Research & Review (2007年7月号)

東アジアの地域金融協力とAMU

小川 英治
一橋大学大学院商学研究科教授・経済産業研究所ファカルティフェロー

1997年7月にタイ・バーツ危機に始まったアジア通貨危機が発生してから今年の7月でちょうど10年が経った。アジア通貨危機の経験から地域金融協力が必要であるという重要な教訓を得ることによって、この10年間に東アジアの地域金融協力がASEAN+3(日中韓)の13カ国で進められている。その地域金融協力は、チェンマイ・イニシアティブ(CMI)とアジア債券市場に関するイニシアティブ(アジア債券市場育成イニシアティブとアジア債券基金イニシアティブ)から構成されている。CMIにおいては、通貨危機に直面した際に外貨を貸し借りする通貨スワップ取極のネットワークが構築された。この通貨スワップ取極は通貨危機が発生してから発動されるために通貨危機管理を目的としたものである。先日の5月5日に京都で開催されたASEAN+3財務大臣会議で通貨スワップ取極の総額を800億ドルにすることが決まった。

通貨危機管理とともに通貨危機防止も重要であることから、通貨危機防止を目的とするサーベイランス(相互監視)としてCMIの下でASEAN+3財務大臣代理会合にて「経済レビューと政策対話(ERPD)」と呼ばれる域内経済サーベイランスが行われている。但し、このサーベイランスは、GDPやインフレ率などの国内マクロ経済変数や金融セクターの健全性に焦点が当てられていて、通貨危機に最も関係する為替相場についてはその対象となっていない。

ASEAN+3財務大臣会議において、ASEAN+3リサーチグループが毎年、立ち上げられ、東アジア地域金融協力の強化のための政策課題が研究検討されている。そのリサーチグループにおいて、サーベイランスにおいて為替相場がその対象外となっていることを問題視し、サーベイランスにおいて為替相場に注視することの必要性が主張されている。2006年5月のハイデラバードASEAN+3財務大臣会議では、アジア地域の一層の金融安定に向けた地域通貨単位構築の手順の研究が2006-2007年の研究トピックの1つとして取り上げられ、2007-2008年においても引き続き、研究が進められることになっている。

地域通貨単位の研究については、アジア開発銀行(ADB)によってアジア通貨バスケットから構成されるアジア通貨単位(ACU)が検討されている。一方、伊藤隆敏経済産業研究所ファカルティフェローが主査をしている『アジアの最適為替制度』プロジェクトにおいて、筆者と清水順子委員とともに地域通貨単位としてアジア通貨単位(Asian Monetary Unit:AMU)及びサーベイランス指標としてAMU乖離指標を計算し、発表している

AMUの構成通貨としてASEAN+3の13カ国通貨を想定する。また、ウェイト付けについては、直近3年間(2001年~2003年)の購買力平価(PPP)で測ったGDPと貿易量(輸出量+輸入量)の単純平均値を利用する。ウェイト付けの選択の基準としては、域外貿易、すなわち、ASEAN+3の対米・対ユーロ圏の貿易ウェイト(米ドル:ユーロ=65%:35%)で加重平均した米ドルとユーロの通貨バスケットに対してAMUが、購買力平価(PPP)で測ったGDPや貿易量の他に名目GDPや国際準備残高のなかで、最も安定するものを選択した(Ogawa and Shimizu(2005)を参照のこと)。AMUの推計は、ユーロ導入以前のEMS時代の欧州通貨単位(European Currency Unit:ECU)の計算方法に従う。

各国通貨のAMUからの乖離指標は基準時において乖離率を0%として、次式に従って、乖離指標を計算する。

式

乖離指標を示すためには基準時を決める必要がある。1990年以降において、域内の貿易収支及び域外との貿易収支が最も均衡状態に近い年は2001年であった。為替相場が貿易収支に影響を及ぼすまでのタイムラグを考慮に入れて、2000年と2001年の2年間を基準時としている。

図には、基準時(2000年と2001年の2年間)に比較して、AMUから各国通貨がどれほど乖離しているかを表す名目AMU乖離指標の動向が示されている。この図を見ると、近年、東アジア通貨の間で乖離が拡大していることがわかる。韓国ウォンが2005年初から過大評価されている。そして、2006年末にタイ・バーツが過大評価される方向に急激に動いたことも特徴的である。一方、ラオス・キップが2005年5月に大きく切下げられ、過小評価されているほか、最近、ベトナム・ドンがじわじわと過小評価の方向に動いている。直近では、東アジア通貨の間で基準時に比較して最大50%弱の乖離が発生していることがわかる。

今後のAMU及びAMU乖離指標の研究プロジェクトは、サーベイランスを目的とする地域通貨単位のみならず、民間の取引のために、特にアジア債券の表示通貨としての地域通貨単位に関して発展させることを計画している。

脚注
  • *AMUとAMU乖離指標は、一橋大学21世紀COEプロジェクトと経済産業研究所(RIETI)の共同プロジェクトである。AMUとAMU乖離指標のデータは毎週、RIETIのウエブサイトで更新されている。
文献

2007年7月24日掲載

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