APECエネルギー需給見通し 第9版

開催日 2026年1月23日
スピーカー 高田 充人(アジア太平洋エネルギー研究センター 副所長)
スピーカー 笠井 彪雅(アジア太平洋エネルギー研究センター 研究員補)
モデレータ 夏見 祐奈(資源エネルギー庁長官官房国際課・課長補佐)
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開催案内/講演概要

アジア太平洋エネルギー研究センター(APERC)が2025年12月に発行した「APECエネルギー需給見通し第9版」によると、電化の推進やデータセンターの需要拡大、運輸部門の変化などにより、アジア太平洋経済協力(APEC)域内のエネルギー需要構造は大きく変わりつつあるという。本セミナーでは、APERCの高田充人副所長と笠井彪雅研究員を招き、世界のエネルギー需要の約60%を占めるAPEC加盟地域全体と日本におけるエネルギー需給の見通しについてご紹介いただくとともに、将来のエネルギーミックスの在り方やCO2排出量の見通しを踏まえ、今後直面するエネルギー政策上の課題について検討した。

議事録

エネルギー需給見通しの概要

高田:
私どもアジア太平洋エネルギー研究センター(APERC)は、アジア太平洋経済協力(APEC)のエネルギー関連の研究機関として1996年に設置されました。われわれの重要な出版物の一つが、今日ご説明する「APEC Energy Demand & Supply Outlook(エネルギー需給見通し)」です。

Outlookは、エネルギー政策推進に当たって参照すべき将来の見通しを提供するために、3年に一度発行されます。今回の第9版は2022年を起点とし、2060年までを視野に入れており、レファレンスシナリオ(REF)とターゲットシナリオ(TGT)を基に将来を見通しています。その枠の中で二酸化炭素(CO2)排出量などを予測しており、特に今回は脱炭素化に移行するためのトランジションコストを計算した点が新たなチャレンジとなっています。

これまでの歴史的トレンドを踏まえ、各エコノミー(APECの場合、国(country)ではなく、経済協力の枠組みという意味でメンバーエコノミー(member economies)という表現を用いる)の政策効果なども考慮して、このまま進むとどんな姿になるのかを示したのがREFであり、各エコノミーで政策目標・課題が全て満たされた場合にどんな姿になり得るのかを仮説的に計算したものがTGTになります。将来の具体的なありようは恐らく両者の間にあり、その中のどこを目指すのかが各地域政府の政策判断の基本姿勢になると思います。

需要面の見通し

まず需要面では、REFの場合、2030年代ごろまでは上がりますが、その後高止まりとなるのに対し、TGTは2034年をピークに減っていきます。特に産業分野がじわじわと増え、建物分野もデータセンターの需要を含めて増える見通しです。一方、運輸部門は減少していくとみられます。

燃料別では、電力が増えていきます。他方、化石燃料も、緩やかに減少しますが需要がなくなるわけではありません。注意が必要なのは、発電では別途の電源構成において化石燃料が使われており、最終的なエネルギー供給という観点では、ここに示した石油や石炭、天然ガスが全てというわけではなく、「電力」の中に別の需要が隠されていることを理解しておく必要があります。

電力需要は2060年時点で、REFは76%、TGTは96%という大きな伸びが見通されています。特に大きなインパクトを持っているのは電気自動車(EV)の導入であり、バッテリーEV(BEV)が急激に増えていくことが今回の需要面の大きな特色です。

エネルギートランスフォーメーションの見通し

発電電力の電源構成の見通しでは、特にTGTの場合、太陽光や風力などの変動型再生可能エネルギー(VRE)が非常に大きく伸び、2060年には半分を占めます。

それに伴い、グリッド(電力系統)のセキュリティーが大きな問題になると考えられます。2022年時点でVRE電源は1日のうちで需要の2~3割程度しかカバーできませんでしたが、2060年には多いもので7割に達するとみられます。そうすると、1日の中で大きな電源変動が起こるため、人為的に制御できるディスパッチャブルパワーが重要となり、これをうまくコントロールできなければブラックアウトが生じる恐れもあります。

日本においてもゴールデンウイークなどの電源需要が少ないときに太陽光が多量に発電されてしまうため、太陽光発電の出力制限が行われますが、こうした問題がAPEC地域全体で発生するようになるでしょう。

供給面の見通し

供給面では、依然として化石燃料がかなりの部分を占めざるを得ない見通しです。太陽光や風力は増えるのですが、そうはいっても化石燃料の重要性はなお続くとみられます。

エネルギーセキュリティーの面で非常に重要な要素となるのが輸入依存度の問題です。特に日本のように域内にエネルギー資源を持っていないエコノミーは依存度が非常に高く、セキュリティー上の長年の課題となっています。APEC全体では、REFの場合、あまり大きな変化は発生しませんが、再エネの導入が大きく進めば輸入依存度が明確に下がり、輸出側のウエートが大きくなることが見て取れます。

ただ、エコノミーによって輸出を多くできる地域もあればエネルギー資源をまったく持たない地域もあるので、TGTの場合、必ずしも輸入依存度の低下によってセキュリティーの度合いを上げられるとはいえないということを意識する必要があります。

トランジションコストの見通し

今回初めての試みとして、電力システムと、CO2エミッションが少ないエネルギーである水素利用のコスト構成を計算してみました。

TGTにおいて、再エネやエミッションのないエネルギーに転換すれば当然燃料費は減少しますが、大きなコスト増が生じます。特に水素は大きな増加が見込まれ、TGTの場合で2%近いコストが発生します。このコストをどう負担するのかがエネルギー政策上の大きな課題になるでしょう。

TGTの方がコスト減少の度合いは大きくなるのですが、残念ながらエネルギー政策だけでゼロエミッションは達成できません。化石燃料の使用は減りますが、相当量の天然ガス由来のCO2発生が見込まれます。対応策としてCCS(CO2の回収・貯蔵)の導入が期待されますが、そのインパクトは限定的だと思います。

4 key takeaways

APECでは、エネルギーに関して2つのゴールを設定しています。1つはmodern renewables(風力や太陽光などの現在の再生可能エネルギー)を2030年までに2010年比で倍増させる、もう1つはエネルギー強度を2035年までに2005年比で45%減少させるという目標です。

前者に関してはすでに達成されているとみられます。逆にいえばそろそろ新たなエネルギーゴールを再設定する必要があるでしょう。今後、APECのエネルギーワーキンググループでこうした議論が行われると思います。

後者については、コロナによる経済停滞の結果、エネルギー強度の減少も足踏みしています。少なくともREFでは達成は難しく、TGTでかろうじて達成するとみられ、まだまだ努力が必要かもしれません。

エネルギー政策の世界では、エネルギー・トリレンマ(security:安全保障、sustainability:持続可能性、affordability:エネルギーの負担可能性)という課題に直面しています。これに対し、本Outlookで見てきたいくつかのインパクトを「4 key takeaways」と位置付けました。

まずポジティブな面では、「CO2 Emission」についてはかなり減少に向かうと思いますし、「Import Dependence(輸入依存)」は減らせるエコノミーもあるでしょう。他方、こうした課題を克服するためにはコストの問題が生じるので、「Affordability」へのインパクトは恐らくあるでしょう。それからsecurityの問題で、renewablesが大幅に拡大することにより「Grid Reliability(系統安全性)」の問題も生じると思います。

日本のエネルギーシステムの見通し

笠井:
日本の2022年におけるエネルギーシステムは、化石燃料を輸入に大きく依存しています。その多くは運輸部門で使われ、発電用にも大量に投入されており、原子力や太陽光・風力は、全体の中で相対的に規模が限定的となっています。発電部門では、熱変換を伴うため変換ロスが大きく、電力需要と比べて発電時に多くの一次エネルギーが失われています。需要面では、運輸部門は依然として石油中心ですが、産業部門と民生部門では電力の比率が比較的高くなっています。

最終エネルギーの需要を見ると、産業、運輸、民生などの主要部門はいずれも長期的に減少しています。一方、非エネルギー用途は化石燃料としての利用が中心であり、需要は比較的安定しています。

まず民生部門では、人口減少や省エネ進展を背景に、エネルギー需要が長期的に減少していきますが、燃料構成は変化し、特にTGTでは電力の比率が高まっています。そして2040年ごろには、TGTにおいてデータセンターやAI関連の電力需要が日本全体の電力需要増加分の約4割、日本全体の電力需要の約1割を占めるようになります。

産業部門では、エネルギー需要は全体として減少しています。多くの分野で化石燃料の使用は減少しますが、技術的に脱化石燃料が難しい分野(鉄鋼、セメント、石油化学など)が残るので、電化を進められる部分は電化で対応しつつ、難しい分野ではCCSを組み合わせて排出削減を進めることになります。

運輸部門は、主要部門の中で最も大きくエネルギー需要が減少しています。車種別ではバッテリー電気自動車(BEV)がガソリン車と比べてエネルギー効率が高く、同じ移動サービスを提供するのに必要なエネルギー量が大きく減少しますが、全ての車種がBEVに置き換わるわけではありません。単一の技術に依存するのではなく、電動化や合成燃料などを組み合わせた中立的なアプローチを取ることで、用途や車種に応じた柔軟な対応を可能にします。

電力部門では、いずれのシナリオでも発電量が増加します。再エネ、原子力、水素、CCSを組み合わせながら、発電量の増加と排出削減の両立を図っていくことになりますが、日本では再エネや水素について、立地条件や供給面での制約が大きいため、電源構成の変化はコスト上昇を伴う点にも留意が必要です。

4 Key Takeawaysの動向と将来のエネルギー政策

笠井:
ここからは今回のOutlookの4つの主要なポイントである「4 Key Takeaways」について見ていきます。

「Grid Reliability」については、太陽光の導入拡大を背景に設備容量が電力需要の伸びを大きく上回っていますが、ピーク需要は大きくは増えていません。その結果、設備容量と需要に大きなギャップが生じ、昼間の発電余剰や夕方以降の需要急増をもたらします。そうした場面に備えて調整可能な電源の容量を常に維持する必要があるため、変動型再エネの比率が高まれば調整電源の稼働率は低下しますが、容量自体は減らせません。一方で、調整電源の稼働率低下により1kWh当たりのコストや容量維持のためのコストは上昇します。電力安定供給を維持するためには、調整可能な電源に加えて蓄電池などのエネルギー貯蔵や広域連携の強化が不可欠となります。

また石油精製については、ナフサ(粗製ガソリン)などの石油化学原料は非エネルギー用途として一定の需要が残ります。ただ、石油化学原料を単独で生産することはできないため、石油化学原料の安定的確保が重要な課題となります。日本が一定の精製能力を維持することは、原油から製品への配分を柔軟に調節し、石油化学原料の供給を確保しつつ、余剰製品の輸出を可能にするので、石油精製は産業基盤と供給調整力を支える役割を担い続けるといえます。

「Import Dependence」については、化石燃料の使用減少により一次エネルギー供給に占める輸入エネルギーの量は長期的に大きく低下します。特にTGTでは石炭や原油の使用が大幅に減少し、モデル試算では、エネルギー自給率は2022年の13%から2060年にはTGTで50%以上に上昇します。

「Cost(エネルギーシステムコスト)」については、Outlook期間全体でTGTの総コストが約5.5兆ドルとREF(約2.8兆ドル)のほぼ2倍に達しています。この差分のうち約2兆ドルは、水素およびE-fuel(合成燃料)の輸入コストによるものです。また電力部門における設備投資コストは、TGTではREFと比べて太陽光や風力が大きく増加しており、蓄電池や送電網などその他の設備投資も拡大しています。その結果、電力システム全体の設備投資額が大幅に増加し、TGTでは脱炭素化と水素導入を進めることで、燃料輸入コストと設備投資の両面からシステムコストが大きく上昇しています。

「CO2 Emission」については、REFでは排出量は減少するものの2050年時点でも高い水準で残ります。一方、TGTでは電化の進展や燃料転換を背景に排出量が大きく減っています。この差の大部分は電力部門と運輸部門によるものとCCSによる排出削減ですが、それでもエネルギーシステムだけでのネットゼロには到達していません。この点はエネルギー分野以外の対策を含めて検討する必要があります。

日本のエネルギー転換は、脱炭素を進めながらエネルギー安全保障やコストの間で明確なトレードオフを伴うプロセスであることが今回のOutlookから確認できます。

その上で日本のエネルギー政策の将来を展望すると、化石燃料の輸入は大きく減少しますが、水素や合成燃料などの新たなエネルギーの輸入が増えます。また再エネ比率が高まる中、電力の安定供給を維持するためには調整力や柔軟性の確保がこれまで以上に重要となります。そしてTGTでは電化、低炭素燃料、CCSの活用によってCO2排出減が進みますが、エネルギーシステムだけではネットゼロに至らず、森林吸収源の活用やダイレクト・エア・キャプチャー(DAC:直接空気回収技術)などの除去技術を組み合わせることが重要になるでしょう。こうしたエネルギー転換は排出削減と需給改善をもたらす一方、燃料輸入やインフラ投資を通じてシステムコストの上昇を伴うと考えられます。

Q&A

Q:
再エネの変動に対応できる調整電源として蓄電池の導入が考えられると思いますが、蓄電池はどのくらいの規模が期待できるでしょうか。

高田:
私どもの計算では、ストレージというコスト計算を入れています。やはり蓄電池による調整は視野に入っていると思いますが、そのインパクトに関する数字を具体的に持ち合わせていないので、これ以上の具体的な回答は難しいのが現状です。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。