グローバル化と人口減少時代の農業技術開発戦略

山下 一仁
上席研究員

WTOやFTA交渉で関税の大幅な引下げが求められている。これまで我が国農業は関税に裏付けられた高い価格で農業を保護してきた。そのやり方が通じなくなって来ているのである。いずれ価格を下げざるを得なくなる。そうするとコストの高い日本の農業は成り立たなくなる。

また、少子高齢化の人口減少時代が到来する。1人当たりの米消費は40年間で半分になった。単純にあと40年でゼロになるとは考えられないにしても大幅に減少する。人口が高齢化すると、さらに1人が食べる量も減ってしまう。米の総消費量は人口減少以上に減少してしまうのだ。もし、2050年に1人当たりの米消費が現在の半分になり、人口が1億人になったとすると、米の総消費量は、現在の900万トンから350万トンへ大幅に減る。2050年に今の米価水準を維持しようとすると、単収もわずかながら増加するので、270万ヘクタールの水田の8割にあたる220万ヘクタールの生産調整を行い、稲作面積を現在の3分の1以下の50万ヘクタール程度まで縮減しなければならない。大幅な農業の縮小である。

しかし、米の需要は食用の米だけではない。米価を下げれば、エサ米、生分解性プラスティックやエタノール原料用等の新規需要も取り込むことが可能となり、米の消費は増加する。我が国がエサ用に輸入している穀物は1600万トンにも及ぶ。

グローバル化と人口減少時代に対処するための答えは簡単である。コストを下げ、低い価格でも利益がでるようにするとともに、食料以外の需要を取り込めばよいのだ。しかし、不幸なことに、生産調整を続け米価維持に血道を上げることが農業の滅亡につながることに誰も気づかない。コスト削減の1つの方法は農地集積による規模の拡大である。これは経済政策である。もう1つの道が技術革新によるコスト削減である。

国際経済学の最も基本的な理論の要点は「ある国は、その国に相対的に豊富に存在する生産要素を多く使う(集約的に用いる)財に比較優位を持ち(輸出し)、そうでない財に比較劣位を持つ(輸入する)」というものである。日本が農業に比較優位を持つことができないのは、農業が土地という生産要素を多く使用する産業であるにもかかわらず、労働や資本といった生産要素に比べて日本に土地の量が相対的に少ないためである。これが、土地に恵まれたアメリカが農産物輸出国となり、我が国が輸入国となることの経済学的な説明である。しかし、この理論は、各国とも同じ技術を用いるという前提の上に立っている。農業の比較劣位を解消していくためには土地の制約の少ない土地節約型の技術進歩を推進していけばよい。

それはまず品種改良等による収量の向上である。1kg当たりのコストは10a当たりのコストを10a当たりの収量(単収)で割ったものである。したがって、分母の単収が増えればコストは下がる。特にエサ米や工業用米には食味にこだわらない多収米の開発が必要だ。また、肥料や農薬等の改良によって分子の10a当たりのコストを減らすことも考えられる。我が国の規模に応じた適正な農業機械技術の開発も必要となろう。

このような方向での技術開発が日本農業の存続に必要なのだ。しかし、生産調整の強化をおそれ米の単収向上をタブー視してきたために、逆にカリフォルニア米の単収が我が国の単収を3割も上回るという状況になっている。生産調整は米価維持のためだった。しかし、グローバル化も人口減少時代も農産物価格を下げるという方向への農政の大転換を求めているのである。目先のことではなく先を見た農政が必要となっている。適切な技術政策が適切な経済政策と結合すれば日本農業にもまだ望みがある。

テクノ・イノヴェイション“STAFF"no.58に掲載

2006年3月27日掲載

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