外国人政策を考えるヒント

開催日 2026年7月24日
スピーカー 友原 章典(青山学院大学国際政治経済学部 教授)
コメンテータ 橋本 由紀(RIETI上席研究員(政策エコノミスト))
モデレータ 井上 誠一郎(RIETI理事)
開催案内/講演概要

少子高齢化が進む日本において、外国人労働者の受け入れは重要な政策課題である。本セミナーでは、『移民の経済学』(中公新書)などの著者である青山学院大学の友原章典教授を迎え、雇用・治安・資産価格・地域社会という多角的な観点から経済学等における研究成果の例をご紹介いただいた。雇用については、外国人が増加してもマクロでみれば失業率などに大きな悪影響を与えないかもしれないが、ミクロでみれば状況によって変わり、例えば、外国人労働者が市民の労働者に置き換わり、働き方が変わる可能性があることなどが指摘された。コメンテータの橋本由紀RIETI上席研究員は、日本人と外国人の賃金率の差に関する要因分析を示すとともに、エビデンスもさることながら、人々がどのように受け止めるかという感情や価値観が重要であることを指摘した。

議事録

共生のビジョンが問われている

本日は、外国人材の受け入れについて考えるヒントを提供できればと思います。外国人の受け入れの影響といっても、プラスとマイナス、いろいろな論点があります。この問題を考える上で大事なことは、私たちはどのような社会を望むのか、その共生のビジョンが問われているということです。本日は、雇用・治安・資産価格・地域社会という観点から見ていきたいと思います。

雇用への影響:マクロとミクロ

まず、外国人の受け入れは市民の雇用に悪影響を与えるのか、という点は関心が高く、私もよく聞かれる質問です。全体として大まかに見ると、著しい悪影響は見られないことを示す研究があります。例えば、失業率に関して日本の産業別データを使った研究では、外国人労働者が2009年から2018年までの10年間に3倍に増加しましたが、失業率を上昇させていませんでした。

ただし、失業率といったマクロデータへの影響が見られなくても、働く人の「中身」や働き方が変化する可能性があります。アメリカでの移民看護師に関する研究では、移民看護師が増えると、市民看護師が減るということが示されています。これには、失業した看護師が増えたわけではなく、市民看護師が他の職業へ転職したり、新しく看護師になろうという市民が減ったりしたことが指摘されています。その理由は、看護師の賃金が下がったからではなく、文化の違いや意思疎通などの観点から職務遂行に不可欠なチームワークがうまくいかなくなったことが指摘されています。

また、移民受け入れの影響は、その状況によっても変わります。例えば、移民労働者が短期間に大量に流入する場合の影響について、ドイツにおける政策の効果を分析した研究では、外国人労働者が流入した地域の市民が失業するといった悪影響は見られませんでしたが、以前であったら他の地域から流入して職を得ていた市民の雇用を代替したり、高齢の市民が労働市場から退出したりする傾向が見られました。

治安への影響:研究結果と世論調査のギャップ

移民受け入れの議論における論点の一つは、移民が犯罪を増やすのではないか、という懸念です。これまでの研究によると、移民が犯罪を助長するとは言えないという見解が優勢です。ただ、世論調査によると、移民により犯罪が増えると心配する方が多くいます。研究結果が世論調査の結果と違うのはどうしてなのでしょうか。一つの説明は、行動経済学で「利用可能性バイアス」などと呼ばれるもので、私たちは記憶に残りやすい出来事に基づいて判断する傾向がある、ということです。例えば、メディアが移民による残虐な事件を報道すると、その印象が強いため、移民と犯罪を結びつけて、その関係を過大評価してしまいます。それ以外の説明としては、治安の研究では捜査機関が把握した犯罪件数を使うことが多いのですが、こうしたデータで把握できない、ちょっとした諍いが増えていれば、体感として治安が悪くなったと感じることもあるでしょう。

また、移民の増加により窃盗犯罪は増える一方、凶悪犯罪には影響がないとする研究もあります。窃盗は主に経済的要因から生じる犯罪であると考えられていることから、治安という観点からは、雇用機会の提供が大事ではないかと言われています。この点に関し参考になるのが、1994年に開始されたベルギーの職業訓練プログラムで、その後移民の就労支援という意味合いが濃くなっていったものです。これは、企業が求職者に対して企業内訓練を行うもので、企業が求職者に支払う額は、失業手当などの受給額への上乗せ分だけで、経験を積むとともにその上乗せ分を徐々に増額していき、訓練終了時には、賃金をポストに見合う額にします。このプログラムには雇用の促進効果が確認されています。

移民による犯罪の抑止について、国外追放の効果を検証したアメリカの研究では、犯罪率の低下に顕著な効果がなかったとされています。一方、非合法な移民に法的地位を与えることで犯罪率が低下するという研究がいくつかあります。合法的に働けるようになったことで不当な低賃金に甘んじなくてよくなったためと説明されています。毅然とした対応に加えて、適切な賃金で就業できる機会を併せて提供することで、治安維持の効果が増す可能性がありそうです。

社会関係資本への影響

ハーバード大学のパットナム教授がアメリカを対象に行った研究によると、民族的に多様な地域に住む人ほど、人を信じない傾向があるとしています。白人とそれ以外の人種のつながりだけでなく、白人同士のつながりも損うとされています。

これには反論があります。その後の研究でニューヨーク大学のアバスカル教授は、民族的に多様な地域は、非白人や貧困層が多く、もともと低い信頼を報告する傾向が見られることや、人の出入りが激しい地域でもあり、地域に根付いていないため、信頼度が低くなるのではないか、としています。お互いの信頼を醸成するには、高等教育の推進や貧困の緩和が有効な政策になると期待されています。

住宅価格への影響

海外の研究によると、都市人口の1%に相当する移民が増えると、短期的には住宅価格が1%上昇する一方、中長期的には住宅の供給が増え出すため、住宅価格の上昇が抑えられることが示されています。こうした結果は国や州のように広い地域を対象にしたものです。他方、イギリスにおける狭い地域区分を対象にした分析では、学歴の低い移民が増えると、その地域の住宅価格が下がっていました。貧困地区と富裕地区という、すみわけが加速する懸念が指摘されています。

東京23区に焦点を当て、2009年から2017年までのデータを使用した分析によると、区民に占める外国人の割合が増えると、宅地価格が上昇しています。宅地価格の上昇で得をするのは一部の土地所有者だけで、土地を所有していない多くの人々との間で資産格差が拡大することを懸念する声もあるようです。

どのような社会を望むのか

外国人労働者の受け入れに関しては、景気循環への注意、特に不況時の失業への対策が必要です。過去にはバブル期の人手不足を背景に日系人労働者の受け入れを進め、リーマンショック後に帰国支援事業を行ったことがありました。受け入れのペース配分が大事です。特定の地域に人が集中する地域間格差を懸念する声もあるので、各地域の労働需給をタイムリーに勘案して受け入れ数を調整するシステムを構築してはどうでしょうか。

次に、外国人の受け入れの費用を意識した政策が必要でしょう。労働者として受け入れた外国人は生活者でもあり、受け皿である地域や自治体への負担は増えます。ドイツでは、ドイツ語やドイツ社会を学ぶコースが提供されており、受講料の一部または全部を国が負担する制度があるそうです。

結局、私たちはどのような社会に住みたいのでしょうか。急速に少子高齢化が進行する日本において、経済成長を志向するのであれば、労働力の不足を補う外国人の受け入れや技術革新による生産性の向上が求められるでしょう。一方で、社会や文化の大きな変化を望まない方もいると思います。その人が置かれている立場によって影響は違うため、望ましいと思う未来は違ってくるはずです。本日のセミナーが、これからの社会の方向性を考えるきっかけになれば嬉しく思います。

コメント

橋本:
最近、私が参加する共同研究で行った分析では、日本人と外国人の賃金率の差は2020年から2023年までの平均で約30%です。その賃金率の差を説明する要因としては、外国人労働者の方が日本人労働者よりも年齢が若いこと、有期雇用が多く勤続が短いこと、中小企業で多く雇用されていることがあります。専門的・技術的分野の外国人を雇用している事業所では日本人の賃金も高く、特定技能外国人や技能実習生を雇用する事業所では日本人の賃金も低い傾向があることから、外国人を雇用した結果、賃金が低くなったということではなく、もともと賃金が低い事業所が技能実習生や特定技能外国人を雇用しているといえます。

データに基づくエビデンスは大変重要ですが、データを過信すべきではないとも言われています。友原先生も紹介されたパットナム教授の著書「孤独なボーリング」(2000年)は、アメリカにおける社会関係資本の衰退を指摘しました。ホックシールド教授の「盗まれた誇り」(2026年)は、社会関係資本が衰退する米国社会に移民・難民が割り込んできて、やりがいのある仕事も奪われたという感覚をもつようになり、ポピュリズムや排外主義の台頭につながったと論じています。これは、失われた30年を経た今の日本における外国人受入れをめぐる世論の変化にも重なってくるようにも思われます。エビデンスは重要ですが、同時に人々が外国人の受入れにどう感じるかという感情や価値観も重要です。

また、外国人材を「労働力」として受け入れるだけではなく、外国人と日本人が「住民」として地域社会で関わることも、共生社会の実現に向けて一層重要になると思います。例えば、博多祇園山笠の中洲流では、都市化によって日本人の舁き手が減少する中、外国人の舁き手が徐々に増え、信頼を得て中心メンバーになる人も出ています。

外国人との「共生」についての考え方として、①母国の生活を尊重する、②仕事面との支障がなければ、生活は母国と同じでよい、③日本の生活様式を学んでほしい、④「日本人らしい」価値観を持ってほしい、という4つのイメージを挙げてみました。「共生」について、どのイメージを抱いているかは人によって違うと思いますが、このようなことをお互いに話す機会はほとんどないように思います。話をすることで、分かり合えない部分と分かり合える部分が、それぞれ見えてくることもあるのではないでしょうか。心理学や行動経済学の研究では、お互いに接点を持つことが、排外的な意識の緩和につながるという報告もあります。まずは、少し話をしてみることが、お互いが持つ先入観に気づくきっかけになるかもしれません。

友原:
外国人との共生に関して橋本先生が挙げた4つのイメージについて、いろいろな考えをお持ちの方がいらっしゃると思います。私が最初に研究を始めた頃は、外国人を受け入れる、受け入れない、という二分論のような形だったのですが、この数年の間に各論点について議論が深まっているという印象を持っています。

Q&A

Q:
日本語教育に関し、外国人の受け入れの前提として日本語や日本文化の理解が重要ではないか、その費用は地方自治体ではなく、外国人を受け入れる企業が負担すべきではないか、一部の地域に負担が偏るのであれば、財政移転も含めて負担を共有する形にすべきではないか、といった質問がありましたが、いかがでしょうか。

友原:
メリットを享受する主体が明確であれば、その主体がまず負担すべきと思いますが、それが明確でない場合や、その主体の負担能力が十分でない場合、特定の地域に負担が偏る場合と言った具合に複雑な状況も多々あるので、国や自治体の支援なども考える必要があろうかと思います。

Q:
高度人材も不足しており、高度な技能を有する外国人に日本が選ばれるような政策が必要ではないでしょうか。また、高度人材と単純労働の人材、豊かな外国人と貧しい外国人、といった区別をした議論が必要ではないでしょうか。

友原:
高度人材に日本が選ばれるような政策は重要であると思います。ただ、高い賃金だけでは来てくれません。特に家族がいる人材の場合、子どもの教育環境、住環境、生活全般に関する整備なども必要とされており、これを含めた議論が必要となります。また、外国人を属性で区別した議論が重要であることはそのとおりです。本日のプレゼンでは詳しくお話できませんでしたが、書籍の中では議論しています。現在の議論の流れとしては、より細かく分類してどうすべきか議論するように変わってきている印象です。

Q:
橋本先生の「エビデンスよりも感情・価値観」というコメントは重要な指摘であったと思います。住民にはどのような手法が有効でしょうか。例えば、テレビなどのメディアは有効なのではないでしょうか。

橋本:
テレビやSNSなどのメディアの影響力は確かに大きいと思いますが、発信する側も受け取る側も、自分が見たい事例に目を向けがちだと感じるときもあります。まずは自分の住む地域の外国人の人たちとお互いに困っていることを伝えて、できる範囲で助け合うことから始めるのがよいのではないかと思います。今年の春に四国の過疎地域を調査で訪れた際、自治会長が技能実習生に地域の手伝いをお願いしたところ快く応じてくれ、そのお礼に食事でもてなしたことをきっかけに、「これからもお互いに助け合いましょう」という関係になったというお話を聞きました。「話せばわかる」こともある一例だと思います。

Q:
総人口に占める外国人の受け入れ割合を国が決める、いわゆる総量規制について、どのようにお考えですか。

友原:
国の方向性を決めるのは国民の皆様です。その際に参考となるような情報を提供するのが私の役割だと思っています。(前述の内容からの補足:総人口に占める外国人の受け入れ割合だけですと、特定の地域に人が集中する地域間格差を懸念する声もあるので、各地域の労働需給をタイムリーに勘案して受け入れ数を調整するシステムを構築してはどうでしょうか。)

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。