| 開催日 | 2026年1月7日 |
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| スピーカー | 近藤 絢子(東京大学社会科学研究所教授) |
| コメンテータ | 高木 悠一(METI経済産業政策局未来人材戦略室長(併)経済社会政策室長) |
| モデレータ | 関口 陽一(RIETI上席研究員・研究調整ディレクター) |
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| 開催案内/講演概要 | バブル景気崩壊後の1993~2004年ごろの不況期に高校や大学を卒業した世代は「就職氷河期世代」と呼ばれる。厳しい経済状況下で就職活動を行ってきたこの世代は、若年期に正規雇用につけなかった人も多く、キャリア形成に影響が出るなどの課題を抱えてきた。本セミナーでは、就職氷河期世代前後の就業状況や所得動向、家族形成や世代内格差の実態について分析した著書『就職氷河期世代─データで読み解く所得・家族形成・格差』で第47回サントリー学芸賞を受賞した、東京大学社会科学研究所の近藤絢子教授を迎え、氷河期世代以降の世代がこれから直面するであろう問題を指摘するとともに、求められる対策について論じていただいた。 |
議事録
雇用・年収状況の上下世代との比較
本研究では就職氷河期世代を、1993~2004年に学校(高校、短大・高専、大学)を卒業し、労働市場に参入した世代と定義しています。そして上下の世代と比較するため、バブル景気以降の1987~2013年卒を5つの世代に分けました。1987~92年卒のバブル世代、1993~98年卒の氷河期前期世代、1999~2004年卒の氷河期後期世代、2005~09年卒のポスト氷河期世代、2010~13年卒のリーマン震災世代の5つです。
まず男性の世代別の雇用状況を見ると、卒業直後の正規雇用比率はバブル世代が最も高く、氷河期世代は一気に下がるのですが、さらに若い世代では全く回復していません。また卒業後15年まで見ると、大卒は世代間の差はほとんどなくなりますが、高卒はなかなか差が縮まらず、特に氷河期後期世代以降は前期世代に追いついていません。一方、年収の状況を見ると、各世代で差が全く縮まっていないことが分かります。
女性も卒業直後の正規雇用比率は男性と同様の傾向なのですが、女性の場合は卒業後、結婚や出産に伴い退職する正社員の割合が上の世代ほど高いので、正規雇用比率が徐々に下がっていきます。特に大卒でその変化が顕著で、若い世代の方が正規雇用比率が高くなっています。
同じ傾向は平均年収でも見て取れます。卒業直後はバブル世代、前期世代、それ以降の順で下がっていくのですが、出産退職が増えると平均年収が一気に下がるので、若い世代の方が平均年収が高くなります。やはり正規雇用比率同様、大卒での変化が顕著です。
こうした現象は、未婚化や晩婚化の影響もあるのですが、子どもがいる既婚女性も同様に若い世代ほど正規雇用比率が上昇しています。ただしこれは、正規雇用にとどまる割合が増えただけであって、フルタイム雇用者だけに絞って年収の世代差を見ると男性と同じ傾向です。世代間の賃金格差が縮まったのではなく、あくまでもフルタイムで働く女性の割合が増えた結果として解釈すべきです。
フルタイム雇用者の年収を見ると、男女ともバブル世代が最も高く、前期世代が続き、バブル世代との差が年齢とともに縮まっていかない点も共通しています。
雇用形態と家族形成の関係
氷河期世代は雇用が不安定なために結婚や出産に進めず、少子化が進行したという見方が非常に根強いですが、世代間で見るとそのロジックは成り立たないというのが私の問題意識です。個人間比較では確かに雇用が安定している方が結婚しやすく、子どもの数も多いのですが、それは世代内の比較であって、世代間の議論に拡張するのはミスリーディングだと思うのです。
実際、35歳・40歳時点の平均出生児数は、氷河期後期世代あたりから若干上向きに転じています。つまり、出生率は氷河期世代を底に下げ止まっていて、それより上の世代で下がっているので、学校を卒業した時点の景気動向以外の理由で少子化が進行していたと考えられます。
ではなぜ就職氷河期世代と少子化はひもづけて語られがちなのかというと、確かに個人レベルで見れば雇用が安定している方が家族形成をしやすいのは事実であり、その傾向がより強まっているためです。
男性は20代後半からずっと初職が正規雇用の方が既婚率も高く、子どもの数も多いのですが、女性の場合は20代後半ぐらいまで非正規の方が既婚率・出生数ともに高かったのが30歳前後で逆転します。
男性で初職が正規雇用だった人の方が結婚が早くて子どもの数が多いのは、出産・育児の機会費用による代替効果が男性にはほとんどなく、世帯所得が高い方が子どもを持ちやすいという所得効果のみが問題となるためです。一方女性は出産・育児によって仕事を中断せざるを得ず、仕事を重視する場合には大きな機会費用が生じ、代替効果と所得効果が打ち消し合うということが起こります。
女性は、20代のうちは初職が非正規の方が出生数も多くて既婚率も高いのは、代替効果のためかもしれないし、若年妊娠の結果、正規の職に就けずに初職が非正規になったという逆の因果関係があるかもしれません。30代以降は初職が正規雇用の人の方が既婚率が高くて出生数が多くなっており、女性も安定雇用の方が家族を形成しやすくなっています。
この傾向は若い世代ほど顕著で、1960年代後半生まれは高卒女性の方が大卒女性よりも出生数が多かったのですが、1970年代後半生まれで逆転し、最近は大卒女性の方が高卒女性よりも、40歳までに持つ子どもの数が多くなっています。
雇用の不安定化の影響を最も強く受けた高卒女性の出生率が下がっていることから、景気が良ければこれほど下がらなかった可能性は否定できません。一方で、大卒女性の出生率が上がっているのは、2000年代半ば以降、育児休業制度が拡充されたことの恩恵が正社員に偏っていたため、大卒女性への影響が大きかった可能性があります。つまり、出産後も正社員就業を続けられるようになったことの影響が大きいと考えられます。この現象を別の角度から見ると、学歴が高い層ほど子どもを持ちやすく、世代内格差が家族形成にまで及んでいるという見方もできると思います。
次に世代内の収入格差を見ていきましょう。フルタイム雇用者の年収状況を見ると、バブル世代から氷河期後期世代にかけては、高所得の階層が減って低所得の階層は増えています。そしてポスト氷河期以降は、高所得の階層は多少増えたけれども低所得の階層があまり減っていないので、下側に広がる形で格差が拡大しています。
フルタイム労働者の所得格差を見ると、バブル世代から氷河期前期世代にかけてはどの学歴でも格差が拡大していますが、氷河期後期以降は拡大が鈍化していますが格差の縮小には至っていません。つまり、バブルから氷河期にかけて、下位層がより広がる形で格差が拡大し、その状態がポスト氷河期以降も続いているのです。
就職氷河期世代が直面する問題
これから氷河期世代が直面する問題は大きく2つあります。1つは、親世代の加齢による生活困窮者の増加です。就職氷河期世代の親がこれから後期高齢者になると、親に経済的に依存する人たちは厳しい状況に置かれます。さらに問題を難しくするのが介護と仕事の両立の問題です。親の収入も減るため、特に独身や非正規雇用の場合は両立が難しくなるので、より問題が深刻になります。
8050問題(80代の親が50代のひきこもりの子の生活を支える)は極端なケースであって、これをイメージすると問題の本質を見失うでしょう。多くの人は就業しているけれども経済的に困っているのであり、経済的な問題をどう改善するかに重点を置く必要があります。
氷河期世代の親が介護を必要とするケースは、今後さらに増加すると懸念されます。介護の負担が生じればさらに追い打ちをかけられるので、介護保険で使える介護施設・サービスの拡充が極めて重要となります。柔軟な働き方による支援は、ワーキングプア的な働き方をしている人にはなかなか届かないと思います。
もう1つの問題は、氷河期世代自身の老後の貧困です。今の年金制度は、若い頃に十分な年金保険料を納めなかった場合、受け取る年金額が低くなる仕組みになっているので、低年金になる人たちが相当数出てくるでしょう。こうした人たちが高齢期を迎えると生活が立ちゆかず生活保護に頼らざるを得なくなり、財政支出が増えてしまうことが懸念されます。生活保護は高齢者を支えるための制度ではないので、高齢者を支えるための制度を新たに作っていかなければならないと思います。
どちらの問題も氷河期世代だけでなくポスト氷河期世代やリーマン震災世代にも共通しているので、世代で区切らずに、必要な人に必要な支援を届ける体制が必要でしょう。氷河期世代にも正社員で働いていて十分な収入がある人も多く、その場合はむしろ支える側(がわ)になります。氷河期世代すなわち支援される側だというのはミスリーディングなメッセージになると思います。
就職氷河期世代対策の方向性
これまで氷河期世代対策として就労支援が多く行われ、一定の効果もあったと思いますが、今後は氷河期世代をターゲットにするよりも年齢階層に合わせた支援を再構築した方がいいでしょう。これから必要なのは社会保障制度の変革だと思います。ただ、制度を変えるのは時間がかかるため、すぐに実行可能な施策を積極的に進めておくべきです。例えば、公営住宅の確保はすぐにできますし、親世代の加齢や死亡によって住居の維持が難しくなる人たちへの支援として即効性があると思います。
政府としても、これまでは就労支援中心の対策が多かったのですが、最近では老後の不安にも言及されるようになり、これから就労支援以外の支援も広がっていくと思います。ただし、現時点ではまだ社会保障制度そのものに踏み込むには至っておらず、今後の議論の進展が期待されます。
コメント
高木:
就職氷河期世代の問題を多面的にとらえ、解像度を高めて対策を議論し、必要なところに必要な手当てが届くようにアップグレードしていく必要性を改めて感じました。就職氷河期世代を中心に安定した収入を得られない人が相当数存在する中、一方では事業者は人手不足の圧力が今後も続くという、人材需給のミスマッチの解消はわれわれも問題意識として持っています。
今でも就労支援やリスキリング、教育訓練給付制度などのある程度手厚い就労支援策が存在する一方で、それでも就職氷河期世代の中で、働く意欲がありながらも雇用が不安定で、収入が限られ、ワーキングプア状態に置かれている層がなかなか減らないのはどういった課題があるからなのでしょうか。
近藤:
ワーキングプアの人たちは、就労していないわけではなくて労働条件が悪いのであって、労働条件が悪い職ほど実は人手不足なのです。ですから、本質としてはエッセンシャルワーカーの処遇改善に行き着くと思います。
正規・非正規の区分ばかりが強調されていますが、アルバイトよりも待遇が悪いのに正社員という職は多いと思うのです。人手不足といわれる産業は一般的に処遇があまり良くないので、処遇改善が一番の正攻法だと思います。
Q&A
Q:
地域別の傾向について分析されていたら教えてください。
近藤:
地方対都市という単純な構図ではなく、就職氷河期の原因となった景気低迷の影響は関西地方が最も大きく、東海地方は比較的軽く、首都圏はその中間と地域差があります。また、相対的に景気が悪いところから良いところへ人が流れる動きは起きていますが、若年層が大学進学や就職のタイミングで地域移動する割合自体は趨勢的に減っています。
Q:
1980年生まれの大卒女性の出生率が高卒女性を上回るという話がありましたが、短大・高専卒女性の出生率が大卒女性よりもさらに高く見受けられます。この点について考えられる背景はありますか。
近藤:
確かに短大・高専卒の女性はずっと出生率が高い状態にあります。大卒は仕事に注力したいので結婚しない人が一定数おり、平均を取ると短大卒の方が出生率が高くなるのだと思います。ただ、最近は短大が4年制大学に移行し、短大卒の割合が徐々に減っているので、この辺は解釈が難しいと思います。
Q:
これまで社会保険料による財源を確保するため、厚生年金の加入拡大を進めてきましたが、税財源を使った低所得者対策がさらに必要というイメージでしょうか。
近藤:
今の社会保障制度は、現役世代から財源を確保し高齢者に給付する仕組みになっていますが、高齢者が人口の3割以上を占めると財源が限界を迎えると思うのです。それを税で賄うべきか、社会保険の仕組みを見直すべきかについては分かりませんが、今の社会保障制度は世帯単位でつくられ、未婚化等が進む現代の風潮に合わなくなっているので、そこも検討する必要があるでしょう。
Q:
労働市場の流動化、中途採用市場の拡大を緊急に進めることは対策になるでしょうか。
近藤:
中途採用市場の拡大は急速に進んでいますし、一定の効果はあると思います。いまだに採用側で年齢制限をかけているためにミスマッチが生じている面があると思うので、人手不足に悩む企業が年齢にこだわらない選択肢を積極的に取れるようになるといいと思います。
高木:
就職氷河期世代において浮き彫りになった課題が今後解消され、繰り返されないために、まだ対策が足りていないところがあれば教えてください。
近藤:
それぞれのプレーヤーが自らの行動を変えることで改善できる分野がある一方で、社会保障制度のように国が制度を変えないと変わらないところは政治的な利害関係が絡み、「損をする側」の抵抗でなかなか進まないことがあると思います。そうした政治的摩擦による停滞をどうクリアしていくのかが、今後重要になると思います。
この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。