| 開催日 | 2025年12月12日 |
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| スピーカー | 石川 靖(総務省 公害等調整委員会事務局 審査官) |
| コメンテータ | 井上 学(内閣官房 内閣審議官 国際博覧会推進本部事務局 次長(全体統括)) |
| モデレータ | 堺井 啓公(RIETI国際・広報ディレクター) |
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| 開催案内/講演概要 | 2025年のインバウンド(訪日外国人客数)は初の4000万人を突破する見通しとなっている。中でもMICE(ミーティング、インセンティブ、コンベンション、エキシビション/イベント)の誘致は高い経済波及効果をもたらすとともに、ビジネス機会の創出や都市ブランド力の向上への効果も期待される。本セミナーでは、2025年6月まで観光庁国際観光部のMICE担当参事官だった石川靖氏(総務省公害等調整委員会事務局審査官)を講師に迎え、ビジネス・インバウンドの拡大策や都市圏から地方圏への分散を促す方策、各種国際会議の開催効果を高めるためのポイント、ミーティング・インセンティブの誘致強化策などについてお話しいただいた。 |
議事録
訪日インバウンドの動向
各国の旅行収支受取額を比較すると、日本は2023年には世界10位でしたが、2025年には6位に上昇するとみられます。2030年は日本政府として訪日インバウンド6000万人、消費額15兆円を目標としていますが、これらを十分に突破すると予想され、受取額も4位に上昇するとみられます。
一方、10年ほど前から台湾、香港、韓国などのアジアのインバウンド市場がかなり成熟してきています。1人当たり消費額はもちろん伸びていますし、再訪意欲も高まっており、実際に地方圏宿泊比率も5割に近づいています。従って、リピーターを大事にし、さらに地方圏に来ていただく戦略が考えられると思います。
欧米からのリピーターの比率はまだ少なく、地方圏よりもまずは東京・関西のゴールデンルートを訪れる比率が高くなると思いますが、5年、10年後、市場が成熟していく可能性は十分あるでしょう。
アジアの主要な5つの国・地域からの宿泊者数を地域別に見ると、10年前と比べて東北が614%、四国が557%に増加しています。一方、欧米からの主要5か国からの宿泊者数は関東のシェアが高く、次いで関西が続きますが、金沢などの北信越、広島などの中国地方の伸びも大きくなっています。
観光立国のスペイン、フランスでは、市場は成熟しつつあっても一部地域に宿泊が集中する傾向があり、宿泊者数トップ5地域で全体の7割を超えます。日本においても、欧米からの宿泊客を中心にゴールデンルートを選択する傾向が強く、トップ5地域のシェアは以前より高まっています。
ビジネス目的の訪日外国人数が全体に占める割合はまだ低く、10%台前半から半ば程度にとどまっており、逆にいえば伸びしろがまだあると考えられます。ビジネス目的にはいろいろなものがありますが、目的対象ごとにしっかりと戦略を立てていけば、一般の観光と同じように拡大可能だと思います。
MICE誘致・開催の意義
MICEとは、ミーティング(M)・インセンティブ(I)・コンベンション(C)・エキシビション/イベント(E)を総称した言葉です。日本はCが比較的伸びていて、Eも強いといわれていますが、M・Iは世界と比べて伸びが弱い傾向にあり、世界の需要を十分にとりこめていません。
そうした中、政府はビジネス分野を非常に重視しており、2023年に「新時代のインバウンド拡大アクションプラン」を閣議決定しました。観光庁だけで観光を考えるのではなく、教育、文化、スポーツ、ビジネスなどの他省庁を巻き込んで観光を多様化し、振興を図るプランであり、それに従って観光庁は他省庁との連携を進めています。
観光庁としては三つの目標を掲げています。1つ目が、国際会議の誘致力強化です。2つ目が、会議を増やすだけでは経済効果は限られるため、その前後に観光やビジネスミーティングをしてもらって開催効果を拡大することを目標にしました。それから、日本はミーティング、インセンティブがまだまだ弱いので、その基礎をしっかりつくることにしました。
国際会議の誘致力強化
国際会議の開催件数は、国際観光協会(ICCA)の統計によれば日本は2024年時点で世界7位であり、世界6位のフランスとの差も僅差と射程圏に入っており、2030年までに世界順位を5位にしようという目標を立てています。
アジアでは中国の伸びが大きく減速しており、現状では日本が独走していますが、中国の数字には香港やマカオの分が含まれていません。中国の実力からすれば国際会議をもっと開催できると思いますし、ここ数年は米中対立や経済安全保障の影響などで中国開催を控える動きがあったために減速しているので、今後の動向を注視する必要があるでしょう。
日本の都市別では東京と京都が圧倒的に多いのですが、地方都市では金沢、松江、奈良、富山が伸びており、2024年に1件でも誘致した実績のある都市は60都市もあるので、地方にもポテンシャルはかなりあると思います。日本は必ずしも大都市に集中した構造ではないので、地方圏の比率を高めることは重要だと思います。
学術面での日本の特徴として、トップ10%論文の世界シェアが低下しているため、国際共著論文の量と質を一層高めていかないと、世界に伍(ご)していくことはできません。国際共著論文数が多い大学のある地域ほど国際会議を誘致できる傾向にありますし、大学がいろいろな予算や交付金・科研費を多く獲得している都市ほど国際的な取り組みに力を入れており、国際会議数も多い傾向にあります。
私の試算では、全国の大学で国際会議を担える理系研究者は全体の7~8%おり、その下に若手研究者も存在しています。我が国の国際共同研究は今後も拡大傾向で推移すると思いますので、地方都市における国際会議誘致の動きを加速していけば、海外からより多くの研究者やその家族を地方に呼び込めると思います。
中でも、広島大学や東北大学は先進的に取り組んで国際会議誘致を促しており、われわれも大学と連携してイベントを行ったり、若手主催の国際シンポジウムを支援するなどの取り組みを進めています。
国際会議開催効果の拡大
われわれは国際会議の開催効果拡大が非常に重要と考えており、2024年度に実証事業を行いました。国際会議に来る方はその前後を非常に楽しみにしており、家族で来る傾向が高く、長い人は10泊以上泊まっていろいろな地域を巡る傾向があります。
東北大学の支援事例では、会議開催地の仙台だけに消費が偏らないよう、他の施設や景勝地も訪れてもらえるようなプログラムを組むことで消費を拡大し、地域に誘導する取り組みを行いました。
アンケートでは、国内での平均消費額はMICE総消費額調査と大差はなく高い水準であり、更にこのプログラムに参加したことで日本を再訪したいと答えた人が約3割、企業とますます連携したいと答えた人が約2割おり、経済効果だけでなくさまざまな誘発効果があると思います。
また2024年度には、国際会議開催地としての魅力向上実証事業も行いました。参加者にアンケートを取ったところ、海外からの参加者はその地域にさらに1.5泊滞在し、さらに4泊ほどその地域以外を回遊する傾向がありました。日本の歴史・文化・食などを体験できたことや、ネットワーキングの機会として有意義であったことから非常に満足度が高いという結果が出ました。一方でフードダイバーシティ(食事への配慮)がまだ実現されていないため、そのあたりを改善すればさらなる来訪を促進できると思います。
ミーティング・インセンティブの誘致力強化
ミーティング・インセンティブ(M・I)旅行も都市部を中心に非常に伸びています。特に大都市圏の成長が顕著である一方、地方圏はコロナ禍からの回復が遅れています。そのため、M・I向きの都市を幾つか選定し、その都市を中心に誘致力や魅力の向上に向けたさまざまな支援プログラムを行っています。金沢、福岡、沖縄、札幌、仙台といった都市は地方圏の中でも伸びしろが非常に大きく、各自治体の国際MICE見本市への出展を支援するなどしてマーケティング力強化を後押ししています。
MICE誘致において特に重要なのが知的資産です。私が観光庁にいて一番感じたのは、地域の知的資産は十分な観光価値になるということです。経産省の目線では観光とあまり関係ないと思うかもしれませんが、さまざまな知的資産、無形資産が海外の人にとってさらに価値を増すと思います。海外の方が訪問した日本の地域の知的資産についてより深く知りたいと思うでしょうし、最終的には人間国宝レベルの人に教えを請いたいとか、「人」に注目が集まりつつあるように思いました。
日本各地にはさまざまな無形資産があります。それを磨き上げて海外の人に受け入れられるレベルに高め、食などのいろいろな制約に配慮しつつ観光をつなぎ合わせていけば、地域にもますます伸びしろがあると思っています。
われわれはM・Iの支援の中で、知的資産を活用したテクニカルビジット(視察旅行)の提案を募集していました。2024年度は20ほどの地域で実施しています。例えば四国からは、大都市と連携しながら4県の知的資産を巡る旅の提案がありました。まだ初期段階ではありますが、いずれ商品化していければと思っています。
既に商品化しているものとしては、DMO六本木と静岡県東部エリアが連携し、トヨタ自動車の施設などを活用した外国の方向けのプログラムがあり、この取組は非常に有望だと思っています。
福岡エリアでは、八芳園という東京の元々は結婚式運営の会社が体験を備えた観光施設をつくっており、チームビルディングで福岡のさまざまな無形資産・文化資産と組み合わせた取り組みを行っていて、これは販路拡大につながるレベルに達していると思います。
コメント
井上:
私自身、10年前に万博を立ち上げたときの課長であり、観光やMICEの効果を大阪・関西地域にどのようにもたらすかというところにいろいろ目配せしながら取り組んでいました。万博によって知名度やまちづくり活動、人的基盤、チャレンジ共創やグローバルネットワークがかなり高まりましたので、MICEの基盤が非常に強化され、次のステップであるIR(統合型リゾート)に向けての動きがいろいろ出ているところです。ポイントはMICE業界だけで話をするのではなく、産業界やユーザー業界とも一緒になって推進することが重要ですし、大阪・関西だけでなく他地域と連携して、メリットを均てん化させることも併せて進めていきます。その点ではマーケティングと営業力、誘致力が非常に大事だと思うのですが、有効な強化策や成功事例があれば教えてください。
石川:
補助金を付けて事業を推進することはできますが、その後自走化させること、人材を育成して次につなげることが大事だと思っています。マーケティング力という点では各都市が小規模に取り組んでも効果が限定的だと思うので、まずは国が予算を出して、連携して海外へ営業に出かける場をつくらなければならないと思っています。
一方で、国際会議で成果を上げている都市に共通しているのは、民間で営業経験のある人材が引っ張っていること、リサーチ力をしっかり培っていること、それから海外の人材を採用して国際的なネットワークづくりを進めていることだと思います。そしてファンをしっかり囲い込むことも必要でしょう。
Q&A
Q:
地方の中核都市以外で成功している事例があればご教示ください。また、そうした地域でコト消費に資している事例があれば教えてください。
石川:
小規模な地方都市であれば、まずは国内のMICEを誘致してノウハウを蓄積し、徐々に海外比率を上げていくといいでしょう。宇都宮市は中核都市で小規模都市ではありませんが、国内MICEから入って、海外MICEも誘致できるようになってきた宇都宮の取り組みが参考になるかと思います。こと消費については、伝統産業や食産業、農業や製造業など幅広い分野で提供できると思うので、地域に存在する優れた人材を活用して、中核都市・大都市とも連携して取り組むことが大事だと思います。
Q:
国際会議でエクスカーションを企画する際に予算確保やスポンサー探しに苦労したことがあるのですが、国からの補助金はうまく使えないのでしょうか。
石川:
国も自治体も様々な補助金メニューを用意していますので、それを有効に活用して徐々に自走化していくことが大事だと思います。
Q:
観光だけでなく地域の産業や観光、ビジネス、スポーツなどの人や組織を束ねて取り組んでいくためのアイデアがあれば教えてください。
石川:
われわれがMICEという柱を立てることによって、スポーツ界や文化界などの方々がコンソーシアムで申請してきてくださいます。われわれも他省庁と連携していろいろな施策を提案しているので、できるだけコンソーシアムを組んで応募するといいと思います。地域に司令塔がいなければ一過性で終わってしまうので、できるだけ協議会等を立てて、司令塔となる人材を育てることも必要だと思います。また、多様なプログラムに連携して取り組むことで参加者の滞在期間を延ばし、より満足度も高まれば、再訪につながると思います。
Q:
万博で変わっていった大阪・関西はIRをどのように使っていくのが理想的でしょうか。
井上:
MICEの推進は都市政策の一環であり、地域を成長させるためのツールです。大阪・関西はヘルスケアが強いので、この分野を活性化する装置としてアジア最大のヘルスケアイベント「Japan Health」を開催したほか、2027年には国際医学会の総会を大阪に誘致しています。
私は、各都市がMICEを活用して何を実現したいかを選択して進めるのが一番いいと思っています。スポーツと連携するのか学会と組むのかといった、一般論としての組み合わせは都道府県が中心となって構想をつくり、私たちの地域はこれとこれをつなげていくのだというふうに考えるのが一番理想的だと思います。
IRの条件として観光のショーケースになることが重要なので、観光局が中心となっていろいろなイニシアチブをつくり、一昨年あたりからは都市間連携を進めています。今は商品組成の段階に来ているので、今後、地方への波及が徐々に見えてくると思います。
この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。