RIETI-NEDOジョイントBBLセミナー「未来を拓くイノベーションと新産業のフロンティア」シリーズ

上に行けなきゃ横に行け!:トンガリ人材が風穴をあける産学連携と人材育成―「感動と利益の循環」による資源循環イノベーションによる経済発展と「リアルな現場を教育の舞台」にする実践力と内発的モチベーションを高める教育改革

開催日 2026年5月21日
スピーカー 古川 雄一(国立大学法人埼玉大学理工学研究科イノベーション人材育成部門教授 / 博士(工学))
コメンテータ 田辺 雄史(新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)イノベーション戦略センター 事務局長)
モデレータ 高町 恭行(新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)イノベーション戦略センター マテリアルユニット長)
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開催案内/講演概要

組織内で限られたポストを目指す「上」への成長だけでなく、未開の領域を切り拓く「横」への展開にこそ、イノベーションの可能性が広がっている。本セミナーでは、長年の企業経験を経てクロスアポイントメント制度のもと大学教授へと歩みを進めた埼玉大学の古川雄一氏に、自身のキャリアをたどりながら、組織の常識の壁に風穴を開けるトンガリ人材の役割と、その生かし方について解説いただいた。新素材開発での挫折と成功、MOT(技術経営)との出会い、水処理と金属リサイクルの思わぬマッチングなど、現場での実体験をもとに、感動と利益の循環を生むオープンイノベーションと、一人一人を尊重する人材育成のあり方が示された。

議事録

「上に行く」と「横に行く」、トンガリ人材

題目にある「上に行く」「横に行く」について、社会における「上」がいわゆる出世のイメージだとすると、「横」は人や組織のつながりだといえます。限られたポストを目指して競争しながら行くのが「上」、未開の領域を開拓していくのが「横」です。上に立てる人数には限りがありますが、横へは道が無限にありますから、本日は「上に行けなきゃ横に行け」というテーマでお話をいたします。

横に行くときに必要なスキルの一つが、異端児たちを束ねるネットワークの構築力ですが、ここで「トンガリ人材」に注目してみたいと思います。トンガリ人材とは、丸い人材のレーダーチャートと比べて、一部に非常に長けたところがある方を指します。社会に出ると減点法評価や同調圧力によってだんだん丸くなっていきます。丸い人材は摩擦が少なくマネジメントしやすい一方、丸い人材のみでは常識の壁にぶつかったときに停滞してしまいます。トンガリ人材は、常識への設置面積を最小化することで、壁に風穴を開ける力を持っています。ゼロから1を生み出す局面で活躍するのがトンガリ人材で、賛成者が増えると今度は丸い人材が連携して商売にしていく。このバトンパスをお互い尊重し合って行えると、事業の発展につながります。

サラリーマンとしての失敗とエンジニアとしての成功

ここから私のキャリアにおける3つのトンガリポイントをお話しします。1つ目は若い頃の経験です。お客様から相談を受けた新素材について、鋳造用金型の表面処理へ応用しようと取り組みましたが、「新素材が鋳造で持つわけがない」という反対などに阻まれ、活動の中断を指示された際には一瞬挫折しかけました。

しかしここでトンガリが登場します。各社の同分野・同レベルの方々に確認し、諦めずにいろいろな会社を回ったところ、賛同者が増えていきました。2008年9月、リーマンショックの1週間後くらいに、最終的にトップ判断でチャレンジを後押しいただき、活動を継続できました。この苦難を乗り越えたのが、ちょうど35歳8カ月、仏陀が悟りを開いたとされる年齢と同じ「358」です。新素材はその後、表面処理として本格的に拡販され、2023年にはカーボンニュートラル対応技術として一般化し、足掛け20年、ディープテックの深さを実感しました。

博士号取得とMOTとの出会い

2つ目のトンガリポイントは、マネージャー職を終えた50歳での再出発です。これを機に、名古屋大学で博士号取得に挑戦し、もうすぐ51歳というタイミングで取得しました。そして、クロスアポイントメント制度を利用して、大手企業に在籍しながら埼玉大学の教授として着任しました。最初に担当した授業は受講者が1名のみと振るわず、会社や大学はもちろん、遠くまで出張することで一緒に過ごす時間があまりとれない家族にも申し訳なく思い、授業のない後期に何か貢献できることをもう一度考えました。また、授業中に「先生、それって正しいのですか?」という質問を受け、今まで経験で語ってきたことについて、その正しさを確認して伝える責任、重要性を認識し、大学・企業・研究者としてそれぞれ何が必要かを一から学び直しました。

その学び直しの中で、島根大学からの講義依頼をきっかけにManagement of Technology (技術経営:MOT)と出会い、大きなターニングポイントになりました。MOT関連の2006年の論文で、自動車業界におけるデジタル化の進展によって、コミュニケーションが不足してノウハウが伝わりにくくなった結果、リコール問題が増加すると指摘されており、実際にその数年後に各国大手自動車メーカーのリコール問題が多発しました。当時自分を含めて皆にMOTの知識があれば、一人一人の意識や行動にもう少し違いがあったかもしれないと思い、MOTをもっと早く学んでいればよかったと感じました。また、自分の若かりし頃の挫折もキャズム理論で説明できると気づきました。技術を試したい層(アーリーアドプター)と見極めたい層(アーリーマジョリティ)の間にできる大きな溝こそ、上司と私が揉めていた原因だったのです。さらにロジャースの理論からは、イノベーターも、価値を見出す人も、しっかり育ててくれる人も、全員が大切だという、一人一人を尊重する大切さを学びました。

思わぬマッチングと感動・利益の循環

3つ目のトンガリポイントは、52歳で取り組んでいる産学官連携の促進です。経験のトンガリを通じて目利き力や感度が高まり、シーズ技術の「思わぬマッチング」への気づきが急増しました。たとえば、極低圧高耐久純水化膜の研究では、大量のきれいな水と同時に濃い水も生まれます。この濃い水が植物や金属に良い水になることから、水処理と金属リサイクルという異なる分野が融合していきました。ニーズとのマッチングはビジネスにつながりますが、思わぬマッチングは感動につながります。関係者全員に伝えると、競争していたライバルとの間に協調が生まれ、オープンイノベーションが加速します。

この具体的な活動が、難再生金属端材(HRMS:Hard to Recycle Metal Scraps)の循環イノベーション活動です。30社、11校、4団体でスタートし、東京、愛知、北海道で勉強会や現地見学を重ねています。北海道では学生にもリアルな現場を体験していただき、「今」を伝える教育につなげています。こうした活動を持続させる鍵が、金銭などの外的報酬がなくても、内面的な欲求に基づいて自ら行動する内発的モチベーションであり、感動はその入り口であると考えています。

一生懸命で丁寧であること

日本は世界の中でも豊かで健康な国ですが、課題は競争力の低下です。江戸末期にわずか2,600万人の人口から経済大国の基盤を築いた歴史に学ぶことは大きく、「今」を伝えるためには、こうした過去のイノベーションを学ぶことが大切です。

また、外国の方が日本に来て感動するものの一つが、人がめったに通らない田舎にも整備されたガードレールがあることだそうです。日本の素晴らしさは「一生懸命で丁寧」であることかもしれません。私はロジャースの理論のラガード(遅滞者)はむしろ育成者と呼ぶべきと考えていますが、上に行くにせよ横に行くにせよ、感動・ワクワク・内発的モチベーションで周囲も自分も笑顔にし、挫折しても腐らず一生懸命・丁寧に続けることが大切です。

コメント

田辺:
トンガリ人材という言葉を軸に、産学連携・人材育成についてご自身の経験になぞらえてお話しいただき、多くの示唆を得ました。私が若かった頃、上司はトンガリ人材を「猛獣」と呼び、私に「猛獣使いになりなさい」と言っていましたが、いわゆるトンガリ人材は、それを生かす職場という環境があって初めて、激しい化学反応のようなものが起きるのだと思います。トンガリ人材に対する企業のスタンスは望ましい方向に進んでいるのか、足りないとすれば大学はどういう役割を果たせるのか、ご見解をお聞かせください。

古川:
多様性を認める方向には進んでいると思います。「現地現物」でトンガリ人材の方たちと接して気づいたのは、一人一人を尊重して丁寧に見ていくと、どこと連携するとその人のすごさが生きるかという、こちら側からしか気づかない融合のポイントが見えてくることです。それを本人と丁寧に会話して感動を共有すると、非常に大きな力を発揮してくれます。そうしたマネジメントができる人を育成し合うことが必要だと感じています。

田辺:
次に、トンガリ人材は育てられるのか、その育成を再現性のある形にするには、どこに気をつければよいでしょうか。

古川:
本人も気づいていないトンガリを明らかにしていく対話が必要です。自分のトンガリ、自分の存在価値に気がつくとモチベーションにつながります。教育現場での「褒め合おう」という取り組みも、そのきっかけづくりの一つだと思います。

田辺:
最後に、ロジャースの理論にある「ラガード(遅滞者)」を、丁寧に育てていく人として高く評価するには、どうすればよいでしょうか。

古川:
たとえば、焼き入れの不良を色だけで発見できる人は、現地で常にしっかりものを見ている、そして異常を「異常」と言える風通しのよい環境があって初めて「色がおかしい」と気づけるものです。なぜ気づいたのかを学術的にも調べ、職場でもたたえて掘り下げていく、そのようなラガードの大切さを紐解く活動は、産学両方に必要だと感じます。

Q&A

Q:
中小企業が、産業界、行政、大学などの垣根を超えて、外部の多様な価値や専門性を持つ人材と接点を持つには、どのような取り組みが有効でしょうか。

古川:
やはり見せることが大事だと思います。中小企業も現場をどんと見せる。実際に生徒を現場に連れていくと、「この企業に入りたい」と言う人が出てきます。車のタイヤ交換のピット作業を子どもたちが見学できるようにすると、かっこいいと感じて「将来ピットマンになりたい」と気づくのです。誇張せず生の姿を見せると、給料以外のところで内発的モチベーションが高まります。外部の専門人材との接点も、情報を発信しなければ人は集まりませんので、どんどん発信されるとよいと思います。

Q:
壁にぶつかった際に、ネガティブな感情をポジティブに切り替える手法があれば教えてください。

古川:
結論から言うと、ため息を大きくつくことだと思います。壁にぶつかるとネガティブになりますので、ゆっくり休んでため息をつき、気持ちを落ち着かせることが大事です。禅の思考では笑顔と姿勢と呼吸が大事だといわれ、スポーツ選手が100%の力を発揮するにもこの3つが大切だといわれます。これを意識すると、立ち直るきっかけが早く見つかると思います。

Q:
研究開発のたこつぼ化が進む一方で、現代の研究開発は大規模化し、多くの研究者と大規模な資金を投入しなければ突破できないテーマが増えています。この大規模化とトンガリ人材の活用を、どう両立すればよいでしょうか。

古川:
課題を「こと」という一つの山に見立て、「解決しがいがある」という魅力を持たせた課題設定をすると、研究者一人一人のモチベーションが高まり、それぞれが自分の担当を掘り始める山崩しが始まります。皆で集まって議論してもなかなか融合しませんが、分かれた状態をちゃんと見て、それぞれがモチベーション高く山を崩す課題設定と仕組み化を行うほうが、大きな山を崩すのに向いていると思います。そこに資金を投入し、成果に応じてしっかり報酬を支払うことが大事だと考えます。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。