開催日 | 2024年5月27日 |
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スピーカー | 宮島 英昭(RIETIファカルティフェロー / 早稲田大学常任理事・商学学術院教授・高等研究所顧問) |
スピーカー | 浅井 洋介(経済産業省貿易経済協力局投資促進課長) |
スピーカー | 倉橋 健太(株式会社プレイド 代表取締役CEO) |
モデレータ | 天野 富士子(経済産業省貿易経済協力局投資促進課投資交流企画官) |
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開催案内/講演概要 | 日本企業と外国企業との協業連携は、この10年で件数は約3倍、金額は約5倍に拡大し、件数は過去20年間で最高の水準となっている。経済産業省は、日本企業が外国企業との協業連携を通じた事業拡大やイノベーション創出を図る際の参考となる、「外国企業と日本企業の協業連携事例集」を取りまとめた。本ウェビナーでは、本事例集の紹介のほか、「外国企業と日本企業の協業連携事例に関する研究会」座長および事例集掲載企業から、外国企業との協業連携を取り巻く状況や外国企業と組むことの意義・工夫すべきポイントなどについて、実例を踏まえて紹介いただいた。 ・参考URL:「外国企業と日本企業の協業連携事例集」掲載サイト(経済産業省) |
議事録
なぜOut-In型の協業連携が必要か
宮島:
日本企業の一層の成長に向けて、海外M&Aを含む対外進出が不可欠になっています。海外企業は近年の急激な外部環境の変化に対しても大きなアドバンテージがあるので、日本企業は彼らが持つグローバルなネットワークや経営手法・ノウハウを学ぶことが重要です。連携を中心としたOut-In型のM&Aは、大企業間のみにとどまらず、中小企業の経営高度化にとっても、その重要性は高まりつつあります。
リーマンショック以前は国内企業間を中心にM&Aが進展していましたが、2009年から2014年にはいったん後退し、アベノミクス以降、再びM&Aを通じた再組織化が増加しました。この局面では、Out-In型のM&Aが急速に増加し、2010年代以降はその数が増えているわけです。ただ、世界的に見ると、日本のM&A水準はまだ非常に低く、拡大の余地があることがうかがえます。
「協業連携」とは買い手が50%以下しか所有しないケースで、「部分出資」や「出資拡大」とも表現されます。「部分買収」は、株式を50%以上持つ「買収」や「完全子会社化」とも、「提携や合併を契約ベースで行うもの」とも異なります。
「部分買収」は「買収」に比べて、買い手にとってはリスクが分散でき、売り手にとっては経営独自性や主体性を維持できるという利点があります。また、「契約ベース」の提携と比較すれば、「部分買収」は関係特殊的な投資の過小化することを回避できるほか、売り手にとっては資金を確保できるというメリットもあります。
では、Out-In型の提携を促進するために何が必要か。まず、どうやって適切な相手を発見するかが重要です。大企業群には相手を発見するネットワークがありますが、中小企業群にはそれが通常ない。そこで、選ばれるに足る技術、ブランド、製品、ノウハウ等が存在し、それが買い手に認知される必要があります。従って、このマッチングは今後の重要な政策課題かと思います。
また、Out-In型の提携を成功に導くには、ディールをいかに実現するかの問題に加えて、ディールの実現後PMI(Post Merger Integration)を進める必要があります。提携は買い手と売り手に対してメリットがある反面、双方が持つアセットが十分に生かされていない可能性もあり、その意味で、経過的、過渡的な側面があります。従って、出口を展望した長期的な戦略を考えることが不可欠だと思います。
外国企業と日本企業の協業連携事例集について
浅井:
経済産業省が今年(2024年)の4月に公表した「外国企業と日本企業の協業連携事例集」は、海外からの出資等を通じて企業の経営力向上につなげた好事例をまとめたもので、実践的な内容となっています。
日本企業と外国企業との協業連携は、この10年で件数は約3倍、金額は約5倍に拡大し、件数は過去20年間で最高水準となっています。日本市場への注目度が高まる中、外国企業との協業連携により経営力を強化しようという動きが国内でも加速しています。
他方で、日本の対内M&Aは諸外国と比べても少なく、対名目GDP比で米国の約7分の1、英国の約33分の1という状況です。その要因には、海外資本に対する心理的な抵抗感、あるいは日本企業における社内の体制構築の遅れがあると考えています。
本事例集では、イノベーションや海外展開等を実現した11の成功事例を実名で掲載しています。業種、地域、企業規模、出資を行った外国企業の国籍など、バランスを考慮したほか、共同出資やマイノリティー出資の受け入れも対象とし、マジョリティー出資受け入れ、マイノリティー出資受け入れ、共同出資(合弁会社化)の3つのパターンに分類しています。
協業連携のメリットは、経営面、事業面、人材面に大別できます。経営面では、新事業モデルやイノベーションの創出が可能となるということで、東京ガスが英国のオクトパスエナジー社のデジタルプラットフォームの運営ノウハウを活用して新たなブランドを立ち上げて、電力販売の全国展開を実現したという事例があります。
事業面では、営業販売力の向上を達成した事例が多く見られました。化粧品メーカーのタカミとフランスのロレアルの協業連携では、タカミブランドの中国市場への展開に向けて、中国における化粧品市場の特性検証や規制対応を行うことで、円滑な事業展開が可能になったという事例があります。
人材面では、グローバル人材の育成・確保や労働環境の改善等につながったという声が寄せられました。人材派遣業のフジスタッフとオランダのランスタッドとの協業連携では、スペシャリストやグローバル人材を確保しやすくなり、透明性の高い評価制度を導入できたという効果が確認されました。
協業連携を成功させた各社に共通しているのは、協業連携の検討段階から相手と緊密なコミュニケーションを取っていたということです。通訳や翻訳アプリの活用に加えて、交流会の開催、専門人材の採用・活用を通して、時間をかけて協業相手と強固な信頼関係を築いたケースが多く見られました。また、協業相手とビジョンや目標を継続的に共有していくことが、後々のミスマッチを防ぐコツだと言えます。
経済産業省としても、国際的な協業連携を推進するために取り組みを実施しています。ジェトロと連携して行っている「J-Bridge」では、海外のベンチャーキャピタルと日本のスタートアップ等のマッチング支援を行っています。無料で会員登録が可能で、海外企業の情報検索、面談のアレンジ、専門家によるアドバイスといったサポートも受けられるので、ぜひご活用いただければと思います。
Big Techとの協業による学びとAI時代における「データ」の論点
倉橋:
株式会社プレイドは2011年10月に創業したスタートアップです。われわれは、「データによって人の価値を最大化する」ことをコーポレートミッションに掲げ、人の創造力をテクノロジーによって引き出すことで前進する、その部分に直接的に寄与する企業でありたいという思いで事業を推進してきています。
現在、1,000を超える企業の皆様と共に、CX (カスタマーエクスペリエンス)の向上と顧客中心主義の事業経営の実現を日々推進しています。今年で9年目を迎えたCXプラットフォーム「KARTE」は、われわれの主力事業・プロダクトです。2015年の提供開始から今まで、KARTEでは膨大なカスタマーデータを解析しています。
われわれはデータを利用できる環境を提供するとともに、幅広い事業展開を通じて多接点化する企業と顧客の接点をデータとして統合し、企業活動のあらゆる側面で利活用を可能にする企業として成長していきたいと考えています。
2019年にわれわれは米国グーグルから出資を受けました。われわれがビッグテックから注目されたポイントとして、トップクラスのクラウド利用実績、事業内容の合致、そしてAIによるカスタマーデータ活用の可能性と日本のサービスレベルの高さが、その背景にありました。
ビッグテックとの協業で得た学びですが、1点目は、圧倒的な人材層の分厚さです。経営者のことを理解しながらコミュニケーションできる層の分厚さをいかに構築していくかが、グローバルでインパクトを出していく上では非常に重要なポイントだと考えています。
2点目は、性善説と性悪説を使い分け、失敗できる領域をいかに作るかということです。大目的とやってはいけないことだけ規定され、具体的な活動は現場に委ねられていたからこそ、失敗に対する寛容さがあり、今回のわれわれの関係性も構築されたととらえています。
3点目は、協業のブレーキはスタートアップ側にあるということです。ビッグテックと協業しているからといって、幅広いリソースと機会を全て享受できるわけではありません。スタートアップ側がしっかりと成長していく必要があります。私たちとしても、グーグルとの協業のインパクトが出せるのはむしろこれからだと認識しています。
今後、事業プロセスのあらゆる場面でAIの介在が進んでいったときに、企業独自の提供価値をどのように創出するかが重要なポイントになってきます。われわれは、「データ利用の民主化」から「データ解釈の民主化」へと変えていきたいと思っています。データから解釈を紡ぐことが、企業のあるべき姿あるいは持つべき価値の創出につながると考えています。
目的に対して必要なデータを設定し、生成していく作業がAI時代には必要です。そして、データが集まる場所に経営資源は集まります。われわれは、日本企業として日本のデータを日本で活用できるようにしていきたいですし、そこで構築された環境を用いて、グローバルのデータが日本に集まってくるような流れも作りたいと考えていますので、ぜひご支援、応援をいただければ幸いです。
質疑応答
- Q:
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DX、CX、生成AI活用を社内で効果的に進めていく際に、どのような要素が成功の条件となりますか。
- 倉橋:
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実際に実利を生むものなのか、それとも空気感を作るものなのかで、かなり分かれます。空気感を作るのであれば、最先端のAIに業務上自然に触れられる環境を用意するというのが1つあると思います。
現実的にやれることとして、1つは、トップがしっかりとAIの支援について背中を推し続けることです。もう1つは、成功モデルを既存事業の外側で作り、その成功体験を既存事業体に展開していくことです。必ずしも中から全てを変えていこうとするのではなくて、環境をしっかり分けて、支援し続けることが非常に重要だと思います。
- Q:
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日本企業のプレイド様が将来的に日本政府のデータを管理される予定はありますか。その実現に向けて、政府は何をするべきでしょうか。
- 倉橋:
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政府との議論はまだ始まっていないという状況です。われわれは、データ利活用支援において極めてフラットなポジションにいます。どうすれば日本の国策の1つとしてこのカスタマーデータが設定されるのかについて、ぜひ議論させていただきたいと思っていますし、データ活用は日本が戦える数少ない1つの勝ち筋になるのではないかと考えています。
- Q:
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仕事に直接関係ないことを20%までならばやってよいというグーグルの20%ルールは、人材の能力向上に役立っているとお考えですか。
- 倉橋:
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個々人の20%のリソースがグーグルにとって何か違いを生み出しているかというと、正直分かりません。ただ、その宣言があることによって、業務以外のことに対しての好奇心の持ち方が非常に高いですし、何かが始まるときに応援していくという土壌がそれによって耕されている感覚は非常に強く持っています。
- Q:
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Out-In型のM&AとIn-Out型のM&Aは区別して定義されているのでしょうか。
- 宮島:
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Out-In型とIn-Out型は明確に区別しています。今日はIn-Inのケ-スを背後に置きながらOut-Inを考えており、In-Out(進出のケ-ス)は視野には入っていません。買い手が国内企業である場合と海外企業である場合に提携の方向、可能性がどう違うのかというのが論点で、海外企業が買い手の場合、ターゲットとなる日本企業の技術・ブランド・製品に対して関心を抱いていないと成立しないという大きな特徴があります。また、ターゲット側にとっては、日本企業による買収・提携に比べて、海外進出に対してポジティブな効果が得られます。
もう1つは、日本企業には存在しない技術や経営のノウハウを海外企業から期待できるという側面があります。そういう意味で、海外と日本に差があるというところがポイントで、その次の論点として50%(買収)と50%以下(提携)があるとご理解いただければと思います。
- Q:
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JT社(日本たばこ産業株式会社)はスイスにグローバル本社を置き、数年前にたばこ事業の本部も日本からスイスに移転しましたが、どのように評価されていますか。
- 浅井:
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日本企業が本社機能の一部を海外に移転する動きは10年ぐらい前からかなり活発になっており、企業のグローバル経営戦略として自然な動きだと思っています。
それによる国内の雇用喪失や産業空洞化が懸念されますが、やはり日本市場に成長分野があり、成長が期待されることが重要です。また、優れた人材を輩出する教育機関が日本にあることで、経営上も優位に立つことが重要だと思っています。海外に出ていく企業がある一方で、成長期待から日本に新たに企業が入ってくるということが活発に行われるよう、政府としても支援していくというのが目指すべき姿だと思っています。
この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。