| 開催日 | 2026年4月10日 |
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| スピーカー | 佐藤 主光(一橋大学国際・公共政策研究部教授) |
| コメンテータ | 小林 庸平(RIETIコンサルティングフェロー) |
| モデレータ | 関口 陽一(RIETI上席研究員・研究調整ディレクター) |
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| 開催案内/講演概要 | 高市政権では社会保障と税の一体改革の柱として、「給付付き税額控除」の制度設計に向けて議論が本格化している。本セミナーでは、一橋大学の佐藤主光教授を迎え、現役世代の負担をどう軽減するかという視点から、「給付付き税額控除」と「社会保険料の租税化」の両輪の対応策をご紹介いただいた。先進国の事例を踏まえ、就労意欲を阻害しない段階的逓減型の制度設計、また他制度への移転に充てられている部分を租税化し、課税ベースを所得税・住民税と統一する社会保険料のあり方など、勤労者のためのセーフティーネットの構築に向けた政策提言をいただいた。 |
議事録
勤労者への新たなセーフティーネット:給付付き税額控除
日本には生活保護や年金制度があるものの、いずれも生活困窮者や高齢者を対象としたものであり、現役の勤労者を直接支援する仕組みはこれまで存在してきませんでした。この格差是正の手法としては、富裕層からの所得移転であるトリクルダウン、政府を通じた課税と給付による再分配、頑張っている個人に対する自立支援の3つが考えられます。給付付き税額控除はこの3つ目の仕組みにあたり、経済成長との整合性も高いものです。今回はこの制度設計と、もう一つの柱である社会保険料の租税化、ある意味「現役世代の負担をどう軽減するか」という共通の狙いを持つこの2つについて、その課題への対応策として政策提言を行うという趣旨でお話しします。
給付付き税額控除に向けた提言は以下の5点にまとめられます。1つ目は、給付の単位を「個人単位」にすることです。現行の給付は世帯単位が多いですが、就労支援という目的に照らせば、世帯の属性は反映させず、個人の所得をベースにすることが原則です。2つ目は、税額控除ではなく「給付」で実施することです。アメリカやカナダではすべての国民が確定申告をするため税務署経由での対応が可能なのに対し、源泉徴収が普及している日本では給付の形をとらざるを得ず、ただ被用者については、厚生年金保険料の減免に充てる形も選択肢となります。3つ目は、所得情報として当面は「自治体が保有する前年度所得情報」を活用し、将来的にはよりリアルタイムに所得情報を把握できる情報システムへ移行することです。4つ目は、「年収の壁」を生まないよう、一定所得を超えると給付がいきなりなくなる従来型の所得制限ではなく、所得の増加に応じて給付を段階的に削減する設計とすることです。5つ目は、窓口を国(内閣府)に一本化することです。当面は自治体の協力が必要になりますが、最終的には国が一元管理すべきだと考えます。
国際比較から得る給付付き税額控除への洞察
アメリカの稼得所得税額控除(EITC)は、所得が低いほど給付が増える逓増部分を持ち、また一定所得を超えると線形に減少していく跳び箱型の設計となっています。日本でも所得制限による段差が生まれず就労インセンティブを与えられるこの形状が望ましいですが、低所得者の所得捕捉が不十分なため、当面は難しいと考えられます。
給付付き税額控除は、所得が高いときは課税し、低いときは給付するという「負の所得税」のフレームワークを持っています。日本経済新聞社と日本経済研究センターによる経済学者向け調査「エコノミクスパネル」では、74%が「税額控除導入が望ましい」と回答しています(日本経済新聞2025年9月30日)。ただ導入に際しては所得の捕捉に課題が残るほか、源泉徴収の制度では個人の所得情報が年末にならないと把握できないという点にも課題があり、イギリスのユニバーサルクレジットの事例も参考に、ガバメント・データ・ハブの議論と紐づけ、源泉徴収のシステム自体を考え直していく必要もあるでしょう。現状では今あるインフラを使い、公金受取口座を通じた給付、あるいは日本年金機構等を通じた社会保険料の減免が現実的です。
財源は、所得税の枠内での対応を想定しています。基礎控除上乗せ特例の見直し、金融所得課税の強化などが必要ですが、消費税は既存の社会保障財源として位置づけられており、給付付き税額控除の財源には充てない方針です。自営業者・フリーランスに対しては確定申告等で就労を確認する仕組みが必要です。
社会保険料の構造的問題と租税化の検討:フランスのCSGを参考に
現役世代の社会保険料負担は重く、協会けんぽの場合、労使折半後でも本人負担は約15%(2025年度)となっています。所得税が累進課税であるのとは対照的に、社会保険料の負担割合は所得に関わらずほぼ一定であり、低所得の勤労者にとって大きな負担となっています。また現行の社会保険料については、年収130万円付近で社会保険料の賦課が急激に増加することで、限界税率が100%を超えるケースが生じており、この「壁」が就労意欲を阻害する要因となる場合があります。
現役世代に偏る負担への対処法として、フランスの一般化社会拠出金(CSG)を参考とした租税化が選択肢になります。CSGは給与所得だけでなく、年金や金融所得なども含め、賦課対象が広いという特徴があります。日本の社会保険料の中には、医療保険料の約4割が高齢者医療に充てられるなど、他制度への移転が占める部分が大きく、これら「再分配的」な部分は本来の「対価を伴う負担」という保険料としての性格を失っています。租税化することによって、若い人だけでなく高齢者も含め、勤労所得だけではなく金融所得も含めて幅広く保険料を徴収するという体制を整え、現役世代の社会保険料負担を抑えること、そして今は課税ベースがそれぞれ異なりますが、最終的には、共通の物差しとしての所得をもとに、個人住民税・所得税・租税化された社会保険料の課税ベースを統一した体系を目指すべきだと考えます。
コメント
小林:
給付付き税額控除の設計とその課題、長期的な社会保険料改革についてとても分かりやすい提言をいただきました。以下の4点について質問させていただきます。一点目、給付付き税額控除の4つの類型(勤労税額控除型・児童税額控除型・社会保険料負担軽減税額控除型・消費税逆進性対策税額控除型)のうち、どれが佐藤先生の提言に最も近いでしょうか。二点目、本日のご報告から、給付付き「税額控除」という名称ではあるものの、税制上の措置にこだわらず、給付も含めた仕組みを構築すべきというご指摘だと理解いたしました。この点、佐藤先生のご意見を改めてお聞かせいただけますでしょうか。三点目、社会保険料の歪みが大きくなってきたというのが佐藤先生のご指摘だと思います。一方で、社会保険料には、給付と負担の関係が明確でありスティグマが生まれにくい、給付の必要性が高まった場合に負担増加への理解を得られやすいといったメリットもあったと考えています。社会保険方式を今後どうしていくべきか佐藤先生の見解をお伺いいたします。四点目、自治体の所得情報の取得タイミングと給付のタイムラグをどう想定されているでしょうか。
佐藤:
一つずつ回答いたします。一点目については、①勤労税額控除型と③社会保険料負担軽減税額控除型のハイブリッドが念頭にあります。②児童税額控除型は既存の児童手当で対応可能であり、④消費税逆進性対策税額控除型も給付付き税額控除の枠内で対応できると考えます。二点目、名称にこだわらず実態は「給付」でよいと考えています。三点目、社会保険方式を守るためにこそ租税化し、税方式と社会保険方式をすみ分けて整理していく必要があると考えます。四点目、現状では年2回程度(8月・12月など)の給付が現実的であり、将来的には所得情報のリアルタイム化とともに給付頻度を高めていくべきだと思います。
Q&A
Q:
EITC型の給付付き税額控除は低所得者への賃金率補助という側面があり、事業主が賃金を抑制する副反応が懸念されます。最低賃金制度との整合性についてどのように考えられるでしょうか。また社会保険料を対象とすることで国庫負担を拠出時に充当することになり、将来の給付に影響を与えないという意味で合理的に思えます。
佐藤:
事業主が賃金を抑制するリスクは海外研究でも指摘されており、モニタリングと最低賃金での対応が重要です。社会保険料の扱いについてはご指摘のとおりです。
Q:
社会保険料の租税化を行う場合、社会保険事務所と税務署を統合するイメージでしょうか。主要先進国で両者を統合した事例はありますか。
佐藤:
いわゆる歳入庁構想に近いですが、政治的な実行性という点ではハードルが高いのではないかと考えています。デジタル化の進展により、組織統合をせずとも情報共有によって事実上の一体運用を可能にする仕組みも選択肢の一つです。
Q:
高齢者は給付対象にしないとのことですが、就労して社会保険料を払っている高齢者は対象となるでしょうか。また、社会保険料還付付き税額控除の提案についての評価をお伺いします。
佐藤:
65歳以上で基礎年金を受給している限りは、生活保障は年金で担われているため、就労していても給付対象外とすることを想定しています。社会保険料還付付き税額控除の提案はルート②(保険料減免への充当)に近い考え方ですが、事業主経由となる分だけ事務が煩雑になるため、ルート①(直接給付)との併用が望ましいでしょう。
Q:
租税化された社会保険料を消費税に一本化して徴収することは考えられるでしょうか。
佐藤:
消費税自体は優れた税ですが、別の用途があり、今回の提言では消費税を財源とする考えはありません。給付付き税額控除や社会保険料の租税化はあくまでも所得課税の枠の中で対応するべきと考えています。
Q:
高所得の現役勤労者は負担が増えるのでしょうか。その場合、受益と負担の境目となる所得帯はどのあたりでしょうか。
佐藤:
重点支援の対象は年収300万円程度まで、500〜600万円程度までは段階的に受給できる仕組みを想定しています。高所得者については累進課税の税率構造の見直し、金融所得など勤労所得以外への課税強化で対応することが求められます。
Q:
勤労所得と金融所得を合算して把握するためにマイナンバーの活用が必要でしょうか。
佐藤:
その通りです。預貯金口座へのマイナンバー付番が義務化されていない現状では個人ベースの金融所得の把握が困難であり、金利が上昇している現在、金融機関の協力のもと付番を進めることが不可欠です。
Q:
ガバメント・データ・ハブを通じた月次の所得情報更新は事業者負担が大きいと思いますが、対処方法はあるでしょうか。
佐藤:
給与支払いや源泉徴収業務のデジタル化と一体で進めることが前提です。中小企業については会計ソフト導入支援を行いつつ、経営効率化の一環として進めることが有効です。
Q:
夫が高所得・妻がパートタイムの低所得の世帯に個人単位で給付を行うと、世帯ベースの所得格差が拡大するおそれはないでしょうか。
佐藤:
その問題は実際にあります。就労促進の観点から配偶者への給付を認める方向が良いと思いますが、世帯収入や金融資産が一定水準を超える場合は給付対象から除外する資格要件を設けることも考えられます。
この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。