2004年度主要政策研究課題

II. アジア経済統合の深化と新たな世界の不均衡

米国の膨大な対外赤字とアジアの巨額な外貨準備蓄積の下で、アジア統合の深化と両立する貿易、為替、構造調整政策を設計します。

(A) 膨大な米国対外赤字の原因と持続可能性

1. 米国の経常収支赤字の持続可能性と調整過程

代表フェロー

概要

米国の経常収支赤字は史上最大規模に達し、少なくとも一両年は引き続き高水準に留まる見通しである。かかる不均衡修正の時期・態様によっては、米国のみならず世界経済に多大は影響を与えるおそれがある。

本研究では、まず、米国を海外の貯蓄性向と収益率格差から導かれる「自然な」経常収支赤字幅を試算し、自然赤字幅修正済みの経常収支赤字に正の相関を持った為替下落期待形成の下でドル調整ハザード・レートを導く。

(B) アジアの産業内垂直分業ネットワークと世界の三角貿易構造

1. 日本企業の国際化研究会

代表フェロー

概要

1980年代半ば以降、日本企業の直接投資による海外進出が活発化した。日本企業による直接投資は日本企業の行動パターンに大きな変化をもたらしただけではなく、日本経済および日本企業が大量に進出した東アジア経済にも大きな影響を与えた。東アジア地域における自由貿易協定(経済連携協定)の締結が進んでいることを踏まえると、日本企業の国際化は今後も活発化していくことが予想される。

本研究では日本企業の海外活動の実態を明らかにするとともにその日本経済とアジア経済への影響を分析する。本研究の成果は今後の日本および東アジア諸国の貿易・投資政策および国内政策を立案するうえで有益な情報を提供する。

主要成果物

RIETIディスカッションペーパー

2. 東アジアを中心とした三角貿易構造に関する調査研究

代表フェロー

概要

東アジアにおいては、日本、NIEsが電気機械、輸送機械などの基幹部品を生産し、中国、ASEANがそれらの部品を輸入して最終製品へと組み立てる工程間の国際分業が進展している。更に、最終消費地である欧米へ組み立てられた最終部品を輸出することで三角貿易構造が成立し、世界経済の不均衡を発生させている要因の1つとなっている。

しかしながら、こうした工程間分業の進展を反映した貿易構造を分析する上で、生産段階に応じた貿易財の動向について観察出来る分類手法が存在しない。このため本調査においては、東アジアの貿易構造を分析する上で適当な貿易財の分類「貿易産業分類」を作成し、貿易財を通じた工程間分業の分析に役立つインフラとなるデータベースを構築する。

更に、このデータベースを活用して、三角貿易構造に占める各国の位置づけ(補完性、競合性など)や三角貿易の持続性(中国の経済成長、技術的キャッチアップがもたらす影響、世界的な貿易不均衡に与える影響)などについて調査する。

主要成果物

  • 貿易関連データベースを構築(ウェブサイトで公開予定)

(C) 世界的貿易不均衡の是正に向けたアジアにおける調整政策のあり方

1. 中国の金融サービス貿易の自由化と資本規制の有効性

代表フェロー

概要

中国は、WTO加盟によって金融部門を外国との競争に開放しつつある。銀行業務の性質上、外国銀行の取引は、中国の資本移動のパターン、そしてその結果としての中国の資本管理の有効性に直接影響を与えるだろう。それどころか、外国銀行の参入は現行の資本管理体制の有効性を低め、資本勘定の交換性が事実上実現されることになるという印象が一般化しつつある。

本プロジェクトは、こうした問題を政策的観点から研究することをめざしている。第1に、金融サービス貿易の自由化と、それがホスト国における国内の金融自由化および資本管理に与える影響の関係について、中国のケーススタディーという形で検討する。第2に、中国と香港の資産利回りについての金利裁定の条件を検証することによって中国の現在の資本管理体制の有効性を実証的に分析する。

この研究の実証分析から得られた知見が、地域の経済的統合が進むという状況下における中国の外国為替制度の将来の調整や制度設計に光をあてることを期待している。

主要成果物

RIETIディスカッションペーパー

RIETI政策シンポジウム

2. 東アジア貿易投資構造の分析

代表フェロー

概要

米国の大きな経常収支赤字と日本を含む東アジア全体の経常収支黒字という新しい世界的経常収支の不均衡の姿は、一方ではその中に世界貿易の三角関係を抱え、他方ではアジア地域での急激なドル外貨準備の蓄積が米国での金利形成にも影響を及ぼす状況を生んでいる。

そこで、このような新たな世界的不均衡の性格やsustainability(持続可能性)を分析し、今後予想される不均衡の調整過程、つまり為替レートの調整、金融・財政政策のあり方、構造改革の推進が、東アジア地域全体の経済統合の進展にどのようなインパクトを持つことになるのか、を明らかにし、世界的な不均衡を克服して、アジア経済の健全な成長を維持していくための具体的な経済政策を検討する。

主要成果物

RIETIディスカッションペーパー

RIETI政策シンポジウム

3. 東アジア経済における通貨切り上げの影響に関する計量分析

代表フェロー

主要成果物

  • 継続プロジェクトにつき、引き続き研究を実施中

4. 中国経済新論

代表フェロー

概要

中国経済が躍進し、日中の経済関係が深まる中で、政府の政策立案や企業の経営者にとって、中国経済の変貌を正確に理解することが重要となっている。

「中国経済新論」では、サイトの特徴である即時性を活かしたタイムリーな情報発信を行う。コラム「実事求是」では、人民元の行方、景気過熱、金融リスクといったホットな話題を取り上げ、日本語・中国語・英語にて公開する。また、中国人研究者による分析と提言を和訳し紹介する。サイトを通じて中国経済、そして日中経済関係の姿を発信し続けることで、日中間に横たわる不信の解消に努める。

主要成果物

RIETIディスカッションペーパー

経済政策レビュー

(D) 国内金融制度の発達と整合的な為替レート体制のあり方

1. アジアにおける最適な為替レートレジーム

代表フェロー

概要

アジア通貨危機(1997?98年)の原因の1つに、アジアの通貨制度が、ドルペッグであったことがあげられている。ドルペッグでは、貸し手である海外の投資家、借り手である国内の金融機関や企業が、国境を超える資本移動に為替リスクがない、と考えるため過大な資本流入が起きたことが、危機の原因の1つであったと考えられている。

この問題の再発を防止するには、アジアの通貨制度を改革して、より弾力的な管理されたフロート制に移行することが、望ましい。しかし、具体的にどのような参照値をもとに為替政策を運営することがよいのか、アジア各国同士はどのように、為替政策で、協調、協力すべきなのか、などについては、いろいろな研究や提言が出されてはいるものの、いまだ、研究者、政策担当者の間で合意には至っていない。

有力な選択肢は、(1)日本を除くアジアの国が、円(YEN)・ユーロ(Euro)・ドル(Dollar)の3通貨のバスケット価値を参照値として(そこから、あまり乖離しないように)為替政策を行う、というYESバスケット制、(2)日本を含むアジア諸国が、お互いの通貨価値があまり変動しないような共通バスケット為替制度を採用する(この場合は、どれだけの国が参加するかの参加国の範囲が問題になる)、である。

本研究では、いくつかの選択肢の中から、最適である制度、参加国の範囲を見つけ、バスケットの中の通貨の最適ウェイトの計算を行うことを目的としている。

主要成果物

RIETIディスカッションペーパー

RIETI政策シンポジウム

(E) 制度的補完性に関わる問題-企業と政府の統治

1. 貿易と農業(食品の安全性)

代表フェロー

概要

牛海綿状脳症(BSE)の発生後、国民・消費者の食品の安全性に対する関心は高まっている。WTO・SPS協定は食品や動植物の検疫措置が国際貿易を意図的に制限する目的で運用されないようにすること等をねらいとしているが、貿易の利益が生命・健康といった利益に優先しているという批判が先進国の消費者からなされている。

食品の安全性について、どのような食品の輸入規制が保護貿易の隠れ蓑なのかまたは合理性があるのか(消費者需要の違いによる合理的な各国規制の差、検疫措置を産業保護として活用する意図)を分析するとともに、貿易への影響を最小にしつつ各国の経済厚生水準を最大化するための貿易ルールの改善を提言する。分析・研究手法は"貿易と環境"に同じ。

主要成果物

RIETIポリシーディスカッションペーパー

RIETIディスカッションペーパー

経済政策分析シリーズ

RIETI政策シンポジウム

2. 多角的貿易体制の現状と展望

代表フェロー

概要

世界貿易機関(WTO)の新ラウンド停滞は、保護主義の勃興と、地域主義の台頭の反面、多角的貿易体制の維持・強化に対する各国の意欲が減退したかのごとく捉えられる。

本プロジェクトは、このような多角的貿易体制を促進・強化する上での限界がみえてきた現状を明らかにし、更に新たな多角的貿易体制の在り方について検討し、中長期的に日本がなし得る貢献を念頭に置きつつ、各種政策的課題について考察する。

具体的には、まず総論的に、多角的貿易体制の置かれた現状と課題を国際経済学、国際政治学、および国際法学の3つの社会科学の方法論から分析・提示する。
続く各論的検討として、地域経済統合とWTOのインターフェイス、市民社会のWTO参加、日本の通商政策決定過程、紛争解決手続の履行問題、途上国の一層のWTOシステムへの参加問題等を議論し、問題解決の「処方箋」と我が国のラウンド参加への方向性を示す。

主要成果物

RIETIディスカッションペーパー

3. WTO紛争解決手続きにおける履行問題

代表フェロー

概要

世界貿易機関(WTO)の紛争解決手続は「司法化」(juridification)を達成したといわれ、より精緻な国内裁判手続に近いものとなった。しかしながら他方で、パネル報告書の採択が実質的に自動化し、旧GATT時代のようにその内容に不服のある当事国が採択をブロックすることができない現在、政治的に履行・実施が困難な案件(米・EC間のホルモン牛肉事件、バナナ事件等のいわゆる大西洋横断案件、ブラジル・カナダ間の民間航空機補助金紛争、鉄鋼関連の日米案件など)がクローズアップされている。

本プロジェクトは、このような履行が難航する「居座り」案件を中心に履行プロセスに特徴のある個別案件を取り上げ、国際法および国際関係論の視覚から、履行を阻害(あるいは促進)する要因の分析を試み、問題解決の糸口を探る。以て、新ラウンドにおける紛争解決手続改正交渉への政策提言となることを目指す。

主要成果物

RIETIディスカッションペーパー

経済政策分析シリーズ

4. 貿易と環境

代表フェロー

概要

貿易の利益と環境の利益をどのように調和していくかは、国際通商上の大きな問題である。しかし、これまでWTO交渉でルール・メイキングの議論を長年やってきたにもかかわらずほとんど成果をあげておらず、本来政治的・立法的解決が望ましいにもかかわらず紛争処理手続きにより司法的解決が図られているのが現状である。このため、貿易と環境に関する論点・課題の整理・分析を行うとともに、新たなルール設定に関する提言を行う。

分析・研究方法としては、まず経済学的にどのような措置が望ましいかを検討した後、それを実現するためにはWTO上どのような解釈を採ればよいのか、解釈で対応できない時どのような立法措置(交渉上の提案)を採るべきかを法学的な観点から議論する。

主要成果物

RIETIディスカッションペーパー

(H) 開発国家の評価と新しいガバナンスのあり方

1. アセアン諸国の民主主義体制下におけるテクノクラシー

代表フェロー

概要

東南アジア、特にタイ、フィリピン、インドネシアではかつての権威主義的開発体制が過去のものとなり、またマレーシアにおいてもマハティール首相の退陣、バダウィ首相の登場とともにソフトな権威主義体制への移行がはじまっている。こうしたなか、かつて開発主義体制下においてマクロ経済政策、経済開発政策を領導したテクノクラシーも、民主化と1997?98年の経済危機を契機として、大きく変容しつつある。それはタイにおける四省庁体制の崩壊、フィリピンにおける議会優位の予算編成プロセスの成立、スハルト体制崩壊以来のインドネシアにおける国家計画・予算編成体制の変容に見る通りである。

主要成果物

RIETIディスカッションペーパー