競争力の研究

第3回 生産性(上)

TFPの利用

今回は、製造業だけでなく、サービス部門も含めた幅広い産業の競争力を生産性に着目して考察する。生産性とは生産活動の効率性を示す概念だ。モノやサービスを生産する際には労働力など多くの生産要素を使う。一単位当たりの生産要素によって、どのくらいの量を生産できるかを示す。労働力、設備、エネルギー、原材料という四つの生産要素を加重平均して総合的な生産要素を求め、この一単位当たりの生産量を示す指標を全要素生産性(TFP)と呼ぶ。

ほかの国や企業に比べてTFPの水準が高いということは、同じ量のモノやサービスをより少ない資源の投入で生産できることを意味する。この背景には優れた生産技術の開発や、付加価値の高い新たな製品やサービスの開発がある。生産性と技術革新には密接な関係があるといえる。

米国に劣る日本

日本の生産性の対米水準TFPを用いて日本と米国の各業種の生産性を比べてみる。グラフは最も新しい1995年のデータで日本の主要業種の対米生産性を示しているが、この時点でも日本の生産性は自動車、電気機械などで米国を上回っているに過ぎない。

経済協力開発機構(OECD)は、その後の全業種を合わせた日米のTFPを公表している。95―99年の年平均伸び率は米国の1.2%に対し、日本は0.9%にとどまった。95年に対米優位を保っていた自動車などの生産性も低下している可能性がある。

日本の多くの業種で95年時点のTFPが米国よりも低い主因は、電力、通信などインフラストラクチャー(社会的生産基盤)を形成するサービス部門が総じて非効率であることだ。特に電力の生産性は米国の半分以下となっている。

金融・保険・不動産ではわずかに日本が米国を上回ったが、不動産価格が極めて高い水準にあることが影響している。金融・保険だけの労働生産性(従業員一人当たりの生産量)は米国より二割程度低い。

国際競争に直面せず

サービス部門が非効率なのは、厳しい国際競争に直面していないからだ。生産性の低い企業が市場から退出することなく、逆にコスト上昇分の多くを価格に転嫁してサービス提供を続けようとする。

日本の電力、運輸、通信などのインフラ料金は米国をはじめとする多くの先進国よりも高水準だといわれる。生産性の低さが高価格につながる。

日本の高いインフラ料金は、消費者の家計を圧迫し、さまざまな企業のコストを引き上げる。サービス部門とは対照的に国際市場で競争する製造業はコスト引き下げを目指して生産拠点の海外移転に拍車をかける。これは日本全体の経済力にも影響する大きな問題だ。日本の製造業の生産性を高め、全体の競争力を引き上げるにはインフラを中心とするサービス部門の非効率性を解消しなければならない。サービス部門のそれぞれの業種において健全な市場競争が実現するようにさまざまな規制改革を実行することが不可欠である。

日本経済新聞「経済教室」基礎コース(2002年1月3日~1月31日/全21回)より転載

2002年7月16日掲載