第2期トランプ政権では、第1期と同様に貿易摩擦、関税闘争、中国との戦略的競争が中心になると予測されていた。しかし、現在進みつつあるのは、世界秩序の単なる混乱ではなく根本的な変化であり、取引的な外交や経済的威圧にとどまらず、長年続いてきた同盟関係を揺るがし、多国間機関を弱体化させ、地政学的な分断を加速させるような再編成である。 米国がNATOから距離を置き、世界貿易の枠組みを見直し、ナショナリズムやポピュリズム勢力と連携する動きは、新たな時代の到来を示唆している。このような状況下で、既存の秩序がどのように適応し得るのか、その空白を埋める主体は誰なのか。一つの対応策は「有志連合(Coalitions of the willing) 」の形成であり、例えばG20の気候クラブは米国が完全に参加しなくても効果的に機能しうる。地域的な同盟や課題に基づくパートナーシップは、分断される世界においてレジリエンス(耐性)を提供できるかもしれない。 欧州にとって、この変化は安全保障と経済政策の両面における「戦略的自律性」の確立を求めるものとなった。欧州がその繁栄と競争力を維持するためには、防衛力を強化し、経済的強制力に対抗し、結束を守らなければならない。ドラギ前ECB総裁とレッタ元イタリア首相が提案した改革案は、生産性の向上と米国との差を縮めるための枠組みを提供しているが、同改革案を実施できるかどうかが最大の課題とされている。 本セミナーでは、経済政策研究センター(CEPR)のベアトリス・ウェダー・ディ・マウロ所長を講師としてお招きし、破壊的な力が支配する世界の経済的安全保障について欧州の視点から議論いただく。