競争力の研究

第16回 繊維

大量生産体制を構築

今回は日本の製造業の中でも比較的早く割安な外国製品との競争に直面し、国際競争力が低下した繊維産業を取り上げる。

繊維産業は明治時代から日本の工業化の中心だった。第二次大戦後は紡績から縫製までの分業を確立し、高品質の製品を従来より低いコストで大量生産する体制を築いた。市場は国内だけでなく欧米にも広がったが、生活水準の上昇につれて消費者のニーズは多様化し、大量生産・販売方式では対応できなくなった。

日本企業のビジネスモデルに限界がみえる一方、アジアなどの発展途上国の参入が相次いだ。1985年のプラザ合意で為替相場の円高・ドル安が急速に進むと日本製品の輸出価格は急上昇し、低賃金のアジア企業が市場を奪っていった。

高い人件費

紡繊業の賃金水準繊維産業の再建策を検討する通産省(現経済産業省)の審議会が初めてポーター教授の手法を使って競争力を分析したのは93年だった。

要素条件をみると、ライバル諸国・地域より人件費が著しく高い。当時で最大50倍の格差があった。日本紡績協会の資料によると、2000年秋の紡織業(綿)の時給水準は世界の主要54カ国・地域で日本が最も高かった。

日本を100とした場合、中国は40分の1、インドネシアは80分の1に過ぎない。こうした基本的要素で日本はアジア諸国・地域にかなわない。

需要条件はどうか。国内市場規模は大きいが成長率は低い。消費者は縫製や染色などの仕上がり状態に厳しいが、デザインに関する要求水準は欧米ほど高くなく、アパレルメーカーには刺激が乏しい面がある。

関連・支援産業に目を向けると、紡績機や織機のような生産のための機械産業が発達しているが、多くは途上国の企業も容易に入手できる。染色のノウハウや合成繊維などに関連する新技術を除けば、技術力の差は小さい。産業構造は低コスト追求型で、均質の定番商品を大量生産するのに適した分業体制ができているが、供給過剰が常態化している。

3つのタイプ

日本の繊維産業を取り巻く環境は厳しいが、競争力回復のためには海外の対応が参考になる。海外の成功例は(1)イタリア型(2)米国型(3)韓国・台湾型――の3つに大きく分けることができる。

イタリア型では紡織、デザインなどの中小企業が連携して高付加価値を追求する。高級ブランド品が代表例だ。米国型は消費者のニーズを早めにつかみ、情報技術(IT)を駆使して流通の無駄を省く。ギャップなどの製造小売業が具体化した。韓国・台湾型では、途上国で売る製品を現地生産してコスト差を埋める。

日本では最近、「ユニクロ」ブランドの衣料品を販売するファーストリテイリングが中国を生産拠点として活用し、米国型の製造小売業として成功した。人件費などの基本的要素の劣位を海外生産で補い、品質も高める。こうした工夫でほかの製造業も復活への道がみえるかもしれない。

日本経済新聞「経済教室」基礎コース(2002年1月3日~1月31日/全21回)より転載

2002年7月17日掲載