民主党改革-業界への影響
農業

山下 一仁
上席研究員

民主党による農家への戸別所得補償政策が農業にどんな結果をもたらすか。201X年の事業仕分け会議の形を借りて、予想してみた。

仕分け人A 農家への戸別所得補償政策関連の予算が予想を上回って増加しているようですが、説明してください。

農水省 コメについては、減反を進めていますが、高齢化や人口減少で消費量が減っているので、毎年米価が下がっています。米価が下がっても生産費との差を戸別所得補償として交付します。2009年では約3400億円と見込んでいましたが、これまで米価が1割下がったので5000億円に増加しました。減反補助金の水田利活用自給力向上事業では、麦や大豆を作付けた場合には10アール当たり3万5000円ですが、米粉や餌米などにはこれらの用途向け米価が低いので8万円を交付することにしたため、減反農家のほとんどが麦や大豆よりも米粉や餌米用にコメを作付けしました。このため、当初見込みの2000億円が7000億円に増加しました。麦や大豆などについては、食料自給率向上のため、農家が増産することを条件に所得補償することにしていますので、自民党時代の2000億円から3000億円程度に増えました。

仕分け人B トータルで1兆5000億円強ですね。この金はどこから捻出したのですか。

農水省 農業の生産性向上や体質強化のための試験研究費や基盤整備の予算などを切りました。

仕分け人C この金額は減額できないのですか。

農水省 零細農家も今まで以上の農業収入が得られるので、農業を続けます。しかも、農地を貸して地代をもらうよりも戸別所得補償でコメを作るほうが儲かるので、今まで主業農家に貸していた農地を零細農家が貸しはがす状況が出てきています。いったん農業をやめた高齢者も復帰しています。農業で生計を立てている主業農家の経営規模は縮小しました。稲作経営はいっそう零細になったので、生産費は上がっています。上がる生産費と下がり続ける米価の差を支払うこととしているので、金額は増える一方です。麦などの畑作物もマニフェストで完全自給を目指すとしているので、これも増える一方です。

仕分け人D WTO(世界貿易機関)との関係はどうですか?

農水省 ドーハラウンドで許容された上限を超えていますので、米国などに訴えられる恐れがあります。

事業仕分け会議議長 価格を下げて所得補償に切り替えたEUと違って、減反補助金によって実現してきた高米価という消費者負担に、所得補償という財政負担を上乗せするという、世界にもまれな農家保護政策であります。農業の構造改革も後退してしまいました。再考する必要があります。

× × ×

しかし、農村が民主党の票田として組み込まれたその時となっては、戸別所得補償政策の見直しは難しいだろう。

週刊エコノミスト臨時増刊12/21日号「キーワード予測2010」に掲載

2009年12月18日掲載

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