門戸開け株式会社の農業参入

山下 一仁
上席研究員

現在農地を所有・賃借できるのは農家やせいぜい農家を主なメンバーとする法人に限られています。これは農地法が自作農を作り出した農地改革の成果を維持することを目的にしているからです。

しかし、農業従事者数は年々減少、高齢化し、耕作放棄される農地は増える一方です。このため、一般の株式会社にも農地の所有・賃借を認め、農業に参入させるべきだという議論が起こってきました。既に養豚など、土地を利用しない農業では株式会社が活動しています。

他方で、農業団体は農地法の今の制度を維持すべきだと主張しています。このため、昨年4月から耕作放棄が多い構造改革特区に限り、株式会社が自治体から耕作放棄されている農地を借り、農業に参入することを認めるようになりました。

現在64の特区で食品加工業、外食産業、地場の建設業者、都市・農村交流のためのNPO(民間非営利団体)法人などが参入しています。

食糧安保に不可欠

今回、農林水産省はこの農地借入れ方式を特区に限らず、全国展開することとしました。

これは戦後の農地改革の成果をかたくなに維持してきた農地法に風穴を開けるという点で、大きな前進です。

しかし、農業団体に遠慮したのか、耕作放棄農地に限り、かつ所有は認めないという限定があります。一般の株式会社は採算が合わなくなれば農地の転用や耕作放棄を行うというのが農業団体の主張です。61年に609万ヘクタールあった農地のうち農地改革で小作人に開放した194万ヘクタールを上回る230万ヘクタールが転用・改廃されました。

転用や耕作放棄をしたのは、ほかならぬ農家です。ヨーロッパでは都市的地域と農村地域の区分け(ゾーニング)がしっかりしています。農地を農業以外に使うのは許されないのです。日本にも農地法による転用規制、農振法によるゾーニングはありましたが、適切に運用されなかったため、農家は農地の切り売りによって大きな転用利益を得ました。食料安全保障に不可欠な農地資源を守るため、これらの法律を適切に運用し、確固たるゾーニングを確立するのならば、もっと広く株式会社の参入を認めてよいのではないでしょうか。

義務の徹底を

また、株式会社参入の反対論の論拠に産業廃棄物の不法投棄が起きるというものもあるそうです。経済政策の基本は問題の源に直接対処すべきというものです。この問題には廃棄物処理法で産業廃棄物不法投棄のコスト(罰則)を高くすれば良いのではないでしょうか。農林水産省や農業団体はそのための運動を起こすべきです。農地制度でも農地を農地として利用する義務を徹底すればよいのです。

農地改革の担当課長だった小倉武一(元農林事務次官、政府税調会長を25年務める)は「農本主義は生きている」(1967年)の中で、株式会社参入反対に理由がありそうなものとして、農地改革の基礎にあった(1)「土地均分の思想」と(2)家族経営の維持ないし擁護との関係-を挙げ、いずれも農本主義の系譜に属するとし、(1)は農業の構造改善、(2)は農業の近代化、企業化と矛盾すると述べています。

制度的、理念的に株式会社が認められないというものではないでしょう。

2004年12月27日 『フジサンケイビジネスアイ』に掲載

2005年1月14日掲載

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