戦後農政の特徴は、高い米価で農家所得を確保しようとしたことだ。高米価政策によって、非効率でコストの高い零細な兼業農家も、町で高いコメを買うよりも、自らコメを作ったほうが有利となり、農村に滞留した。米価引上げで、消費は減り、生産は拡大し、コメは過剰になった。1970年から40年間もコメの生産を減らして高い米価を維持するという減反政策を続けている。しかも減反に参加させるために、毎年農家に2000億円、累計で7兆円に上る補助金を政府が出してきた。納税者の負担によって消費者に高い米価を負担させるという二重の国民負担を強いる政策だ。しかも、民主党政府は、自民党政府が2009年度補正予算で大幅に拡充した減反補助金を、10年度以降も本予算で交付する(水田利活用持久力向上事業2171億円)としている。
07年の参議院選挙と2009年の総選挙で民主党がマニュフェストに掲げた政策が農家への戸別所得補償政策である。民主党政府は、2010年度にコメについて実施し、11年度からは麦や大豆についても実施するとしている。コメでは、減反に参加するほとんどすべての農家に生産費と農家販売価格の差を補償するとしている。60キログラム当たり、農家のコメ生産費は1万6412円(07年度)に対し、農家のコメ販売価格は1万2000円程度である。農家の販売価格が生産費を下回っているのに生産されるのは、これが架空の生産費だからである。肥料や農薬、農業機械、地代など本当の経費は9400円。それに、農村での建設業や製造業などの労賃を稲作の労働時間にかけて農水省が計算した労働費約5000円などを、足し上げたのが生産費である。民主党は労働費の8割しかみないとしているが、それでも生産費は1万5500円程度となる。これと1万2000円の差に単収をかけて面積あたりに換算したものが戸別所得補償の単価となる。これは過去の期間のデータで計算されるが、その年の価格が下がれば、補償額はその分増額される。農家は、戸別所得補償を受ければ、現在のコメ販売価格を上回る所得が得られる。
従来交付されてきた減反面積への補助金が拡充されたことに加えて、減反に参加した農家には、コメ作付面積の部分についても戸別所得補償が支払われるので、減反すれば以前よりも所得は増える。減反はいっそう強化され、国民負担は増加する。
週刊エコノミスト臨時増刊12/21日号「キーワード予測2010」に掲載