ブレトンウッズ体制の崩壊後、基軸通貨を制度上規定する国際ルールが存在しない現在の国際通貨システムにおいて、長年にわたって趨勢的に通貨価値が減少してきた米ドルが、事実上の基軸通貨として最大シェアを占める国際決済通貨となっている。その事実を踏まえると、通貨にとっては価値貯蔵手段としての機能よりも交換手段としての機能が重要であることが示唆される。その理由には、交換手段としての機能はその信頼性に基づいて一般受容性に依拠し、ネットワーク外部性が働くためである。いったん基軸通貨として世界経済取引の決済において支配的なシェアを占めた通貨は、需要サイドからその地位が維持される。これが基軸通貨における慣性の法則と呼ばれる。Ogawa and Muto (2017a, b)は、米ドルの基軸通貨としての地位はその流動性に大きく依存していることを実証的に示した。これらを考慮すると、俄かに登場した仮想通貨が既存の通貨に対抗し、匹敵する交換手段としての機能を有することは難しい。
Ogawa, Eiji and Makoto Muto, "Inertia of the US Dollar as a Key Currency through the Two Crises," Emerging Markets Finance and Trade, Vol. 53, Issue 12, 2706-2724, 2017a.
Ogawa, Eiji and Makoto Muto, "Declining Japanese Yen in the Changing International Monetary System," East Asian Economic Review, Vol. 21, No.4, 317-342, 2017b.
Yermack, David, "Is Bitcoin a Real Currency? An Economic Appraisal," in David Lee Kuo Chuen ed., Handbook of Digital Currency - Bitcoin, Innovation, Financial Instruments, and Big Data, Elsevier, 31-43, 2015.