| 開催日 | 2026年2月6日 |
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| スピーカー | 菊池 貞雄(畜産衛生学博士 / バイオマスリサーチ株式会社 代表取締役社長 / 株式会社ビオストック 取締役副社長 / オホーツク湧別バイオガス株式会社取締役) |
| コメンテータ | 北野 良夫(獣医学博士 / 元 鹿児島県農政部次長・獣医務技監 / 鹿児島大学共同獣医学部非常勤講師) |
| モデレータ | 堺井 啓公(RIETI国際・広報ディレクター) |
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| 開催案内/講演概要 | バイオガス事業は、畜産ふん尿問題への対応として1990年代後半に始まり、固定価格買取制度(FIT)を背景に再生可能エネルギーとして展開されてきた。近年は畜産ふん尿、生ごみ、し尿汚泥など多様な有機資源を活用し、エネルギー化とコスト削減を両立させる循環経済への貢献が期待されている。本セミナーでは、畜産衛生学博士でバイオマスリサーチ株式会社代表取締役社長等を務める菊池貞雄氏が、バイオガスプラントの実践事例を紹介しながら、エネルギー利用と肥料生産を組み合わせた地域資源循環の現状と課題を整理し、地域経済や住民定住、産業の持続的発展に資する可能性について考えを述べた。 |
議事録
バイオガスの取り組みの背景
われわれがバイオガスに取り組んだ背景には、農村の活性化が求められる中で、農林漁業の収入が十分に確保されていないという強い問題意識があります。最終消費に占める飲食費の割合は、1980年には25%であったものが、2020年には12.6%まで低下しており、実際の金額も12.3兆円から9.6兆円に減少しています。こうした変化により、農業・畜産分野が取り込める付加価値は長期的に縮小し、収益機会そのものも減少している状況にあります。
こうした環境の中では、単に生産量を拡大するだけでは持続的な経営は難しく、付加価値をいかに高めるか、あるいはコスト構造をどのように見直すかが重要な課題であると考えました。
地域内での資源循環
有機資源の活用は、家畜ふん尿をはじめ、食品廃棄物や農業残さ、下水汚泥等といった地域内に存在する多様な資源を対象に、これまで分断されていた複数の機能をつなぎ直し、地域内で価値を循環させる可能性を持っています。とりわけ、従来は処理コストを伴っていた資源に新たな役割を持たせることで、複数の機能を兼ね備えた基盤として活用できる点に特徴があります。
農業経営と採算性
実際の現場における検討では、バイオガスプラントの経済性は単純な発電収入だけでは評価できないことが明らかとなっています。初期投資や運用コストを踏まえると、電力収入単体では収支が均衡しないケースも見られますが、従来必要であったふん尿処理費用の削減に加え、生産性の向上や資材費の見直し、労働負荷の軽減などを含めてとらえることで、全体としての経済効果が成立する構造となっています。
また、こうした効果は個別経営にとどまらず、地域全体で資源処理やコストを共有することで、より大きな効率化につながる可能性があります。従来は個別に発生していた廃棄物処理や資材投入に関するコストを一体的に扱うことで、地域全体としての負担軽減が図られます。
さらに、投入される資源の特性によってガス発生量や効率が大きく異なることから、実際の現場条件に基づいた検証が重要となります。われわれの調査においても、文献値と現場との乖離(かいり)を確認する観点から検証を行っており、資源特性や組み合わせによって結果が大きく変動することが示唆されています。
加えて、既存の堆肥処理と比較した場合でも、単純なコスト比較だけではなく、回収や運搬、処理の一体化といったサービス性や運用面を含めて評価する必要があります。こうした観点を踏まえると、今後は従来の処理手法から、より効率的な資源循環型の仕組みへと移行していく可能性があります。
総じて、バイオガスプラントの採算性は単一の収益構造ではなく、複数の効果が組み合わさることで成立する点に特徴があり、その評価にあたっては全体最適の視点が不可欠です。
地域の展開事例
北海道においては、現在約120基のバイオガスプラントが稼働しています。酪農の大規模化に伴い、ふん尿処理の負担軽減や環境対応の必要性を背景として、バイオガスの取り組みが一定程度広がってきた経緯があります。個別経営による導入に加え、複数の農家や自治体が関与する形での資源処理の集約化も進められており、地域全体で課題に対応しようとする動きが見られます。
われわれバイオマスリサーチは、本部農場がある新富町(宮崎県)および宮崎県と3者連携協定を締結し、家畜ふん尿や食品廃棄物といった地域資源を活用しながら、バイオガスプラントを核とした取り組みを進めています。本取り組みにおいては、有機肥料の供給や施設園芸への熱利用、電力の活用など、複数の要素を組み合わせた形で地域内の資源循環を図っています。
こうした宮崎県の事例では、資源の受け入れから活用までを一体的にとらえることで、処理負担の軽減と新たな価値創出の両立が図られています。地域内で資源を循環させながら、エネルギー利用や農業生産への還元を組み合わせることで、単体の機能に依存しない安定的な運用が実現されつつあります。さらに、これらの取り組みは周辺の生産活動や資源処理のあり方にも影響を及ぼし、地域全体での資源活用の在り方を見直す契機となっている点も特徴的です。
また、こうした循環の中で生じる消化液(以下、バイオ液肥)の活用を広げていく観点から、㈱バイオ液肥研究所を設立し、地域内での利活用の促進に向けた取り組みを進めています。循環を持続的に機能させていくためには、こうした担い手の存在が重要になると考えられます。
これらの取り組みの効果は単一の指標ではとらえにくく、処理負担の軽減やコスト構造の見直し、資源の有効活用など、複数の要素が重なり合って現れる傾向があります。そのため、従来の見方にとらわれず、複合的な価値として丁寧にとらえていくことが求められます。
バイオ液肥による効果と栽培
資源循環の過程で生じる副産物であるバイオ液肥については、帯広畜産大学の研究によると、われわれのバイオ液肥を対象とした特性評価が行われています。その結果、有害微生物が大幅に低減される傾向が確認されており、農業利用に向けた安全性の観点から一定の知見が得られています。
また、同研究では、バイオ液肥が特定の条件下で微生物の増殖を抑制するような挙動を示す可能性も示唆されており、農業利用における付加的な効果が期待されています。ただし、これらの効果は利用環境や条件に依存する側面があるため、今後も継続的な検証が必要とされます。
さらに、耕種農業においては、化学肥料が生産コストの一定割合を占めている(例として小麦は17%、ジャガイモは13%、デントコーンは33%)ことから、バイオ液肥を代替資源として活用することで、コスト構造の見直しにつながる可能性があります。加えて、実際の圃場における検証においては、バイオ液肥のみを施用した場合(例として小麦畑)に、雑草の発生が抑えられ、作物の倒伏が見られないといった効果が確認されており、これらは非常に重要な効果のひとつです。
総じて、バイオ液肥は単なる副産物にとどまらず、適切に活用することで農業生産やコスト構造に影響を与え得る資源として位置づけられ、地域条件に応じた活用の可能性を探っていくことが重要です。
今後に向けた視点
資源の活用にあたっては、設備の導入だけでなく、地域ごとの資源の特性や発生のあり方、関係主体の関わり方を踏まえた運用が重要です。画一的な形を当てはめるのではなく、それぞれの地域に合った形で展開していくことが現実的といえます。
総じて、有機資源を活用した循環型の取り組みは、個別の事業にとどまらず、地域を支える基盤の一つとしてとらえていくことが重要です。今後は、地域の実情に応じた多様な形を認めながら、持続的な仕組みとして定着させていく視点が求められます。
われわれバイオマスリサーチは、こうした取り組みを通じて、地域の魅力や持続性を高めることを目指しています。具体的には、エネルギーのあり方や資源処理の効率化、地域内での付加価値創出など、複数の要素を組み合わせながら、農村地域の新たな可能性を引き出していきたいと考えています。
コメント
30数年間の畜産行政の経験を踏まえると、規模が拡大する中で持続的な形を維持していくためには、個別の対応だけでなく、地域の中で複数の課題を一体的にとらえていく視点が重要になると考えられます。特に、資源管理や環境対応といった側面を分けて考えるのではなく、相互に関連づけながら対応していくことが求められます。
また、地域には家畜排せつ物や食品廃棄物など多様な有機資源が存在しており、従来は処理負担としてとらえられてきたこれらの資源についても、適切に扱い循環させることで、地域全体にとっての価値につながる可能性があります。こうした取り組みは、生活環境の改善や地域の安定性の向上といった側面にも一定の影響を持つと考えられます。
このような文脈の中で、バイオガスプラントは、有機資源の適正な処理と有効活用を同時に実現し得る手段の一つとして位置づけられます。単なるエネルギー供給設備にとどまらず、資源循環を支える基盤として、多面的な役割を担う可能性があります。
総じて、地域に存在する資源をどのように位置づけ直し、持続的に活用していくかという視点が、今後の地域のあり方を考える上で一つの方向性になると考えられます。こうした観点から、バイオガスプラントの導入・活用を含めた取り組みを着実に進めていくことが重要です。
Q&A
Q:
メタンガスは燃焼させて電力として活用されていますが、将来的にはメタネーションと組み合わせてガスとして使用する選択肢もあると思います。そのあたりは検討されていますか。
菊池:
今は水素化やプロパンガスへの変換などさまざまなエネルギーのとらえ方、資源として再生・活用する動きが、国の補助事業などによって進んでいます。採算面ではまだまだ十分ではありませんが、研究を進めていけばいずれ市場価格とのバランスが取れると思うので、非常に期待しています。中でも消化液については、濃縮などさまざまな取り組みが進んでおり、今まで7tまいていたものが1tで済む技術開発も進んでいます。ただ、コストとのバランスの追求が今の課題だと思います。
Q:
さまざまな廃棄物でガス発酵が可能であるとして、廃棄物ごとに菌種や菌叢を最適化する余地はあるのでしょうか。多様な廃棄物も1つのプラントに入れ込んで発酵させることを前提としているのでしょうか。
菊池:
われわれの行った例では、焼酎かすは通常の家畜ふん尿のバイオガスの種菌では発酵しなかったのですが、有機廃棄物や汚泥の工場などのメタン発酵の菌で発酵した例があります。こうした研究の余地はあると思いますが、混合発酵がこれからも選択されるでしょう。その場合、相性のようなものがあるかもしれませんが、現段階では十分に明らかになっていません。
Q:
バイオガスは発電や売電一辺倒だったものが、最近はエネルギーとしての販売が見られます。これは主流になりつつありますか。
菊池:
ガスの燃料利用はこれから非常に期待されますし、フランスなどではメタンを取り出してそれを圧縮する技術でメタンガスを運ぶことも行われています。日本でもガスをそのまま使う工夫は進んでいますが、実際にはなかなか行われていません。
Q:
馬鈴薯は有機肥料散布を嫌がる生産者が多いのですが、消化液にすれば散布可能になることが期待できるでしょうか。
菊池:
ジャガイモはもともと弱酸性土壌が好きなのですが、バイオガスの消化液はpH8なので、まくのはいかがなものかという話が当初はありました。しかし実験では、そうか病などに対して効果があるという結果も出ています。
Q:
FITは当初から35円まで下がっていますが、今後何円まで下がると売電の採算が合わなくなるのでしょうか。
菊池:
難しい質問ですね。というのは、例えばわが家では北海道電力から1kWhあたり39円の電力を買っています。ですから、自分のところで使うと39円なのです。約250頭の農場では自分がバイオガスで発電したものの半分程度は使い切れないため、それを他農家に分けられれば、FITの買取価格は35円ですけれども、実際は仮に39円で使っているとすればその段階で採算性はあります。
ですから、連携しながらエネルギーを使うといいでしょう。電力で渡さなくても、ガスで渡してもいいですし、その他さまざまな事に使う事ができます。ガスにしろ、電気にしろ、持っていることがとても重要で、建設されたときと同じ金額で20年後も電気が供給されれば、それは農家にとっては非常に良いことだと思います。
この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。