競争力の研究

第8回 東アジアの発展

輸出入が急増

世界各国・地域の経済は相互の依存度を一段と高める一方、競争も激しくなっている。1970年代以降に最も顕著にグローバル化が進んだ地域の1つは東アジアだった。この地域の成長を促した原動力も相互依存と競争だ。今回は東アジアの競争力の源泉を探る。

ここでは中国、韓国、台湾、香港、シンガポール、タイ、フィリピン、インドネシア、マレーシアの9カ国・地域を東アジアと呼ぶ。

世界の貿易額に占める東アジア諸国・地域の割合は70年代、輸出、輸入のいずれも5%程度に過ぎなかった。だが、2000年には輸出で18%、輸入で16%に伸びた。発展途上国に対する直接投資と銀行融資残高でも同年、東アジア9カ国・地域は全体の40―50%を占めた。

伸びる中間財貿易

中国の品目別輸出割合9カ国・地域間の相互依存も深まった。特に90年代には完成品の貿易額よりも、部品をはじめとする中間財の貿易額の伸びの方が大きくなった。

90―98年の東アジア域内貿易では機械完成品の輸出額が92%増える一方、機械部品の輸出額は179%増加した。機械輸出全体に占める部品輸出の割合は90年に35%だったが、98年には51%に拡大したことになる。

これは域内企業が国境を超えた高度な分業体制を構築したことを意味する。背景には、域外資本による技術移転の加速、現地企業の生産基盤の強化、域内の貿易や投資に関する障壁の低減・撤廃があった。

東アジア域内の相互依存が深まる一方、競争も激しくなった。97年に発生したアジア通貨危機が収まると、域内の各国・地域は外資規制を緩和した。現地企業の資産価値下落による買収コストの低下も手伝い、欧米企業を中心に外資の参入が再び活発になった。現地企業も回復し始め、域内や域外の市場獲得で激しく競い合っている。

崩れる雁行型発展

こうした状況下で、これまで日本を先頭に、それぞれの発展段階によって得意な産業分野に特化してすみ分ける雁(がん)行型の発展を遂げてきた東アジア諸国・地域に大きな変化がみられるようになった。その1つが、繊維産業をはじめとする労働集約分野と機械産業といった技術集約分野の双方で国際競争力を高める中国の発展である。

輸出品目の割合の変化をみれば中国の発展の中身は明らかだ。2000年の中国の輸出額をみると最大の品目は36%の機械で、二番目に大きいのは21%の繊維・繊維製品だった。

主要な経営資源であるモノ、カネ、情報が国境を容易に超える現状では、もはや国・地域の発展段階に応じた産業のすみ分けは起こりにくくなった。企業は先端技術分野も含め、自由に活動拠点を選び、一段と激しい競争を展開し始めた。

中国と台湾の世界貿易機関(WTO)加盟は競争のための環境を整え、東アジア諸国・地域の企業が一段と効率性を上げるインセンティブ(誘因)になる。競争の促進が競争力の強化につながるのだ。

日本経済新聞「経済教室」基礎コース(2002年1月3日~1月31日/全21回)より転載

2002年7月16日掲載