競争力の研究

第14回 デジタルカメラ

大半が日本企業製

デジタルカメラの出荷台数シェア前回みたテレビゲームと同様にデジタルカメラ(デジカメ)も国際市場における日本企業の占有率が極めて高い業種である。デジカメは1980年代後半に登場し、95年に小売価格10万円以下の製品が登場してから市場を急速に広げた。

日経BP社の会員制データサービス、日経マーケットアクセスは昨年の世界の生産台数を前年比40%増の約1900万台と推測していた。大半が日本企業製だ。グラフでは99年度の世界シェアを示した。米イーストマン・コダックが14%を占めているが、多くは日本企業からOEM(相手先ブランドによる生産)供給を受けている。「その他」の大部分は日本企業だ。

今回は、日本のデジカメメーカーの競争力が高い要因をポーター教授の手法を使って分析する。

性能を決める3要素

デジカメの性能を決定するのはレンズ、電荷結合素子(CCD)、絵作り用アルゴリズム(プログラムの構造)の三要素だ。これらの水準を高めてバランスよく配置すれば美しい写真が撮れる。この際に多様な経験を持つ技術者の感性が必要になるが、日本は人材が豊富だ。従来型のカメラの技術も世界最高水準だったためだ。こうしてポーター教授が示す競争力向上の四条件の1つである要素条件で高いレベルにある。

国内市場は質・量の両面で充実している。日本の消費者の画質に対する要求水準は高く、これがイノベーション(技術革新)を促した。デジカメは需要条件でも高い位置にある。

関連・支援産業も十分にある。中核部品は低コストで品質は高い。CCDの技術は主にビデオカメラから流用している。

2つの特徴

企業戦略などに関しては日本企業の組織に2つの興味深い特徴がある。第一はテレビゲームのソフトメーカーと同様に、形式化できない知識・経験を関係者が共有する統合型の開発方式を持つことだ。主にリーダーの感性をレンズ、CCD、アルゴリズムの各要素を担当する技術者が理解し、調整する。これは自動車産業にも共通する日本企業の得意分野である。

第二に、新規の製品開発や事業を社長の直轄プロジェクトと定め、担当チームに大胆な権限委譲を実行する大手企業もあることだ。意思決定を速め、情報技術(IT)分野における猛スピードでの変化に対応するためだ。

デジカメ市場には97年時点でカメラ系、家電系を合わせて30社近い日本企業がメーカーとして参入していた。その後、外国企業も含めて技術革新競争が一段と激しくなっている。

デジカメ産業も従来の日本企業の強みを生かして極めて高い競争力を獲得した。IT関連産業だがデジタル化できない技術者の知識や経験が役立っている。

デジカメの利点の1つは画像を印画紙に焼き付けずにインターネットで相手に直接送れることだ。今後の課題の1つである画像の大判化を進めるには、プリンターの改良、高速通信網の普及など関連・支援産業の拡充が必要になる。

日本経済新聞「経済教室」基礎コース(2002年1月3日~1月31日/全21回)より転載

2002年7月17日掲載