競争力の研究

第13回 テレビゲーム

米国で大きなシェア

日本企業のゲーム出荷額日本企業は映像ソフト関連部門が得意でないとされるが、その中でテレビゲーム産業は国際市場において高い市場占有率を維持している。業界団体のコンピュータエンターテインメントソフトウェア協会によると、2000年の国内と輸出を合わせたゲーム出荷額はソフトで5800億円、ハード(ゲーム機)は5400億円に達した。

米国市場のデータを調べる。99年はソフト出荷数のトップから7位までを日本企業製が占めた。昨年のクリスマス商戦におけるハードの販売台数の80%以上は日本企業製だ。

テレビゲーム産業ではソフトとハードを開発・製造する企業は異なる場合が多く、それぞれの分野で競い合って技術を高める。そのうえで両分野が互いに影響を与え、成長している。

日本企業製ソフトの競争力が高いのは開発能力が優れているからだ。前回紹介したハーバード大のポーター教授が示した四条件に沿ってテレビゲーム産業の競争力の源を分析する。

高い消費者の要求水準

第一の要素条件をみると、ソフト開発の中心技術者であるクリエーターの能力水準は極めて高いことがわかる。若年層を中心にテレビゲームに関心を持つ消費者が多く、クリエーター同士の競争も激しい。ソフトを具体化するプログラマーをはじめとするエンジニアの確保は容易だ。

漫画やアニメーションの質が高く、この分野にかかわる人材がほかの国に比べて多彩なことも強みだ。テレビゲームの動画を作成するには高度な技術を持つデザイナーが必要で、こうした専門家を漫画やアニメの分野から流用できる。

需要条件はどうか。国内需要、供給ソフト本数は海外と比べても高い水準だ。高品質のソフトの供給が消費者の要求水準を高め、さらにソフトの質を引き上げる好循環が生じている。

ポーター教授によると関連・支援産業の充実も競争力を上げるための重要な条件の1つだ。半導体をはじめとする電子部品産業の発達はハードの高度化を促した。ハードの機能が高まれば、より複雑なソフトも実用化できる。

米IT企業の手法も導入

ハードメーカーはほかの企業に技術を開示して業界全体のレベルアップに貢献。ソフトメーカー同士も競い合い、テレビゲーム産業全体の競争力を高めている。

個人に高い才能や技術が要求されるクリエーターなどは、米シリコンバレーの情報技術(IT)企業群と同様、能力に応じた報酬で処遇している。

プログラマーやデザイナーなどに必要なチームプレーの構築は日本企業の得意分野だ。ゲームソフトの開発方法はビジネス用と異なり、形式化できない知識や経験をチームのメンバー間で共有し、絶えずすり合わせる統合型が主流だ。

このように日本のテレビゲーム業界はポーター教授が提示した競争力向上のための四条件のすべてで高い水準を確保している。これがソフト、ハードともに世界市場での高いシェアにつながっている。

日本経済新聞「経済教室」基礎コース(2002年1月3日~1月31日/全21回)より転載

2002年7月17日掲載