DXシリーズ(経済産業省デジタル高度化推進室(DX推進室)連携企画)

メタバースとWeb3の可能性

開催日 2022年9月8日
スピーカー 赤沼 純(株式会社NTTドコモ スマートライフ戦略部 XR推進室 シニアマネージャー)
コメンテータ 奥村 滉太郎(経済産業省 商務情報政策局 情報技術利用促進課 課長補佐)
モデレータ 木戸 冬子(RIETIコンサルティングフェロー / 東京大学大学院経済学研究科 特任研究員 / 国立情報学研究所研究戦略室 特任助教 / 日本経済研究センター 特任研究員 / 法政大学イノベーションマネジメントセンター 客員研究員)
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開催案内/講演概要

昨今、オンライン上の仮想空間を意味する「メタバース」という言葉がよく聞かれるようになった。メタバースが「超(メタ)」と「宇宙(ユニバース)」を組み合わせた造語であることからも分かるように、デジタル技術によって仮想空間にさまざまなサービスが展開されることで、現実世界とはまったく異なる世界が生まれつつある。一方、Web1.0、Web2.0に続くインターネットの進化段階である「Web3」(ウェブスリー)という言葉も使われるようになった。本セミナーでは、株式会社NTTドコモ スマートライフ戦略部でメタバースやWeb3の事業を推進している赤沼純氏を講師として迎え、メタバースとWeb3に関する理解を深めるとともに、ビジネスの展望について議論した。

議事録

メタバース、Web3とは何か

メタバースとは、インターネット上につくられた仮想の空間のことです。お客さま(ユーザー)が自分の分身となるアバターとなって、周囲のアバターとコミュニケーションなどを行います。ここにさまざまな機能やコンテンツを追加することで、遊びや買い物、将来的には仕事など日常の全ての活動を空間内で行うことができます。

なぜメタバースがここ1~2年で騒がれ始めたかというと、コロナ禍で外出自粛が続き、日本だけでなく世界中の人たちが家に閉じこもってさまざまな営みをしていた中で、オンラインゲーム内でのコミュニケーションツールが活発化したからだと考えられます。いろいろな人たちが、もしかしたらオンラインゲームは新たなコミュニケーションや創作活動、経済活動の場になるのではないかという期待感を持ったのではないでしょうか。

メタバースと一緒に語られる、「Web3」という言葉もよく耳にするかと思います。Web3とは、分散型台帳技術(ブロックチェーン)を基盤とした新しいインターネットのことです。従来のインターネットは、企業や団体などの第三者機関がサーバーを用意し、この中にさまざまなコンテンツや情報、もしくは取引のための仕組みを入れて、そこにユーザーがアクセスする世界でした。サーバー内の各履歴はサーバーを提供する機関が管理し、セキュリティを含めた信頼性を担保するのが従来型のインターネット技術でした。しかし、ブロックチェーンを使うとP2P、つまり個人対個人が直接つながり、第三者機関を介さずに全員でチェーンを共有することで、信頼性や取引履歴を共有することになります。

メタバース、Web3がもたらす変化

では、ブロックチェーンを使ったWeb3を用いることでどんな変化が起こるのでしょうか。

インターネットの歴史はWeb1.0、Web2.0、Web3と表現されることがあるのですが、Web1.0はインターネットの黎明期で、1995年に日本にWindows95が上陸し、パーソナルコンピュータ(PC)が普及したころにあたり、どちらかというとブラウザ・ポータルで情報収集をしていました。Yahoo!などのポータルサイトが立ち上がり、その事業を行う機関が情報を集めて、ユーザーがそれを見に行くという一方通行の世界がWeb1.0でした。

Web2.0は、いわゆるSNSの時代です。日本ではmixiやGREE、グローバルではFacebookなどが登場した時代です。こうしたプラットフォーマーのおかげで個人が情報を発信できるようになりました。これがconsumer generated media(CGM:消費者生成メディア)と呼ばれるものです。ユーザーがユーザーの力でメディアをつくっていくようなYouTubeやInstagramがそれに当たります。このように、第三者機関がプラットフォーマーとなり、そこにユーザーたちが情報を上げることでプラットフォーマーのメディア化が可能になったのがWeb2.0です。

では、Web3によって何が起きるかというと、ブロックチェーンの特徴としてまず、中央に管理者がおらず、ユーザー同士で管理する点が挙げられます(分散管理)。そして、改ざんが非常に難しく、セキュリティが担保されます(耐改ざん性)。チェーンと呼ばれるところに全ての履歴を書き込むため、追跡が非常に簡単になります(トレーサビリティ)。それから、これはブロックチェーン上の契約の技術ですけれども、ある条件を満たすとその契約が遂行されるという特徴もあります(スマートコントラクト)。

こうした特徴を持つブロックチェーンを生かすことで、中央の管理者を介さずに個人個人がやりとりをし、個人個人で共同運営をする分散型自律組織(DAO)が実現するのです。このように組織的な考え方や個人個人の動きにまで影響する技術がブロックチェーンであり、お金を稼ぐにしても、ネットワークを管理するにしても、全て個人で行えるようになったことが1つの大きな変化だと思っています。

もう1つの変化は、非代替性トークン(NFT)と呼ばれるものです。これはブロックチェーンの技術を使って、従来のデジタルコンテンツ全てを資産にしてしまうものです。例えば、土地は現実世界で価値を持っており、不動産の形で売買されるのが一般的です。土地を購入するときには、不動産屋にあっせんをお願いし、不動産屋が法務局に登記します。また、これを所有者が売りたい場合、購入者もまた不動産屋を介して登記簿登録をします。これにブロックチェーン、NFTの技術を使えば、同じようなことが仮想空間でもできてしまいます。このように、DAOとNFTの2つが、これからの人々の営みや経済に大きな影響を与えるといわれています。

現実世界では、社会生活を営むためにさまざまなルールが存在しますが、Web3を用いれば、そうしたルール構築が可能になるといわれています。法律はブロックチェーン上の契約であるスマートコントラクトに置き換わりますし、価値の担保はNFTで行うことができます。コミュニティーや企業に替わるのがDAOであり、通貨は仮想通貨に、金融は分散型金融(DeFi)になります。こうした形で、現実世界で構築されているルールをインターネット上で同様に構築できる技術がWeb3と呼ばれる新技術なのです。

ですから、メタバースと呼ばれる新しい仮想空間とWeb3を掛け合わせれば、新しい生活インフラ、新しい経済圏ができるでしょうし、世界の人々がその価値をいち早く見いだし、未来に向けて新たな経済圏をつくるべく、群雄割拠しているわけです。

メタバース×Web3の可能性

では、日本においてメタバースやWeb3はどのような可能性を秘めているのでしょうか。われわれ日本の国土は、領海や排他的経済水域を含む海域面積が世界6位であり、森林も満ちあふれており、天然資源が非常に豊富です。ただ、メタバースという仮想の国土を構築すればさらに大きな可能性が生まれるとわれわれは考えています。

しかも、メタバースには国境がなく、広げようと思えば大きく広げられる世界ですので、世界で事業を営む方々はメタバースの中に新たな経済圏を構築することを見据えていると思いますし、われわれも企業としてそうしたところまで行くべきだろうという議論をしています。

しかし、その中に当然いろいろな資源がなければ経済圏は生まれないわけですが、われわれはすでに資源を豊富に持っていると思っています。つまり日本は、コンテンツと呼ばれる天然資源の宝庫だと思うのです。私自身、音楽や映像、出版、ゲームといったエンターテインメントの業界で生きてきて、海外の方々と交流する機会も多くありましたが、日本が持つコンテンツは、日本人が想像している以上に高く評価されており、こうした豊富なコンテンツの資源を生かせる場所がメタバースだと思っています。

また、Web2.0の世界では、一般的には、特定のプラットフォームに、特定の有名なコンテンツやIP(IP:Intellectual Property)が前面出てしまいがちですが、メタバースの世界では一人一人がクリエイターになれるチャンスがありますし、すでにクリエイターとして活躍している方々の新たな発表の場として大きなチャンスを見いだせると考えています。

コンテンツに関しても、個人の得意分野なら何でも成立しますし、国境のない世界なので、豊富なコンテンツを、メタバースを介して究極的にはグローバルに展開できるわけです。こうした点をわれわれは可能性として見いだし、さまざまな企画・事業を構築しようとしています。

世界では競争が激化している

日本には大きな資源があり、われわれはそれを資産化することに勝機を見いだしているのですが、日本以外に目を向けると実はすごいことになっていて、メタバース、Web3については、日本は5年ほど遅れていると思っています。われわれは2019年ごろからメタバースの企画・計画を実行しているのですが、海外ではその2、3年前からメタバースやWeb3、ブロックチェーンを用いたビジネスに目を向けています。しかもエンターテインメントだけでなく、技術領域や金融領域、人材領域、小売り領域に至るまで、さまざまな企業がこの市場をめがけて技術開発やビジネス開発を進めています。

The Internet of Blockchain Foundationのカオスマップには、欧米だけでなく東南アジア、中国の企業も掲載されていますが、残念なことに日本企業は1社も入っていません。そのぐらい日本企業は世界に大きく出遅れていると思っていますし、世界の企業が日本のコンテンツ資源を狙ってきていると認識しています。事実、さまざまなクリエイター、アーティストが活躍の場を日本に置かず、海外の企業とタッグを組んでおり、日本が持つ豊富なコンテンツやクリエイターの奪い合いも始まっています。

ですので、われわれとしては日本の資源、コンテンツをしっかりとグローバルに発信しつつ、収益を獲得するとともに、新しいクリエイターたちが生まれる土壌をつくって、日本から世界に誇れるクリエイティブが継続的に発信されるようにしたいと考えています。

メタバースという国境がないフィールドで挑戦できることは、日本のクリエイターたちにとって大きなチャンスだと思っています。またコンテンツをつくるのも、お金を稼ぐのも、ネットワークを管理するのも全てユーザー、クリエイター自身になってきます。

ただ、クリエイティブの世界とメタバースの世界だけでは成立しないと思っていて、情報発信の場が広がる反面、各個人に自己責任が課される範囲も大きく広がるでしょう。ですので、メタバースとWeb3の世界を構築するときには、法律やルールを整え、技術面で企業や国が支援していかないと、海外の企業や団体に日本の豊富な資源が奪われていくのではないかと危惧しています。われわれは一企業ではありますが、こうしたところを下支えできるように事業を進めています。

コメント

奥村:
Web3の可能性は、新たな経済圏やコミュニティーが生まれることももちろん意味があるのですが、そこでの経済活動が既存の経済社会に上乗せのインパクトを与える一方、そこから生まれた文化や慣習、営みのようなものがコンテンツとして再定義され、既存の世界にインパクトをどんどん及ぼしていくことにあるのだろうと思いました。

日本はいろいろなコンテンツにおいて蓄積があると思うので、それを国としてどう守っていくのか、いかにクリエイターたちの収益にすることができるのか、新たな価値をつくり続けられるのかといったことを考えていくべきなのだと思います。具体案はこれからですが、日本には大きなチャンスがありますから、国を挙げて一刻も早く仕掛けづくりを考えなければならないと認識しました。

赤沼:
本当にとがったクリエイターたちが、日本には活躍の場はないとして海外にどんどん流出しているのが実態ですので、日本の企業や政府がその価値に早く気付いて、支援していかなければならないと思います。

質疑応答

Q:

今から20年ほど前に、セカンドライフというメタバースに近いものが登場しましたが、成功しませんでした。メタバースとセカンドライフに違いがあるとすれば何でしょうか。

赤沼:

セカンドライフは、先に企業が入ってきて、企業がビジネスを求めた結果として、ユーザーであるクリエイターのニーズをないがしろにしてしまったことが大きな失敗の要因なのではないかと思います。メタバースも企業がビジネスを先行していくと失敗する可能性は非常に高いと思うので、まずはクリエイターが心地よく活動できる場所にする必要があるでしょう。

Q:

メタバースには既存のYouTubeやゲーム通信などのプラットフォームを超えるどのような価値があるでしょうか。

赤沼:

YouTubeやTwitterといったメディアが企業の中央集権であるのに対し、Web3の世界は企業が入ることがほとんどなく、自分たちでさまざまなクリエイティブをつくり、利益を手にすることができる点が大きく異なると思います。

Q:

企業としてコンテンツをつくるのではなく、人材育成を行ってボトムアップを図る方法について何かサジェスチョンがあればお願いします。

赤沼:

メタバースの空間は、最初は企業が何か有名なコンテンツを引っ張ってくることが必要かもしれませんが、今後はこの場所をうまく利用して、クリエイターたちが作品を発信する場をつくり、第二、第三の新しい才能が生み出されていくことが非常に重要だと思っています。

Q:

メタバースの世界で企業が成功したり、日本が発展していくために、政府として何かできることはありますか。

赤沼:

さまざまな法律がメタバースやWeb3、NFTに沿っていないように思います。ですから、合法的に個人・企業がそれぞれメリットのある形で活動できるよう、法律を整備することが必要だと思います。

Q:

コミュニケーションツールを超えてコンテンツを主要プロダクツにする場合、新規コンテンツではなく既存コンテンツを対象にすると、権利関係はどのように整理されるのでしょうか。

赤沼:

既存コンテンツの場合、著作権者との権利に関してさまざまな整理が必要ですので、日本のさまざまなルールをいろいろ変えていかないとなかなか整理が付きません。ただ、著作権者がメタバースの中でやりたいという前向きな姿勢なのであれば、この整理自体も比較的容易になるでしょう。実際、かなり多くの著作権者や著作権を保有する企業が世界に向けて作品を発表したいという意向を持っていますので、権利関係の整理に向けた前向きな議論が進んでいると見ています。

Q:

メタバースに関して今後予想されるトラブルや問題点のようなものはありますか。

赤沼:

デジタル犯罪の発生が懸念されます。ユーザー間のトラブルもあれば、アバター同士の誹謗中傷、なりすまし、いじめのようなことは今後起こる可能性は非常にあります。メタバースは究極的には新しい国だと思っていますので、その中のルールづくりは真摯に考えていかなければいけないと思っています。

Q:

自治体による「バーチャル○○市」といったメタバース空間が増えていますが、これらが成功する鍵はありますか。

赤沼:

クリエイターたちが情報を発信し、人が集まる場所にすることを成功としてとらえたときに、現状の○○市といった空間はあまり有効ではないと思っています。例えば渋谷や新宿などの街は、渋谷や新宿だから行くという人はあまりいなくて、行く目的が重要だと思うので、空間に人が集まる目的は何なのかということをしっかり考えていくことが成功の鍵なのではないかと思います。

Q:

メタバースはコンテンツやコマース産業には非常にフィットすると思うのですが、工業や製造業において有益に活用できる可能性はありますか。

赤沼:

メタバースやWeb3の技術の下支えをする上でハードウェアの存在は非常に欠かせません。ですので、われわれ通信事業者としてもデータをスムーズに行き来できるような通信規格は考えていかなければなりませんし、デジタルデバイスの製造は不可欠です。コンテンツとハードウェアは両輪で発展してきたと思っていますので、この点で日本の産業には大きな期待が寄せられており、メタバース、Web3をきっかけに製造業も発展することができればと思っています。

木戸:

最後に、参加者の皆さまにメッセージをお願いできますか。

赤沼:

メタバース、Web3は非常に大きな可能性を持ちながらも、日本の社会全体がなかなかついてこられないという危惧を持っており、本セミナーのような場を活用して情報を発信していくことは非常に重要だと考えています。メタバースやWeb3は、技術や法律など複合的に全ての人々が絡んでいった結果として実現すると思うので、このセミナーをきっかけにメタバースへの理解を深めていただけるとありがたいと思います。

奥村:

政府として関われる部分はやはり法律や税の部分だと考えています。法律や制度が社会を良くするためにあるのだと胸を張って言えるようなものになっていくといいと思うので、今日の話も踏まえて、どのような社会づくりに向かっていくべきなのか、制約を払拭するためにどうあればいいのかということを引き続き政府としても考えていきたいと思います。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。