競争力の研究

第17回 銀行

付加価値総額は米の4分の1

銀行の経常費用1980年代後半に豊富な資金が注目を集めた日本の銀行は現在、多額の不良債権を抱えて苦しんでいる。一方、米国には世界から資金が集まる。今回は米国との比較で日本の銀行業の競争力をみる。

グラフは日米の銀行の経常費用を示した。邦銀は昨年度の全国136行、米銀は2000年の8536行の商業銀行の合計である。経常費用の内訳で付加価値を生むための主なコストは店舗、システム、商品開発などにかかる「その他」と人件費だ。

米国は「その他」が日本より4割多い13兆6千億円、人件費が3倍の9兆6000億円になる。ところが、ここに示していないデータによると米側の付加価値総額は24兆5000億円で日本の4倍に達する。

銀行業は米国の方が日本よりも小さなコストでより大きな収益を得ている。米銀行業の競争力は日本を大きく上回っているといえそうだ。これまでと同じくポーター教授が示した競争力を決める四条件の現状を日本の銀行業で検証する。

IT企業の支援不足

要素条件をみると、邦銀は高学歴者の比率が高い。97年の従業員総数のうち大卒以上は60%で全産業平均の2.3倍だ。しかし、90年代のバブル崩壊で金融市場が不調に陥ると就職先としての人気は低下し、外国銀行などに流出する人材が増えた。

需要条件はどうか。国内産業は80年代まで資金不足で、銀行のサービスへの要求水準は低かった。各行はほぼ同じ金利で預金や融資を増やす競争を続けたが、バブル崩壊後は銀行への資金需要が急減した。

関連・支援産業では、効率化や顧客サービス向上のための業務改革を提案できる情報技術(IT)関連企業やコンサルティング会社が不足していることが特徴だ。IT投資額は全産業平均を大きく上回るが、業務プロセスの大幅な変革にはつながっていない。

蓄積乏しい知的資源

大学をはじめとする研究機関も高度な金融工学、ファイナンス理論といった知的資源の蓄積が乏しい。

戦略・競争では、90年代の環境変化への対応が遅れた。競争の対象は預金や融資の増加から付加価値の拡大やリスク管理などに移ったが、経営者の意識は変わらず、銀行員の知識・技能は陳腐化した。

このようにさまざまな条件が悪化するなかで、邦銀が新たな戦略目標を設定するまでには長い時間がかかった。バブル崩壊後もしばらくは貸付先の信用リスクの十分な吟味を怠り、表面上の利ザヤが大きな分野に多額の資金を提供した。

規制緩和もあり、邦銀は国内他行や外銀だけでなく、銀行業に新規参入した流通業などとも競うようになった。欧米の銀行はそれぞれ、経営資源を得意分野に集中する動きを活発化させている。世界的な金融自由化が進むなか、総花的な経営を続ければ競争力が低下すると判断したのだ。

邦銀が復活するためにも事業の選択と集中、経営資源の効率的再配分を実現する態勢作りが必要だ。

日本経済新聞「経済教室」基礎コース(2002年1月3日~1月31日/全21回)より転載

2002年7月17日掲載