1960年から2005年まで、GDPに占める農業生産は9%から1%へ、農業就業人口は1196万人から252万人へ、総就業人口に占める農業就業人口の割合は27%から4%へ、農家戸数は606万戸から285万戸へ、食料自給率は79%から40%へ、いずれも減少した。食料安全保障に不可欠な農地も609万ヘクタールから463万ヘクタールへ大きく減少した。他方、兼業所得の比重の多い第2種兼業農家は32.1%から61.7%へ、65歳以上の高齢農業者は1割から6割へと大きく増加した。
フランスでは、農家戸数は大きく減少したものの、耕地面積の減少はわずかであったため、農家の経営規模は拡大した。我が国で増えている数字は、フランスではパート・タイム・ファーマーといわれる兼業農家のシェアと高齢農家の比率だ。
06年の農業総産出額は8.5兆円である。これはパナソニック1社の売上額約9.1兆円にも及ばない。06年の農業のGDP(国内総生産)は4.7兆円だ。しかも、関税や価格支持等によって守られたところが大きく、OECDが計測した日本の農業保護額は5兆円弱だ。つまり、農業保護がなければ農業のGDPはゼロとなってしまう。
グローバル化と人口減少が、今後の農業を規定する。
WTO(世界貿易機関)交渉で、わが国は関税引下げの例外品目を広く認めるよう交渉しているが、代償として低関税の輸入割当量(ミニマム・アクセス)の拡大を要求される。国内の米生産量は850万トンだが、ミニマム・アクセスは現在の77万トンから消費量の13%に相当する120万トン以上に拡大する。
これは食料自給率を低下させるばかりか、農地資源も減少させる。政府が食料自給率を低下させてまでも守ろうとしているのは、米の778%に代表される高関税であり、それが守っている高い農産物価格である。
1人当たりの米消費量は過去40年間で半減した。これまでは総人口は増加したが、今後、米の総消費量は、高齢化による1人当たりの消費量減少と、人口減少の二重の影響を受ける。
2050年頃に米の総消費量が、今の850万トンから350万トンになれば、減反は200万ヘクタールに拡大し、米作は50万ヘクタール程度ですんでしまう。これにミニマム・アクセスの拡大が追加されると、30万ヘクタール程度で済むことになる。その結果、日本農業は大幅に縮小し、農地資源も大きく減少する。
1960年代以降の生産者米価引上げによって、コストの高い零細な「兼業農家」も、高い米を買うよりも自ら米を作るほうが得になり、農業を続けてしまった。零細な兼業農家が農地を手放さなかったため、農地は農業だけで生活していこうとする農家らしい主業農家に集積されず、規模拡大による米農業の構造改革は失敗した。
食管制度廃止以降も米価は減反によって維持され、農家をこれに参加させるために、年間約2000億円、累計総額7兆円の補助金が支払われてきた。
単位面積あたりの収量(単収)を向上させればコストが下がるが、総消費量が一定の下で単収が増えれば減反面積をさらに拡大せざるをえなくなり財政負担がかさむ。
このため、単収向上のための品種改良は技術者の間ではタブーとなってしまった。コストが下がらないので主業農家の収益は向上しなかった。
民主党の「戸別所得補償」政策とは、減反参加農家に生産費と米価の差を、政府から補填しようとするものである。この最大の問題は、減反参加農家の大半が、コメの生産拡大意欲を持たない人たち、すなわち零細な兼業農家になる可能性が高いことである。
米価が下がっても財政からの補填で、現在の米価水準を保証してしまえば、彼らは農業を続けてしまう。これでは、主業農家に農地は集まらず構造改革効果は望めない。零細農家温存というこれまでの農政の繰り返しである。兼業農家の票が欲しいのは自民党も民主党も同じだからである。
正しい政策は、減反の廃止による価格低下と、主業農家への直接支払いである。減反をやめて価格が下がれば、高いコストで生産している零細な兼業農家は農地を貸し出すようになる。主業農家に政府から直接支払い、という補助金を交付して地代負担能力を高めれば、農地は主業農家に集まり、主業農家の規模が拡大し、コストは低下する。こうして日本の米の価格競争力が高まれば、アジア市場に輸出できるようになる。
これは人口減少時代に日本が食料安全保障を確保する道である。平時には米を輸出してアメリカ等から小麦や牛肉を輸入する。食料危機が生じ、輸入が困難となった際には、輸出していた米を国内に向けて飢えをしのげばよい。こうすれば平時の自由貿易と危機時の食料安全保障は両立する。
というよりも、人口減少により国内の食用の需要が減少する中で、平時において需要にあわせて生産を行いながら、食料安全保障に不可欠な農地資源を維持しようとすると、自由貿易のもとで輸出を行わなければ食料安全保障は確保できないのである。減反の維持や緩和も食料安全保障を危うくする。
内外ニュース社発行「世界と日本」1861号に掲載