中国、ますます困難となる格差是正

山下 一仁
上席研究員(特任)

不動産不況に象徴されるように中国経済が失速している。そして、そうした低迷のなかで、中国には長年指摘されながら十分に解決できていない問題も見過ごせなくなってきた。平等な社会主義を標榜しながら、日本以上に深刻な格差の存在である。

特に、最近やや改善されているものの、依然農村部の1人当たり所得は都市の5分の2に過ぎないという都市と農村の深刻な格差がある。これはかつて都市や工業を発展させるため、農業に課税したり、食料となる農産物の価格を低くして労賃を抑えようとしたりした政策などの結果だ。

終戦後の日本も同じだった。1953年まで米価は国際価格より低く設定され、政府は高い輸入農産物に補給金をつけて安く国民に販売していた。しかし、様々な格差が表面化したころに作られた60年の「国民所得倍増計画」は、所得だけでなく格差にも対応しようとした。農業と工業の所得格差の是正のため農業基本法が制定され、農業保護政策に転換した。都市と地方の格差を是正するため新産業都市建設促進法による地方への工場分散が推進された。

これは成功した。しかし、国内総生産(GDP)における工業の比重が低下し、外食や観劇のように消費と生産が同じ時に同じ場所で行われる特徴を持つサービス産業の比重が高まるにつれ、人の少ない地域の活性化は困難となっている。人口は大都市や地方の中核都市に集中し、そこでサービス産業が発展する。

10年ほど前、中国の国家発展改革委員会の人たちは、日本の過去の地域振興政策に関する私の報告を熱心にメモしていた。ただ、産業構造が変化すれば工場分散の効果は薄れるうえ、若者の失業という新たな格差も生まれている。高成長が終わった中国は格差にどう向き合うのだろうか。

2023年12月5日 日本経済新聞(夕刊)「十字路」に掲載

2023年12月19日掲載

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