クラウド会計×5万人調査でみる生成AI活用の実態

開催日 2026年3月26日
スピーカー 小西 葉子(RIETI上席研究員(特任)/ 筑波大学システム情報系 教授 / マネーフォワード総合研究所 シニアフェロー)
コメンテータ 楠瀬 翔大(経済産業省 商務情報政策局 情報技術利用促進課)
モデレータ 関口 陽一(RIETI研究調整ディレクター(併)上席研究員)
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開催案内/講演概要

生成AIの急速な普及が続く中、その導入初期の実態をデータで記録しておくことは急務である。本セミナーでは、小西葉子RIETI上席研究員を迎え、マネーフォワード社のクラウド会計ログデータとインテージリサーチ社との5万人アンケート調査を組み合わせ、中小企業の独立型生成AI導入行動と個人の利用実態を多角的に分析した結果をご報告いただいた。業種による利用水準の差異、ChatGPT公開を契機とした導入タイミングの同期性、企業規模と利用率の関係、そして「参照・協働・任せる」といった生成AIの使われ方の違いが明らかにされ、またデータで今を記録することの意義と、活用格差への対応を含む政策的示唆についても論じていただいた。

議事録

研究の背景と問題意識

生成AI技術は2020年後半以降、急速に社会に浸透してきましたが、経済学・社会科学の既存研究は導入後の効果に焦点を当てるものが多く、普及の初期段階を記録した研究は限られています。インターネットやメールが普及した当時の詳細な記録が残っていないという反省から、今記録しておかなければ生成AIも、気がついた時には入っていた、という状況になりかねないという問題意識がこの研究の出発点です。特に中小企業の導入行動を捉えた研究は世界的にも少なく、アプリケーションに組み込まれていく形の生成AIは観測自体が困難になりつつあります。質の良いデータに出会えたこの機会に、今のうちにファクトベースで「導入初期に何が起きたか」という地図を描くことが本研究のねらいです。

2つのデータの設計

分析には2種類のデータを使用しています。1つ目は、マネーフォワード社のクラウド会計サービスの利用ログで、約87,000社が対象です。サブスクリプション契約の支払い記録から、いつどのようなデジタルサービスを導入したかを客観的に観測できる点が最大の特徴です。ChatGPTやClaudeなどの独立型生成AIのほか、基幹業務プラットフォーム、コミュニケーションツール、開発ツール、データ基盤、デザインツールにカテゴリーを分け、広範なデジタルサービスを観測しています。対象期間は2022年1月から2025年6月、業種は12業種です。

2つ目は、インテージリサーチ社と共同で2026年1月に実施した約51,000人の全国アンケート調査で、国勢調査等に準拠し、性別・年齢・居住地・年収などが日本全体の人口構成に近くなるよう、デジタル活用に積極的な中小企業に偏りがちなクラウド会計データを補完できるように設計しています。こちらは個人がどのサービスをいつから使っているか、どの場面でどのように使っているか、どの程度AIに任せているかといった主観的な利用実態を把握することが目的です。

クラウド会計データが示す業種別の利用動向と導入タイミング

クラウド会計データでは、業種ごとの独立型生成AI利用率に明確な差が見られました。まず2022年11月のGPT-3.5公開・2023年3月のGPT-4公開のタイミングで全業種が一斉に立ち上がるという同期性が確認されたのですが、いったん形成された順位が観測期間中ほとんど入れ替わらないという点が特徴的です。ICT(情報通信技術)業種が最も利用率が高く、教育、サービスと続き、製造業がほぼ中央に、伝統的な業種や対面場面の多い業種では低い傾向にあります。ただし対面業種であっても教育やサービスは利用率が高く、縦割りの業種分類だけでは捉えられない多様性があります。一番利用率の高いICT業種はデジタルツール全体をバランスよく活用しているのに対し、一番低い建設業種は全体に低水準で、生成AIがタスク環境に応じて選択的に利用されていることが示唆されました。また、企業規模が大きいほど高い利用率の傾向にあるコミュニケーションツールとは異なり、生成AIの利用率に関しては規模による差があまりない点も特徴的です。

さらに初回利用時点の月別分布を業種ごとに可視化すると、3つのパターンが見えてきます。第1は2023年の第1波集中型で、一気に立ち上がった後じわじわと増えるタイプです。ICT・教育・サービス業がこれに当たります。第2は二峰型で、第1波と2025年1月以降の第2波に同程度のピークが現れ、最初は様子見だったが後から参入した業種です。小売・製造・金融業などがこれに当たります。第3は第2波のピークがより高い型で、建設・運輸・飲食など、遅れて参入したが急速に利用が広がっているタイプです。多くの業種で共通した利用開始パターンが観察されることから、こうした分布はS字カーブの一般的な技術普及モデルとは異なり、外生的なリリースイベントが利用開始の重要な契機となっていることを示しています。

アンケート調査が示す個人の利用実態

インテージリサーチ社との5万人アンケートは今年で4回目となる調査で、今年は生成AI利用を重点テーマとしました。51,824人のうち、2026年1月時点で生成AIを「知っている」と答えた人は73.8%。「利用していますか」という質問について、仕事での利用率は39.5%、個人での利用率は45.4%で、個人利用が仕事利用を上回っています。有償利用は7.5%にとどまります。ChatGPTが圧倒的な認知度を持ち、GeminiとChatGPTは個人利用が相対的に多く、Copilotは仕事利用が多い傾向がありました。

生成AIの使い方については、「参照」(人間が8~9割)、「協働」(ほぼ50:50)、「任せる」(丸投げ)の3段階で調査しました。「任せる」の割合はすでに2割弱を占めていますが、もう少し高い可能性もあります。またそれぞれの利用モード別に、どんな場面で使うかも分析しました。「参照」の利用場面トップ3は文章作成、検索エンジンの代替、要約・校正で、「協働」ではさらにアイデア出しが入ってきます。自由記述では、プログラミングやコード作成を挙げる回答が多く見られました。「任せる」利用では、議事録・文字起こしや、占いなど判断を伴わない用途があがってきているのも特徴的でした。また、課金ユーザーは思考系・判断系のタスクを任せる傾向があるのに対し、無課金ユーザーは作業系タスクに生成AIを活用していました。また、3つの利用モードに共通して、選択肢に当てはまらないという回答も相当数あり、言語化できない多様な使われ方が広がっていることが示唆されます。

データの重要性と政策的インプリケーション

本報告ではクラウド会計データとアンケートデータを合わせることで、生成AIの普及について導入と浸透の両面を見てきました。まず、よくファクトを観察し、データの可能性を感じていただけたら嬉しいです。現在は、他にもさまざまなビッグデータを政策立案に活用できる状況にあり、生成AIの普及について今のうちに記録を残すことが重要です。政策的含意としては、補助金等で機器導入を促す段階は終わりつつあり、「何をAIに任せてよいか」を設計する支援が必要になっていると考えます。課金できるかどうか・任せ方を知っているかで、業務や個人のアウトプットに格差が生まれてしまうので、この「委任格差」への対応も次のステップとして求められています。

コメント

楠瀬:
小西先生のご発表を伺い、ご発表のSaaS利用とステージは異なるものの、うまくデジタルツールを活用している層の中でもさらに格差があること、またその下にはいまだに紙を使っている地方の企業層もあるという構図は、経済産業省の問題意識とも重なります。実際、独立行政法人情報処理推進機構によるDX(デジタルトランスフォーメーション)動向調査では、DXが進まない理由として「DX を推進する人材がいない」という回答が多数を占めます。DXに取り組む企業は年々増えているものの、成果が出ていると回答した企業の割合は米国やドイツの約8割に対して、日本は約6割弱にとどまっています。またDXを推進できる人材が足りていると回答した企業は日本では約4.5%程度と、米国の約7割と大きな開きがあります。こうした状況を踏まえ、経産省では、例えば、DXセレクションなど、DXで成果を創出している中小企業等の選定・表彰を通じたモデルケースとなる優良事例の紹介や、デジタルスキル標準に基づくオンライン教育ポータル「マナビDX」の整備、ケーススタディや地域企業協働プログラムによる座学から実践への接続など、企業のDX推進と人材育成を両輪で進めています。

小西先生のご発表でも業種によって生成AIとの相性に差があることがデータで明確に示されました。ICT・教育はマルチタスクに活用しやすい業種である一方、飲食・運輸・医療・製造など日本の従来の強みを担う業種ほど利用が進んでいない課題があります。上位業種と同じアプローチを横展開するのではなく、各業種の中でできることのゴールを示していくべきではないかと考えますが、先生のご所見をお聞かせいただけますか。

小西:
おっしゃる通りです。縦割りの業種分類よりも、それぞれの業種の中にどういう活用が可能なのかを国が例示し後押しする必要があります。また、表彰制度の対象となるような先進企業はある意味放っておいても活用が進んでいきますので、政策が届くべきは起爆剤がないまま停滞している層だと思います。運輸や建設などの利用率が低い業種において、すでに積極的に活用している企業の特徴や取り組みをヒアリングすることにより、政策立案に役立つ知見を得られるのではないでしょうか。

Q&A

Q:
クラウド会計データでは人事や営業部門など業務タスクの把握が難しいのではないでしょうか。

小西:
例えば採用コストや外部委託費用といった財務諸表データから間接的に変化を捉えるなど、観測が難しい業務タスクについても、関連するデータを用いて分析できる方法を模索しています。

Q:
日本の生成AI利用は欧米と比べてどう異なるでしょうか。

小西:
楠瀬さんが示されたDX動向調査が一つの答えだと思います。成果が出ている企業の割合や人材充足度の面で日本は欧米と比べて遅れていますが、生成AIはキャッチアップしやすい技術特性があり、今後のキャッチアップの余地は十分にあると考えています。

Q:
生成AIの利用と生産性の関係に関心が高いと思います。アンケート調査では生産性効果について聞いているのでしょうか。

小西:
今回は入れていません。一時点で主観的な生産性を聞くことの難しさもあり、場面ごとの使われ方を捉えることを優先しました。クラウド会計データでは企業レベルの生産性推計を別途行っています。また、個人については、生成AIの利用とウェルビーイングとの関係を分析することも有効だと考えています。

Q:
年功序列組織では意思決定者がAIに不慣れなケースが多いと思います。若手の知見を経営層に浸透させるための政策の方向性はあるでしょうか。

楠瀬:
事業承継で世代交代が進む中、危機感を持った次の世代がデジタル化を推進する事例もでてきています。社長の一声で全社員が生成AIなどを使い始め、最終的にアプリ開発や企業連携まで発展した事例もあります。デジタル推進人材が社内変革を担い、経営者はその試行錯誤を信じて実行するという流れなどを、政府としてもDXセレクションなどを通じて発信していきたいと思います。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。