農協と農政改革

山下 一仁
上席研究員

規模拡大意欲を持たない兼業農家にとって高い米価の維持は所得確保のため望ましい。農業から退出しようとする兼業農家は農地切売りで勤労者がうらやむ利益を得た。高米価、農地売却、兼業という3種の神器による所得向上を農協は代弁した。しかし、兼業農家の滞留や農地切売りは主業農家の規模拡大や農業所得の増加を阻害し、農業は衰退した。

農協は農政改革で対象農家を主業農家に限定することに反対し、集落営農や多様かつ幅広い担い手を対象とするよう求めている。主業農家が一戸もない水田集落が50%もあるからとか、零細分散錯圃では主業農家に農地を集積してもコストは下がらないからだという。主業農家が育たないようにし、分散錯圃状態で兼業農家を滞留させたのは誰なのだろうか。主業農家がいないから対象としないのではなく、主業農家を育成するのが政策である。主業農家が少ないことはかえって少ない農家に農地を集積でき零細分散錯圃を解消できるチャンスだ。集落営農を実施している水田農業集落は12万集落のうちわずか1671集落、1.4%に過ぎない。農協の議論だと集落営農を対象とすることもとんでもないことにならないか。

これからは集落営農による日本型構造改革だという。農業基本法の構造改革に対し"営農団地"という独自のスローガンを持ち出して協力しなかったのと同じである。その後このスローガンが真剣に議論されたようでもないし、私が中山間直接支払いで集落協定といった時にも全く関心を示さなかった。集落営農と言い出したのは2001年農水省が経営安定対策で対象を担い手に絞ろうと言い出したときである。農協の集落営農論は構造改革に対するアンチテーゼなのだ。しかし、担い手のいない集落営農は機能しない。中山間直接支払い制度の基本は"農地は集落で、農業は担い手で守る" という考え方である。

1人1票のもとで圧倒的多数を占める兼業農家主体の農協運営がなされてきたため、主業農家の心は農協から離れている。農業雑誌の最近号で全中の課長を前にして主業農家から「農協の改革を促しているが、農協は内側からは変われない」「改革になるのならよいが、このままでは解体になるのでは...」「農協が経営の合理化をするなら積極的に大型の担い手を育成して経営に取り組まないと」「零細農家さえホームセンターから資材を買うようになってしまう」という発言がなされた。農協にとって担い手は兼業農家だった。農協の担い手も農業の担い手に一致させなければ近い将来農協自身消滅するのではなかろうか。民主党のバラマキ農政プランのせいで自民党候補が落選したことが今回の活動の政治的な背景だという報道があるが、今回落選した2人の候補の得票数17万票は前回の自民党候補の得票数と変わらない。農家戸数300万戸、農協職員26万人もいながら、17万票しか獲得できないことは兼業農家(ひょっとすると農協職員)の心さえ農協から離れていることを示していないだろうか。農協改革も同時に必要な気がしてならない。

2004年11月25日号 『週刊農林』に掲載

2005年1月6日掲載

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