都市の風景から読み解く都市経済学の最前線

開催日 2026年2月5日
スピーカー 中島 賢太郎(RIETIファカルティフェロー / 一橋大学イノベーション研究センター教授)
コメンテータ 山岸 圭輔(RIETIコンサルティングフェロー / 国土交通省国土政策局総合計画課計画官)
モデレータ 関口 陽一(RIETI研究調整ディレクター(併)上席研究員)
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開催案内/講演概要

都市経済学は、都市においてどのように経済活動が行われ、その結果どういった問題が生じ、その対処としてどんな政策が有効かを研究する学問分野であり、経済学の間で近年大きな盛り上がりを見せている。その背景として、スマートフォンの衛星利用測位システム(GPS)データや衛星画像など、高い粒度で都市住民・企業の活動をとらえることができるデータの利用拡大が挙げられる。本セミナーでは、2025年に発刊された『歩いて学ぶ都市経済学』の著者の一人、中島賢太郎一橋大学イノベーション研究センター教授が登壇し、最新の都市経済学の実証研究を紹介。新しいデータと政府統計データを補完的に利用することによってより良い研究・政策評価が可能となるとの見方を示した。

議事録

最近の都市経済学のイシューから

私は2025年、同志社大学の手島健介先生、京都大学の山﨑潤一先生とともに『歩いて学ぶ都市経済学』という本を発刊しました。都市経済学の入門書的な内容であり、経済学を専門としていない方にも面白く読んでもらえるように工夫して書きました。というのも、実際の都市の風景をきっかけに、その背後にある経済学的メカニズムを解説する中で、都市経済学の面白さを理解してほしいと思ったからです。本日はこの本を手がかりに、都市経済学のホットトピックである商業集積について紹介したいと思います。

この本を書くに当たって意識してきた都市経済学での重要なイシューとしては、1つは数量的モデル分析があります。最近、モデルを使って現実の都市の経済や国土の形をシミュレートし、その中で政策評価をしたり、そのメカニズムを突き止めるような研究が増えています。

もう1つの重要なトピックが、新しいデータの利用拡大です。これが都市経済学、空間経済学が学術界全体で盛り上がっている理由だと思います。そもそも最近は政府統計などの公式な統計データを使った実証研究が増えているのですが、それだけではとらえられない経済活動も多く、民間企業が提供するデータの利用も広がっています。実際、スマートフォンのGPSデータは、コロナ禍等において人流を迅速に把握しなければならないときに有効と考えられます。こうしたデータを信頼できる政府統計とともに補完的に利用することで、より良い研究・政策評価ができるのではないかと思います。

本日は商業集積のトピックについて、過去のRIETIのディスカッションペーパーとして公表した研究を2つご紹介します。

商業集積とショッピング外部性

商業集積とは、多様なお店が1つのエリアに集まっていて、そこにいろいろな人が買い物に来ている現象を指します。渋谷、新宿、銀座などの東京都心部に限らず、大阪や名古屋にも都心部があり、商店やレストランが集まるエリアがあります。あるいは、専門店が集まっているエリアも存在します。東京の神保町は日本最大の古本屋街として有名ですし、東京の高円寺や大阪のアメリカ村はファッション街として有名です。

しかし、よく考えてみると、企業には集まる理由がないようにも見えます。なぜなら価格競争をしているからです。全く同じ物を売っているお店が隣り合っていると、通常、消費者は安い方から買うので、価格競争が起こって利益が上がらない可能性があります。また、異なる業態同士が集まっていても、例えば靴を買うことで化粧品を買う予算が削られてしまうので、やはり同様の競争関係にあるはずです。

ですから、商業集積はパズル的な面があると考えられます。それは各店舗で販売されている商品・サービスがそれぞれ微妙に異なっている、差別化されているからです。われわれ消費者には、自分にぴったりな物(サイズ、色など)が欲しいという好みと、いろいろな種類の物(Tシャツ、帽子など)が欲しいという好みがあると思います。そうしたときに、多様な専門店が集まっているとさまざまな物を一度に買えるので、複数の店舗が集まっていることに意味があります。

こうした選好が生み出す外部効果のことを「ショッピング外部性」といいます。企業側から見れば、集まることによって、差別化した商品を好む消費者を集客できるので、自店の存在が周囲の他企業に正の影響を与えます。つまり、自店が存在することでそのエリアのバラエティが増え、周りの店舗の集客力も上げられるのです。こうしたショッピング外部性が競争効果を上回っていれば企業が集まり、商業集積が形成されると考えられます。

このショッピング外部性をデータから示すことが私の研究になります。リサーチクエスチョンの1つは、消費者がそもそもショッピング外部性を発生させるような購買行動を取っているのか、いろいろな場所を買い回るような移動行動を取っているのかということが挙げられます。もう1つは、商業集積がショッピング外部性を通じて周囲のパフォーマンスを向上させているのかということが挙げられます。この2点について取り組んだ研究をこれからご紹介したいと思います。

ショッピング外部性を発生させる購買行動を取っているか

まず1つ目のクエスチョンに関しては、そもそも消費者の移動行動が分からないということがデータ上の課題になっていました。それを解決する手段が皆さんご存じのスマートフォンのGPSデータです。匿名化されたスマホユーザーの位置情報を取得することで、その滞在パターンからユーザーがどの辺りに住んでいるか、どの辺りで働いているかをある程度推測できます。

それができると、勤務地以外の滞在は通勤以外の目的での滞在であることが推測できます。そしてなぜそこにいるのかという滞在目的も、周辺の施設情報などから確率的に推測できます。例えば商業施設が多いエリアであれば、そのエリアにいる人たちは買い物目的で滞在していると推測できます。GPSデータを活用することで、そうした非常に詳細な情報が得られるのです。

Miyauchi, Nakajima, Redding(2025)は、株式会社ゼンリンデータコムが提供する「混雑統計®」データを活用し、人流が都市構造に与える影響を、特に都市内消費のための移動行動に注目して分析しました。(注:「混雑統計®」データは、NTTドコモが提供するアプリケーションの利用者より、許諾を得た上で送信される携帯電話の位置情報を、NTTドコモが総体的かつ統計的に加工を行ったデータ。位置情報は最短5分毎に測位されるGPSデータ(緯度経度情報)であり、個人を特定する情報は含まれない。)

それによると、非通勤目的で移動している人が非常に多いことがまず分かりました。特に通勤目的の移動よりも非通勤目的の移動の方が距離が短いことから、われわれは日頃あまり遠くには移動したがらない傾向があることが分かりました。

そして、さまざまな場所をはしごすること(トリップチェーン)が多く、これがショッピング外部性の源泉になっている可能性が高いことが分かりました。推定居住地以外の場所で1日に15分以上滞在する回数は平均2.65回であることから、推定居住地を一度出たら2~3カ所回って帰ってきていることが分かりました。特に平日は職場と推定されるエリアに近い目的地に滞在している傾向が強く、職場とのトリップチェーンが重要な役割を果たしている可能性があります。

また、大型小売店が閉店した際には、ごく周辺の250mの範囲の人流は当然減るのですが、実は500mの範囲で見ても人流が落ちているのです。これは、大型小売店に行った際にその周辺の店舗にも立ち寄っていた人々が、大型小売店に行かなくなったために周辺エリアの人流も落ちたことを示しており、まさにショッピング外部性を表す証拠と解釈できます。

それからコロナ禍後の2022~2023年は、都心の消費活動は引き続き回復しなかったといわれています。遠くからわざわざ買い物に行く人が減ったという要因もあるのですが、それだけでなく、リモートワークの増加によって職場とのトリップチェーンが減少したことを考えないと、都心での消費活動の落ち込みは説明できないでしょう。

商業集積が立地店舗のパフォーマンスを向上させているか

もう1つのリサーチクエスチョンに関しては、商業集積の因果効果の切り分けはなかなか難しく、単に高い賃料を払える良店が出店しているだけとも考えられます。商店・企業が自ら場所を選べるため、自身の特徴と立地が相関してしまい、ショッピング外部性の効果を正確には測れないのですが、強制立地のケースであればこの問題を解決できます。その1つが築地市場です。

築地市場にはいろいろなタイプの仲卸がいたのですが、立地場所は抽選で決められたため、お店側では場所を選べませんでした。その点で、築地市場はショッピング外部性を測るための理想的な環境にあるわけです。ショッピング外部性が強く起こりそうなエリアに出店できるかどうかがポイントとなり、外部性が高いエリアに立地した場合と低いエリアに立地した場合の売り上げを比較することで、ショッピング外部性の効果を測ることができます。

すると、自店の周囲にいろいろな種類の仲卸がいれば、魚種などで特化した店舗にとっては非常に良い効果が生まれます。いろいろな人たちが買い回るため、集客力が上がるからです。つまり、近隣に多様性に富んだ店があることは、ショッピング外部性を通じてパフォーマンスが上げる傾向にあることが分かりました。

特に、通路を挟んで向かい合っている店同士は売り上げに影響がみられましたが、バックヤードを挟んで背中合わせになっている店同士は影響を受けず、これは買い回りを通じたショッピング外部性による近隣効果であるという蓋然(がいぜん)性が非常に高まる結果となりました。

われわれが日頃眺めている都市の風景の背後には、必ず何らかの経済学的メカニズムがあります。そうしたものを見つけるところから都市経済学に関心を持っていただければと思いますし、新しいデータと政府統計とをセットで補完的に利用することで、より良い都市政策の評価ができると考えています。

コメント

山岸:
ビッグデータや統計調査の個票データを使った分析手法が近年発展していますが、それが経済政策の観点でどう役立っているのか、分からないという面もありました。しかし、今回の著書によってその点を分かりやすく示していただいたことは非常に重要なことだと思っています。

こうした実証分析の研究成果から、実際の政策にどのようなインプリケーションを与えることができるでしょうか。そして都市経済学の観点では、東京一極集中ではなく、もっと他地域に分散した方がいいというメルクマール(指標)のようなものはあるのでしょうか。

中島:
政策インプリケーションを考える上では、まず、その現象がどのようなメカニズムで経済活動に影響するのか、あるいは国土の形を決めるのかを理解することが非常に重要だと思いますので、その点で最新の研究成果は役に立つのではないかと理解しています。

一極か多極かという議論については、都市経済学や地域経済学では「空間均衡」という人や企業が移動しない状態を指す概念があり、都市が安定的であるから人が移動しないと考えられています。現実には完全な一極集中は起こっておらず、まださまざまな都市があり、少しずつ人も動いているとは思いますが、政策評価をする上でも、「基本的にはどこにいても大きな差がない」という空間均衡をベースにまず考えるというのが都市経済学者としての基本的な姿勢になると思います。そういう意味では、一極か多極かという議論は、私の知る限りあまりないように思います。

Q&A

Q:
人流データはまちづくりに有効利用できるというお話でしたが、都市部だけでなく地方の都市政策の策定においても使えるのでしょうか。

中島:
使えると思います。スマホデータは日本全国にあり、人流をとらえることは日本であればどこでも可能です。詳細な移動パターンが理解できる人流データは、都市部だけでなく地方の政策を考える上でも非常に有効な基礎データになると考えています。

Q:
コロナ以降、リモートワークの増加による人流への効果についてモジュール定量的に分析をされていましたが、政府による外出自粛や移動制限の施策自体の効果は分析されていますか。

中島:
RIETIのディスカッションペーパーでは、移動制限がかかったことによって人流が時系列でどう変わっていったのかをデータとして示していますので、ぜひご覧いただければと思います。

Q:
新しいデータとして、都市経済学の観点からGPSデータ以外に注目されるデータはありますか。

中島:
衛星画像は割と面白いと思います。夜の明るさなどから経済活動を調べる取り組みは50年以上前からありますし、最近は衛星画像がかなり高解像度化しています。それから、海外ではクレジットカードの利用情報も割と広く使われています。

Q:
これから日本が暮らしやすくなり、活力を維持していくために、都市政策で見直すべき点はありますか。

中島:
集積の経済があるというのは理解した方がいいと思っています。都市が形成されるのは、人や企業が集まることについて利益があるからで、活力の維持という点では集積の経済は無視できない重要な要素だと思います。特にオンラインが発達している現代において、集積の経済をどう生かすかというのはかなり重要なトピックだと思います。

Q:
人流の大都市への集中の反対事象として、過疎地の人口減少を抑制する方向の経済分析などはありますか。

中島:
過疎地の人口減少を食い止めるためには、その地域に魅力がないといけません。集まることで生産性が高まるという現象がある中で、魅力が失われつつある地域をどう魅力的にしていくかというのはなかなか難しい面があるように思います。少なくとも人為的に人を集めようとする政策が成功したという事例は、私の知る限りあまりないと思います。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。