競争力の研究

第2回 製品の比較優位

中間財の輸出増

日本の貿易構造は最近10年間で大きく変化した。東アジア諸国・地域との貿易額が対米貿易額を上回るようになったのだ。東アジアに対する主な輸出品目は自動車、電気機械をはじめとする完成品から、電子部品などの中間財に変わった。

このように財務省が発表する貿易統計の変化をみれば品目ごとの相対的な国際競争力の変化がわかる。二国間に一切の貿易障壁がなければ、相手国と比べて品質や価格で優位にある品目は輸出でき、そうでない品目は輸入すると考えることができるからだ。

古典派経済学者リカードを中心とする伝統的な貿易理論はこうした比較優位の考え方を基本にする。 ただ、この場合はモノの競争力を品目別に論じるので、世界の民間研究機関などが公表する国の総合力を示す競争力とは概念が異なる。通信、金融などのサービスでも同様の指数を得られるが、比較優位を検証する材料にはならない。

貿易特化指数

対東アジア貿易特化指数貿易統計を基に品目ごとの比較優位を示す競争力の代表的な指標としては、貿易特化指数が有名だ。これは、対象品目の輸出額から輸入額を引いた純輸出額を輸出額と輸入額を足した総貿易額で割った数値だ。1とマイナス1の間に収まる。

貿易特化指数が1に近づくにつれて対象品目の貿易構造が輸出に偏り、マイナス1に近づけば輸入に偏ることになる。ゼロならば輸出入が均衡している。輸出への偏りは相手国に対する対象製品の比較優位を意味する。輸入への偏りは相手国の比較優位を示す。

貿易統計を基に米国と東アジアに対する日本の貿易特化指数を算出する。この場合の東アジアとは中国、韓国、台湾、香港、シンガポール、タイ、フィリピン、インドネシア、マレーシアの九カ国・地域だ。

1988年と比べた98年の指数は対米、対東アジアともに多くの品目で低下しており、貿易における比較優位が小さくなっている実態がわかる。特に対東アジア貿易でパソコン、家電製品などはこの10年間で指数がプラスからマイナスに転じた。一方、自動車、自動車部品などは対米、対東アジアの双方で指数の低下幅が小さく、依然として相対的に高い比較優位を保っているといえる。

最適な生産拠点を選択

ここで留意すべきなのはパソコンや家電製品などの貿易特化指数が大きく低下した主因は、多くの日本企業がこれらの組み立て工程を東アジアに移したためだということだ。部品を日本から東アジアに輸出し、これを組み立てた製品を日本に送り出す逆輸入が増えると、これに該当する完成品の指数が大きく低下するのは当然である。 企業が高コストの日本で生産しては製品の価格競争力を維持できないため、国際的な視点で最適な生産拠点を選択した結果だ。特定の品目について対東アジアの貿易特化指数が低下している背景には、技術を高めた現地企業の追い上げだけでなく、海外生産を進めないと比較優位を保てない日本企業の事情もある。

日本経済新聞「経済教室」基礎コース(2002年1月3日~1月31日/全21回)より転載

2002年7月16日掲載