競争力の研究

第7回 ITの活用(下)

効果ありの企業は25%

インターネットの活用をはじめとする情報技術(IT)革命は企業の業務を変え、経済構造の変革を促している。企業はさまざまなコストを大きく削減すると同時に、取引先との電子ネットワークの構築などによって市場の変化に素早く対応できるようになった。

ITは今日の企業間競争を勝ち抜くための重要な要素となっている。しかし、ITを導入するだけでは企業の競争力強化は難しい。ITを生かすための戦略を構築する能力が重要だ。経済産業省が2000年度に実施した調査を基に日本企業のIT活用の状況を検証する。対象は日本、米国、欧州8カ国(英国、ドイツ、フランス、イタリア、オランダ、ベルギー、スイス、スウェーデン)、アジア四カ国・地域(香港、台湾、韓国、シンガポール)の計800社だ。

これによると、IT導入でコスト削減などの効果があったと答えた企業の割合は日本が25%で最低だった(グラフ参照)。

少ない情報統括責任者

IT投資の効果この一因は、IT戦略を統括して経営を支援する専任のCIO(情報統括責任者)を置く企業が日本で13%に過ぎないことだ。これは米国の56%、欧州の32%、アジアの23%を大きく下回る。日本には経営体質の強化を目指してITを戦略的に活用する体制を整えた企業が少ないことがわかる。

もう1つの要因は、IT導入と同時に組織や業務を大幅に変える日本企業が多いとはいえないことだ。

日本企業のIT活用の特徴は、米欧アジアに比べてCAD(コンピューターによる設計)などそれぞれの部署の仕事に使う分散型システムを導入する例が多い一方で、ERP(統合基幹業務システム)など全社の経営資源を有効活用するための統合型システムの導入例は少ないことだ。

統合型の導入で高い効果を得るには通常、分散型を上回る規模で、全社的な組織や業務の見直しが必要になる。日本企業の統合型導入比率が低水準にとどまっていることは、ITを活用して抜本的な経営革新を実行する企業が少ないことを示している。現在の経営システムを前提にITを活用しようとする企業が多いともいえる。

指導力強い米経営者

この調査は、1990年代にITを活用して生産性を高めた米企業が日欧アジアの企業よりも積極的に組織改革を断行してきた実態も示している。

米企業における経営者のリーダーシップは日欧アジアよりも強いといわれる。これが改革を断行する企業の割合が高い理由だとの指摘もある。

このように日本企業のIT活用は米欧アジアよりも遅れている部分が多い。これから巻き返すうえで重要なのは、IT導入を目的ではなく手段として位置づけることだ。そのうえでITをどのように活用してコストを下げ、効率を高めるのかという具体的な戦略を作成し、実践する。経営者が強いリーダーシップで組織改革を断行し、競争力を高めることが重要だ。

日本経済新聞「経済教室」基礎コース(2002年1月3日~1月31日/全21回)より転載

2002年7月16日掲載