RIETI-21世紀政策研究所 共催BBLウェビナー【日本企業の持続的な成長を目指した事業ポートフォリオ変革シリーズ】

地域型のしなやかな経営:グロースよりサステナブル

開催日 2024年2月15日
スピーカー 丸谷 智保(株式会社セコマ 代表取締役会長)
コメンテータ 吉村 隆(21世紀政策研究所 事務局長)
コメンテータ・モデレータ 佐藤 克宏(RIETIコンサルティングフェロー / 早稲田大学大学院 経営管理研究科 教授)
開催案内/講演概要

コンビニで顧客満足度8年連続1位の「セイコーマート」を展開する株式会社セコマは、北海道を中心に食品製造、物流、小売りまでのサプライチェーンを「持つ経営」で構築し、事業活動を通じて地域に貢献する。効率的な物流網を背景に、都市部だけでなく、無店舗地域への出店や地域産品の積極的な活用で地域振興を実現している。物流の困難性、全国的にも早く進む超高齢化、人口減少のマーケットでも存続し続ける経営で、“地域残し”から“地域起こし”へとつなげる独自の経営哲学と戦略について、株式会社セコマ代表取締役会長の丸谷智保氏にお話を伺った。

議事録

挨拶

吉村:
21世紀政策研究所とRIETIとの連携でBBLセミナーを共催させていただけることをうれしく思います。一見、経営的には非常にハンディがあるように思われる北海道で、大手のコンビニとは異なる独自の創意工夫や熱い思いを持ちつつ、社会課題を解決しながら着実な事業展開をされているセコマさんの事例からは、多くの学びや気付きが得られると思います。ぜひ皆さん、丸谷会長のお話をお楽しみください。

製造によるフレキシブルな地域対応

丸谷:
われわれセコマグループは、サプライチェーンを運営・経営しながら、農業生産法人から食品の製造、物流、小売り、外販を行っている会社です。北海道は物流が難しく、商売のしづらい地域でして、今、日本のどの地域でも抱えている人口減少、過疎化、高齢化、そして環境問題に直面しています。

一方で、北海道には各地域に産品があり、産業がすでに存在します。そのため、私は、「起こし」よりも「残し」が先決だと思っています。われわれは、北海道の良い原材料や産品をリアル店舗の範囲にとどまらず、ECやB2B販売、ふるさと納税の返礼品として利用することで、もともとある産業で作られた道内産品を道外にもご紹介しています。

大手コンビニエンスストアがひしめく中でわれわれが北海道で生き残っている理由の1つは、特徴ある商品とその売り場だと思います。当店は他店に比べて生鮮品が非常に充実しており、特に離島には生活に密着したカテゴリー群を置いています。

このように、当グループは製造業を持つからこそフレキシブルな対応が実現でき、大手とは異なる特徴を持ったマグネット商品(集客力のある商品)を販売できるとともに、地域のニーズに合わせた品ぞろえも可能とする柔軟性につながっているのだと思います。

直営店化でフレキシブルな店舗運営

多くのコンビニエンスストアはフランチャイズ制度で運営されていますが、セブン-イレブンにしても、ローソンにしても、やっている仕事は小売業ではなくて経営指導業です。コンビニエンスの発祥は「鮮度」と「頻度」で、鮮度の高いものを頻繁に売れば、人口の多寡に対応することができるというのがコンビニエンス理論です。

例えば、当店を一番よく利用するお客さんは、1年間で970回われわれのお店を利用してくれます。このお客さんは1人でも、人数として970人とカウントできるのです。マーケットを深く掘り下げることができれば人口の多寡はあまり関係がなくなります。そうすると過疎地において、2次元の、平面的には薄いマーケットでも、深掘りすることで3次元の深いマーケットがそこに出現すると考えられます。

2015年にお店を出した初山別(しょさんべつ)村では、2015年から2022年にかけて人口は14ポイントほど下がった反面、売り上げは15ポイント伸びていますし、全国でおそらく一番人口の少ない自治体である音威子府(おといねっぷ)村でも、われわれが出店してからの23年間で人口は半減したものの、売り上げは微増傾向にあります。

当社は、現在、8割を超える割合でグループ直営店舗(以下直営店)を運営しています。直営店にすることで場所に合わせた店舗展開、あるいはカテゴリー展開ができます。例えばフランチャイズのオーナーだったら、利益が取れない地域には絶対出せないという場合でも、われわれ直営店は、赤字になるのは良くないけれどこの地域に必要とされていて、トントンなら出してもいいかな、何とか出してあげたいな、と考えることができます。

また、政策的にこれを売るぞという商品の配荷率を高くすることができますし、採算の考え方や出店に関しても、複数の店舗をまとめて考えることでしなやかな店舗運営が行えます。

そういった細やかな地域対応が取りやすいのが直営店の良さです。「おばあちゃん、どうなの今日は?」といった会話、重い荷物を持っていたらドアを開けてあげるなど、そういう、一定の形骸化した経営の中では実現されない昔のイメージの店舗の理念を社内で共有していく必要があります。

われわれには1万7,000人のパートさんがいますが、ワークショップや地域ごとに開催する定例の総会を通してこの理念を徹底的に共有しています。

効率的な物流網の構築

私は、店舗も重要ですが物流の方がさらに重要だと思っています。お店が各臓器だとすると、その臓器に血を送るのが物流です。われわれは全道を網羅する物流網を使って物流を維持しながら、店舗とその地域を支えています。北海道にある179の自治体のうち、175の地域にわれわれの店舗があるのですが、北海道は広くてデンシティが薄いため、物流が非常に難しい状況です。

東京であれば、約40キロの範囲にコンビニエンスストアが6,000店舗あるので物流が楽です。例えば、北海道の幕別(まくべつ)町にある忠類(ちゅうるい)地区の店舗から次の店舗である浦河町までは79キロの距離があります。従って、今の2024年問題と言われる以前から、われわれはさまざまな工夫をしなければいけなかったわけです。

そこで、店舗内に荷物がたくさん置けるようにバックヤードを広くする、あるいは配送回数を少なくするといった対応を従前からしていました。また、遠い距離を運びながらも片荷にならないような工夫をするなど効率的にトラックを運営し、全道に張り巡らした自前の物流網を利用して、物流に困っているところへ共配も行っています。

物流には動脈と静脈があり、お店で出たごみ、古紙、廃食油を回収する物流を静脈物流と呼びます。こちらも合わせると積載率は8割を超え、平均的な積載率が4割の中、非常に高い積載効率を保っています。このようにして、私どもは2018年からドライバーの拘束時間を減らすなど、効率化に取り組んできています。

社会課題の解決の試み

私が一番大きな社会問題としてとらえているのが、高齢化です。高齢化によって、頭数は変わらずとも、壮年期に比べて胃袋の大きさは約半分になるので、人口が1でも0.5人分にしかならないわけです。食べ物を扱う業種にとっては非常に大きな問題です。

消費の現場にいる者としては、高齢化は社会保障収入に依存する社会ととらえています。当店の単日の売り上げを見ると、以前は給料日が一番高かったのですが、今は年金支給日、生活保護の支給日、給料日の順になり、明確に高齢化が社会保障収入に依存している傾向が見て取れます。

そういった高齢者が多い消費構造の中で考えるべきことは、これまでマーケットの考え方の中心にあった付加価値に加えて、原価のコスト構造を見直すことでリーズナブルな価格で展開する「削減価値」という考え方です。そして、それを実現するのがサプライチェーン経営の仕組みです。

当社の取り組みの一例として、惣菜の包材を自社製造することで原価を8割下げて、安くて、中身の良いお惣菜を売ることができています。また、製造過程で発生する端材を有効に活用することで歩留まりを向上させ、社会保障収入に依存する高齢者にも優しい価格帯を実現しています。また、バナナや乳製品は高齢者の購買率が高いことから、バナナの熟成庫やヨーグルト工場を稼働させるなど、価格面やカテゴリー面からも積極的に高齢化にチャレンジしています。

こういった自前のサプライチェーンの活用は、規格外品の有効活用を進め、歩留まりを改善して原価低減を図るとともに、1,800トン近い食品ロスの削減にもつながっています。回収した廃食油をトート(物流業務で使用する商品を入れる箱)の洗浄に使うだけでなく、バイオ・ディーゼル・フューエル(BDF)に精製して車両の燃料として使うなど、実証実験も行っているところです。

災害への対応と備え

2018年の胆振東部地震でわれわれは電気を失いました。そんな中でも私どもの95%近い店舗が営業できたのは、簡単な非常用電源を全店舗に配備し、電気自動車からの給電も利用したからですが、さらに災害時に備えて、さまざまな物流の改善と強化を図ってきました。

釧路の物流センターでは、電源は全て自家発電で賄っていますが、トラックの軽油を3週間程度は動かせる量を備蓄し、無停電化や工場の稼働停止を阻止するための可搬式の電源も用意しています。また、有事にはすぐに自治体と連絡が取れるように、協定関係を結んでいます。誰に連絡を取るべきかをお互いに決めておくことで、情報の混乱なく、被災地に必要な物資を早く届けることができます。

電気自動車をすぐさま借りられるように、各地域にある7つのディーラーと協定を結んでいますし、ガスは北海道ガス、業務用ヒーターは建機のレンタル会社、通信はNTTドコモと提携をして、それぞれの民間の強みを生かして役立てています。併せて、大規模災害を想定して、われわれの釧路配送センターの一部を道路啓開拠点とする協定も結んだところです。

われわれが直面している大きな社会問題に対して、おのおのの業務範囲での対処を可能にしているのがこのサプライチェーン経営であり、直営化によってフレキシブル、かつしなやかに対応することができています。地域に即した経営を行っていくには、50年近く続いているフランチャイズ型のやり方を見直す時期に来ていると思います。グロースではなく、サステナブルの時代、私どもも地域と共に存続し続けていきたいと思っています。

コメント

吉村:
セコマさんは、企業の社会的責任を積極的に取りに行くことで、かえって収益を上げる好循環ができ、ある種の非合理性によって、ビジネスが合理的に動いているような印象を受けました。どのようなさじ加減でそのあたりを判断して、経営に取り入れられているのでしょうか。

丸谷:
私は、企業はやはりお客さんや地域の役に立つためにあると思うので、もうかるかどうかは分からなくても、必要とされ続ければ何とか生き残ることはできる、というのが基本的な考えです。

もともと小売業というのは地域との関連性が非常に強く、地域のお客さんに好かれて、使われて、それでわれわれがいるわけなので、社会性うんぬんよりも地域のニーズに応えるのが事業の本質だと思います。

企業なので赤字はいけませんが、プラマイゼロだったら地域ニーズに応えて、当たり前のことを努力してやっていくことで地域の方から支持され、必要とされ続けるのではないかと思います。

質疑応答

Q:

セコマさんが長く大切にされてこられたものを教えていただけますか。

A:

まず、地域と非常に密接で良好な関係を築くこと、次に、従業員の満足度を高めることが重要だと思っています。2万人の従業員のうち、1万7,000人はお店で働いてくれているパートさんです。教育やトレーニングは彼らの満足度を高めますし、従業員のサステインにも非常にプラスになっています。

そういう形で理念を共有すると同時に、トレーニングや面接対話を通して従業員の不満を聞き、あるいは要望に応えています。社長と私を含めて4名で毎週行っている「オペレーション改革室」では、各店舗から上がってくる要望を整理しながら、やりやすい形にどんどん変えています。そういった活動があったからこそ、胆振東部地震の時も地域の方々のためにという理念を共有できたのだと思います。

Q:

地域を育て、地域と共に事業を育てていくという観点で、丸谷会長が特に注力されていることは何でしょうか。

A:

商品開発に関しては、私自身が毎月2回、ホットシェフ本部も入れると3回、直接決裁をしています。さまざまな市場リサーチや海外出張を通して開発研究をしていますし、各工場には料亭の職人さんや菓子職人の経験を持った開発担当者がいて、味の基本になるタレは別に工場を設けて研究を行っています。

ただ、私はむしろ素材を探すことが大事だと思っています。地域と関係性を持つと、向こうからお話が来ることも多いので、地域と密着した関係性の中で、地域に逆に助けられることもあります。

Q:

丸谷会長流のユニークな経営を可能とする背景について、もう少しお聞かせ願えますでしょうか。

A:

物流面の大切さを知っていた卸の出身の創業者が偉かったと私は思います。店舗数が1,000店舗、2,000億の売り上げというのは大きいようで小売りとしては小さくて、自分たちの特徴的な商品を作ろうと思っても、最低制限のロットがあるので難しいんです。私はいくつかの工場を買収して自社製造を増やしましたが、創業の時代に基本的な流れがあって、私はそれを整理・発展させたという形だと思います。

もう1つ上げるとすれば、マーケティングでしょうか。知ってもらって、道外からのファンが増えたことが外販にもつながり、向こうから取引のお話が来ることにもつながっていったと思います。

私は、自分1人がもうかるのではなく、地域と一緒に喜んで発展していきたいという思いがあったので、企業の社会性みたいなものはすごく意識しました。ただし、コントリビューションとドネーションは大きな違いで、そこは明確にしてきましたし、経営者として、赤字覚悟というのは駄目だと思いますね。

Q:

課題先進地域である北海道でサステナブルな経営を実現されているセコマさんから見て、事業経営あるいは産業育成等の観点で何かご示唆があれば、最後にお願いできますでしょうか。

A:

経済活動がグローバルに広がった結果、さまざまな面でサプライチェーンに異常を来たし始め地政学リスクが大きくなってしまっている今、改めて国内や地域を見直し、できるうちにある程度のサプライチェーンを国内で再構築しておく。これがさまざまな世界の情勢の変化に柔軟に対応していける政治であり、経営であると考えていて、それぞれの経営者が自分たちのできることをやっていけば、今グローバルに存在する多様なリスクに柔軟に対応していくことができるのではないかと思います。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。