2025年大阪・関西万博シリーズ

捨てられていた電気とCO2が燃料になる社会-再エネ非活用電力・CO2・廃棄物・水素を循環させる「地域CO2ループ」という新しい社会インフラ

開催日 2026年3月17日
スピーカー 光山 昌浩(サステイナブルエネルギー開発株式会社 代表取締役社長)
スピーカー 緑川社長(株式会社プロトンシステム 代表取締役社長)
コメンテータ 柏木 孝夫(東京科学大学名誉教授)
モデレータ 堺井 啓公(RIETI国際・広報ディレクター)
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開催案内/講演概要

本セミナーでは、2025年大阪・関西万博でも紹介された「地域CO2ループ」について取り上げる。「地域CO2ループ」とは、出力制御によって活用されない電力や二酸化炭素(CO2)、有機廃棄物を活用し、水素生成やCO2回収と組み合わせてエネルギー・資源の流れを一方向から循環型へと転換するシステムである。サステイナブルエネルギー開発株式会社の光山昌浩社長は、「地域CO2ループ」の構想と、その実装に向けたISOP、QbR、DG精製装置等の取り組みについて、株式会社プロトンシステムの緑川社長は、無電解水素生成装置および常温CO2吸脱着装置について解説し、捨てられていた電力とCO2を資源として地域内で循環させる新たな社会インフラについて議論した。

※サステイナブルエネルギー開発株式会社と株式会社プロトンシステムの間には、現時点において業務上の連携または提携関係はございません。

議事録

「地域CO2ループについて」

地域CO2ループとは:地域資源を循環させるエネルギー構造

光山:
われわれは、廃棄物、二酸化炭素(CO2)、出力制御で使われていない再生可能エネルギー電力を地域内で循環させ、エネルギーと資源の流れを一方向から循環型に転換する構造の設計に取り組んでいます。

地域エネルギーを考える際に、大きく3つの構造問題があります。第1がエネルギー安全保障です。日本の化石燃料は約9割を海外から輸入しており、外部の燃料に依存する構造となっています。第2が再エネ出力制御問題です。再エネ導入が拡大する一方で系統制約のために電力を十分に使い切れない状況が生じています。第3が廃棄物問題です。地域では依然として焼却依存が強く、CO2が排出されている中、処理費も上昇しています。

つまり、エネルギーを外から買い、使い、捨てるという一方向の構造がこれらの問題を同時に生んでいるのです。そこで私たちは、エネルギーの構造自体を変える受け皿として地域CO2ループを構想しました。地域CO2ループは単なる技術の組み合わせではなく、エネルギーを消費する構造から循環させる構造への転換であり、その結果として外部依存から地域での内製化に重心を移すことができます。

地域CO2ループは3つの技術で構成されます。1つ目がISOP(Integrated Subcritical-water Organic-waste Processing)という、廃棄物を地域エネルギーに変える技術です。エネルギーの外部依存から内製化へ向かう役割を担い、これまで外部に払い続けていた処理費を地域のエネルギーコストに組み替えることができます。

2つ目がQbR(Quality by Reaction)という技術コンセプトで、使い切れない電力を液体燃料として保持し、エネルギーの時間軸を拡張することを目指すものです。FT合成のように一から炭化水素を合成する発想とは異なり、CO2由来炭素を活用しながら、用途に応じた液体燃料領域へ近づけていく考え方です。

3つ目がDG精製装置で、非常時に必ず動く電源を守るための燃料保全技術です。非常用電源の弱点は発電機自体ではなく燃料の劣化であるため、この装置によってタンク内の燃料を循環させながら精製し、常に使える状態を維持します。

これら3つの技術がそろって、地域CO2ループは平時と非常時の両方に機能する構造になるのです。

地域の課題を1つに束ね直す

エネルギーの問題は、制度上ではエネルギー政策、廃棄物行政、インフラのレジリエンスといった別々の領域で扱われますが、地域の現場では別々の課題として現れることは決してありません。地域CO2ループは、分断された制度領域を個別技術の寄せ集めではなく1つの構造設計として束ね直す考え方をとっています。

しかも、分断によるコストがエネルギー安全保障、電力系統安定化、地域資源循環という形で同時に表面化しています。地域CO2ループはこれら3つの政策課題に同時に応える構造なのです。

エネルギー安全保障に関しては、地域内でエネルギーを内製化できれば、輸入依存を下げ、地政学リスクへの耐性を高めることができます。電力系統安定化に関しては、出力制御によって使い切れない電力を燃料に転換できれば、再エネ導入の余地を広げることができます。地域資源循環に関しては、これまで処理費として外に出ていた廃棄物をエネルギー価値に転換することで、負担を資源として組み替えることができます。そして、その先に地域のエネルギー自立が可能となるわけです。

地域CO2ループの実装に向けて

この構想をどの地域から導入できるかというと、必ずしも県単位で考える必要はなく、市町村圏、工業団地、工場のように、CO2、未利用電力、エネルギー需要が一定の密度で存在する単位から始めるのが現実的だと思います。

また3つの技術は同じ成熟状況にあるわけではなく、ISOPは市場導入可能な段階にあります。一方で、QbRとDG精製装置は特許出願を終え、実証に向けた準備を進めている段階です。従って、全ての技術が同時に完成するのを待つのではなく、実装可能な技術を入り口として地域ごとに段階的に接続していくことが求められます。

ステークホルダーの役割としては、自治体には廃棄物・エネルギー・防災の課題を個別に扱うのではなく、地域全体の設計として束ねることが求められますし、国には実証、標準化、初期導入を支える政策的な後押しが求められます。産業界には設備実装と運用の担い手としての役割が、住民には地域エネルギーの価値共有と合意形成への参加が期待されます。

そして技術単体の性能ではなく、個々の技術を地域の制度、需要、インフラ運用と結び付け、実際に動く実装モデルをつくることが必要です。課題は構造としての実装にあります。

日本のエネルギー問題は、資源が足りないことではありません。資源を資源として生かす構造をまだ設計していないことにあります。地域CO2ループは技術の提案ではなく、エネルギー問題を構造で解く設計思想の提案なのです。

コメント

柏木:
光山さんからお話しいただいた物質循環自体が日本の強靭化(きょうじんか)につながり、このシステムを入れることで地域全体の循環を良くして、いざというときには液体燃料や他のCO2フリーの燃料としてためておくこともできます。

再生可能エネルギーについては、光山さんの技術を活用することで有用な燃料等に変換して循環利用を促進でき、これは2025年2月に閣議決定されたGX2040(「GX2040ビジョン 脱炭素成長型経済構造移行推進戦略 改訂」)をまさに実践しているテクノロジーだと思います。

こうしたシステムが地域に導入され、エネルギーを自ら供給・貯蔵する仕組みが構築されることが日本の成長戦略であり、これからの発展につながっていくと思います。

「無電解水素生成技術・常温二酸化炭素吸脱着技術について」

両技術の優位性

緑川:
水素を簡単に生成する上で、水を電気分解するとどうしても電気エネルギーが必要になるため、われわれは化学反応で安全に作れる技術の開発を目指してきました。その結果、水を加工して反応が進む水系反応液の製造に成功しました。無電解水素生成技術は、鉄という安価な素材と水系反応液を混ぜるだけで瞬時に水素が発生するという技術です。

また、常温でCO2を吸脱着できる常温二酸化炭素吸脱着技術の開発にも成功しました。化石燃料の使用を抑えるよりも、石油由来のエネルギーを取り出した後に排出されるCO2、窒素酸化物(NOX)、硫黄酸化物(SOX)などを全て回収した方が早いと考え、冷却・加温せずに容易に吸脱着できる技術を15年ほどかけて開発し、ようやく商品化のめどが立っています。

無電解水素生成技術について

従来の水素生成技術では必要なときに必要な量を簡単に作ることが難しいため、われわれは反応液と鉄を混ぜるだけで小規模から大規模までの水素を生成する技術に取り組んでいます。投入する鉄の量で発生量を変えられ、反応液の量で反応時間を制御することもできるという従来にない水素生成技術です。

約1m角のキュービクル型の水素生成槽で1時間に200Lの水素を作ることができます。これまで水素は高圧で輸入しなければ効率が悪かったため、数十メガパスカルという形で輸入して、それを0.7メガパスカル程度まで落とすことで水素を安定供給しながら発電していました。しかし、われわれの技術では水素の発生量を低く抑えることができるため、工場が高圧ガス保安法に抵触することもありませんし、届け出がなくても古くなった工場や小屋で水素を作ることができます。

基本的に鉄1gで水素400ccを作ることができるという計算の下、生成槽の中で約半年間、24時間水素を出し続けることができ、なおかつメンテナンスもしやすくなっています。水素は危険と思われがちですが、ガスと同様、熱源を与えなければ爆発しませんし、緊急停止もできるように設計してあります。

常温二酸化炭素吸脱着技術について

CO2の分離・回収は基本的にアミン吸収法が主流のようですが、アミン吸収体自体に毒性があり、CO2を吸脱着する際に冷却と加温に伴うエネルギーが必要となります。そこで、毒性がないものを使って常温で吸脱着できるものを開発しました。将来的には全自動で吸脱着を連続的に行えるシステムを予定しており、その設計を年内に終わらせる方向で進んでいます。

化石燃料の使用を抑えることも大事ですが、発生したCO2を回収することで、これがカーボンクレジットとなり、いろいろなお金に換わっていきますし、先ほどの水素生成技術と併せてCO2と結合させるとメタンの人工合成ができるところまで研究が進んでいます。それから、純粋なCO2のみを回収することができれば、それが商品となり、ビールサーバーに使用する炭酸ガスなどとしても再利用できます。現在、日本は海外で化石燃料を利用してCO2を生成し、それをボンベ化して輸入していますが、この技術があれば新たにCO2を作る必要はなくなります。

CO2は化石燃料由来だけでなく大気中にも存在するので、大気中からCO2を回収し、野菜工場内でも使用しています。つまり、工場内で高濃度のCO2を作り出し、液化やボンベ化したCO2を移動することなく、野菜工場で大気中のCO2だけを回収し、その場で高濃度で使うことを想定しています。現在は野菜工場との折衝で、具体的にどの方法が最善かを模索している段階です。

われわれは簡単に水素を作る技術と、CO2を常温で吸脱着する技術によって、CO2排出を減らそうという掛け声だけでなく、実際にCO2を回収して、それを地域で消費するシステムを構築していきたいと考えています。

コメント

柏木:
水素生成については電力を使わずに化学反応で達成している点が大きなポイントで、現在かなり割高となっているグリーン電力の価格抑制につながることが期待されます。CO2の吸脱着については、最終的にはメタネーションのような形で実装できればいいのではないかと思います。そういう意味では、全体のシステムのメリットをうたっていくことが非常に重要でしょう。

Q&A

Q:
QbRについて、エネルギー効率の観点から定量的にはどのように評価できるのでしょうか。

光山:
エネルギー効率は非常に重要な指標ですが、QbRに関しては単純な変換効率だけで評価するのは適切ではないと考えています。というのも、QbRが対象としているのは、その時点で使い切れない電力だからです。評価の出発点としては、燃料の変換効率単体ではなく、使われずに失われる電力をどの程度エネルギーとして回収できるかという観点になると思っています。

CO2から燃料への変換効率は、前提条件やプロセス設計によって大きく異なるため、一概に評価することは難しいと考えています。ここでご理解いただきたいのは、QbRが単に燃料を作る技術ではなく、使われずに失われる電力を液体燃料という形で保持し、必要な場所で使えるようにする技術コンセプトだということです。そうした点から、変換効率単体ではなく、未利用電力をどの程度エネルギーとして回収・保持できるかという観点から評価していただきたいと考えています。また、液体燃料という形にすることで、蓄電池とは異なる長期保管・輸送の可能性があると考えております。

Q:
緑川社長の2つの技術は特許を取得済みでしょうか。

緑川:
常温二酸化炭素吸脱着技術は、日本、カナダでは特許を取得済みで、欧州や米国などにも国際特許出願中です。この技術が実装できれば海外でも展開できると考えています。無電解水素生成技術は出願中です。

Q:
光山社長は、炭素と水素の触媒として何をお使いでしょうか。また、ISOPの処理能力とランニングコストはどのくらいでしょうか。

光山:
触媒に関しては特許出願中であり、この場では詳細を控えたいと思いますが、基本的な考え方としてQbRは炭素を一度に大きく組み上げるのではなく、段階的に炭素を付加する反応系を前提として、安定的に制御できる触媒設計を行っています。ですから、特定の触媒に依存する技術というよりは、反応系全体の設計によって維持可能なシステムであると考えています。

ISOPのランニングコスト等に関しては、目安としては年間数千トンの食品廃棄物が発生する工場において、従来の外部委託処理費と比べて15年程度で数億円以上の経済効果を成し得る構造と考えています。ただ、ISOPは単に処理費を下げるものではなく、廃棄物から得られる燃料を熱利用や発電に回すことで、外部から購入していたエネルギーの一部を代替できる点がポイントであり、処理費とエネルギーコストを一体で設計する仕組みと考えていただければと思います。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。