ムーアの法則
主にハイテク産業が効率的にイノベーション(技術革新)を続けるには技術ロードマップの活用が有効だ。これは、1つの業界を形成するさまざまな企業が技術を高めるために実行すべき研究開発(R&D)計画の見取り図である。具体的な技術や開発時期のめどを示す。情報技術(IT)関連業界で語られる「ムーアの法則」も技術ロードマップの一形態だといえる。米国の大手半導体メーカー、インテルの創業者の一人であるゴードン・ムーア氏が提唱した法則で、「18カ月ごとに半導体の集積度が二倍になる」という内容だ。
ムーアの法則は単なる現象の解説ではない。半導体の開発技術が微細化・高度化するなか、関連企業群に開発すべき具体的な技術段階と達成期限を明示し、それに向かって努力を集中させるのが狙いだ。
インテルは独自の技術ロードマップを持ち、進ちょく状況を点検する。将来の技術革新を予測し、モジュール(かたまり)部品を供給するさまざまな企業にも開発を競わせている。
3週間ごとに見直し
米国のある大手半導体製造装置メーカーも独自のマップを持つ。先端技術の現状を点検しながら、三週間ごとに内容を見直し、自社の技術水準がマップ上のどの位置にあるのかを確認する。状況に応じたマップの更新は競争力の向上に不可欠な努力である。
技術ロードマップは、企業が激しい国際競争を生き抜くために携えるべき羅針盤だともいえる。ここで留意しなければいけないのは、企業が技術ロードマップに振り回されないようにすることだ。
日本の多くのハイテク企業は分野ごとに米欧企業と共同作成した技術ロードマップを持つ。だが、これとは別に独自のマップを持つ企業は少なく、最先端の米企業が個別に作るマップを強く意識する。米企業は独自のマップを公表しない。日本企業は米企業の新製品などから、その内容を推測する。
開発のコスト見極め
パソコン業界を例にあげよう。パソコンの心臓部である中央演算処理装置(CPU)は短期間で高度化を繰り返している。企業間競争で勝つには、いかに早く次世代CPUに関する情報を入手し、短時間でラインを立ち上げ、在庫を残さないように売り切るかが重要になるが、日本企業の対応は総じて遅いといえる。
半導体製造装置でも先端技術の開発は米企業が主導している。多くの日本企業は米企業のマップを念頭に置き、イノベーションを追求する。
ただ、技術ロードマップが時期を区切って実現すべきだとする高度な技術には開発のめどがまったく立たない例もある。こうなると、日本企業は回収の見通しがないままに多額の開発費を投入することになる。
日本経済新聞「経済教室」基礎コース(2002年1月3日~1月31日/全21回)より転載