競争力の研究

第11回 国際ルール

国内制度を調和

健全な競争環境を構築するには貿易・投資の国際ルールを策定しなければならない。企業間の競争には生産性を高める効果もあるが、その前提として公正な環境を整備する必要がある。

本格的な国際ルール作りは19世紀後半、郵便・通信業務の協力、度量衡統一などによって国境を超える基本的な経済活動を円滑にすることで本格化した。

1980年代からは知的所有権保護や規格・認証制度の調和といった各国の国内制度の調整が目立ってきた。モノ、カネ、ヒト、情報の移動の自由を保障する制度作りが一段と重要になってきたことが背景だ。

モノの貿易を円滑にするための関税引き下げは、第二次大戦後の関税貿易一般協定(GATT)体制、これを引き継いだ世界貿易機関(WTO)体制における多国間交渉を通じ、かなりの進展をみせてきた。しかし、投資、競争政策、電子商取引などの分野ではルール構築が遅れている。

新ラウンド開始宣言

WTOが昨年11月にカタールの首都ドーハで開いた第四回閣僚会議は、新多角的通商交渉(新ラウンド)の開始宣言を採択した。投資、競争政策、電子商取引については主に先進国から国際ルール作りを求める声が出ており、新ラウンドでもこれらの分野に関して議論をする見通しだ。

国内企業の経営権取得などを目的とする外国企業の直接投資に関しては、依然として多くの国が高い障壁を設けている。特に発展途上国は外国企業が国内市場を独占する事態を避けるため、先進国主導の投資ルール作りを警戒している。途上国の立場に配慮しながら投資受け入れ国の関連制度の透明性を高める努力が必要になっている。

企業の公正な競争を確保するための競争政策のルール作りでも各国の連携が不可欠だ。企業活動が国際化し、各国の市場は一体化に向かっているためだ。

97年にはボーイング、マクドネル・ダグラスという米国の二大航空機メーカーが合併したが、欧州連合(EU)が計画段階で異議を唱えた。両社の合併で誕生する巨大企業が国際市場で極めて大きなシェアを占め、公正な競争を阻害するとして独自調査を始めたのだ。

最終的にEUは公正競争基準を満たすとして合併を認めたが、競争政策に関するこうしたトラブルは今後、増加する可能性がある。

拡大する電子商取引

企業間の電子商取引急速に拡大する電子商取引のルール作りはこれから緊急課題として浮上する公算が大きい。

欧米、主要アジア諸国・地域よりも情報技術(IT)の活用が遅れているとされる日本でも企業間の電子商取引の規模は2005年には2000年の5倍に拡大するとの予測もある(グラフ参照)。

次回からはミクロの視点も加え、今後の成長が期待できる産業と勢いを失ってきた産業をいくつか取りあげ、競争力を支える要素を探っていく。その場合にもこれまでみてきた国際的な競争環境の整備の現状を念頭に置く必要がある。

日本経済新聞「経済教室」基礎コース(2002年1月3日~1月31日/全21回)より転載

2002年7月17日掲載