であるといえよう。一方、特許申請数は平均成長率が約13%であり、内資R&D投資はその15%を、同一産業内の外資波及効果はその8%を説明している。これらの寄与はTFPの場合と比べると小さいものの無視できない大きさである。

本研究の分析結果は、外資企業による生産活動やR&D活動によって波及効果の影響先が異なること、同一産業内に限らず産業を超えた波及効果が存在することを示している。このように外資企業からの国内産業への波及の経路は多様であり、特定の産業に偏重した外資導入は波及効果を限定的なものにすることが示唆される。