IMF世界・アジア太平洋地域経済見通し:戦争が経済回復を抑制する

※資料の引用は、IMFのサイトに掲載されているオリジナル原稿からの引用とし、出典元を記載してください。

開催日 2022年6月14日
スピーカー 鷲見 周久(国際通貨基金(IMF)アジア太平洋地域事務所所長)
コメンテータ 中島 厚志(RIETIコンサルティングフェロー / 新潟県立大学国際経済学部教授)
モデレータ 佐分利 応貴(RIETI国際・広報ディレクター / 経済産業省大臣官房参事)
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開催案内/講演概要

ウクライナでの戦争は人道危機を引き起こしただけでなく、さまざまな形で世界経済に大きな影響を与えている。国際通貨基金(IMF)の「世界経済見通し(WEO)」では、今般の危機を受けて成長率見通しを引き下げるとともに、燃料・食料価格の高騰やそれを受けた金融引き締め、感染症の新たな波など、さらなる下方リスクに警鐘を鳴らしている。各国の財政余地が限定的となる中、パンデミック終息に向けた対応に加え、人道危機への対応、世界経済の分断阻止、国際的な流動性の確保、過剰債務問題や気候変動・デジタル化への対応といった世界的課題のための多国間努力が求められる。本セミナーではIMFアジア太平洋地域事務所長の鷲見周久氏が、最新のWEOに基づいて、世界経済の見通しや中期的な課題について展望した。

議事録

概要

前回までのIMF「世界経済見通し(WEO)」の説明で、コロナが世界経済に非常に大きな影響を与えたこと、その影響と回復のスピードが国によって大きく異なること、その中で非常に早い回復を見せている米国や欧州において物価上昇が見られていることをお話しました。その後、ウクライナでの戦争の影響によってエネルギー・食糧等の一次産品価格が上昇しているほか、サプライチェーンの混乱もあり、インフレ圧力が高まっています。これを受けて先進国では金融引き締めのための利上げの動きが見られており、これが低所得国の債務コストを上昇させ、債務持続可能性の低下につながることが懸念されます。こうした中、脆弱な層を支援しつつインフレに対処する、という困難な政策のトレードオフに直面する1年になると見ています。また、中長期的には、債務問題や気候変動といった問題に対して多国間で協力して取り組む必要があります。

オミクロン株による短期的影響

世界経済は、2021年後半以降上向き始めたものの、年が明けてからオミクロン株の感染拡大の影響で冷え込む一方で、サプライチェーンの混乱からインフレ率が上昇しました。そこへウクライナ紛争が発生し、エネルギーや食料など一次産品市場価格が大きく上昇しています。

インフレ率は、先進国平均で4%に近づいています。途上国では、エネルギー・食糧価格の影響を強く受け、2桁に迫るようなインフレです。米国は8%を超えるインフレですし、欧州でもそれに似たようなインフレ率です。石油に対する依存の低下もあり、1970年代と比べると一次産品価格の高騰は限定的ですが、それでも相当程度の上がり方であることは間違いありません。

今般の紛争の直接的な影響について見ますと、例えば各国の製品貿易におけるロシアへの依存度を見るとおおむね旧ソ連圏の国々だけが高いのに対し、エネルギー・食品貿易に関しては旧ソ連圏に限らず、アフリカやアジアの国々でロシア・ウクライナに依存する国が多く、紛争の影響が拡大する可能性が高いことが分かります。

また、ロシア・ウクライナのグローバルチェーンへの参加度を見ると、ロシアは輸入にあまり依存しておらず、制裁に比較的強いといわれています。これに対してウクライナは、輸入したものを加工して輸出するケースが相対的に多くなっています。ただし両国とも極端にグローバルチェーンに深く依存している経済ではありません。対ロシアの金融資産について見ると、2014年のロシアによるクリミア半島併合以後、各国はロシアへのエクスポージャーを減らしており、一番多いオーストリアでも銀行セクターの総資産の2%以下です。これらが全額不良債権になったとしても金融危機を引き起こす水準にはなく、システミック・リスクは限定的であると言えます。

ただ、ウクライナ難民の発生による人道的影響や政策対応の影響は非常に大きく、欧州の近隣国では避難所や医療などに大変な資源や人手を取られます。また、移民が入ることによって労働供給が増加し、賃金が低下するという影響も生じ得ます。長期化すれば、それに伴う反移民感情の高まりも出てくるでしょう。

世界の経済成長は2023年大幅減速へ

2023年にかけて、世界の経済成長は大きく減速する見込みです。

金融政策に関しては、多くの国の中央銀行がインフレ抑制のために引き締めを図っています。半年前の見通しから大きく変わって、今の見通しでは米国は2023年の早いうちに金利が3%を超え、落ち着くのは2025年近くと見られています。ユーロ圏ではマイナス金利を2022年中には脱却し、1%強まで上がると見られています。

財政に関しては、2020年は各国がコロナと戦うためのワクチンや公衆衛生の支出、あるいは人命と生業を守るための支出を積極的に行いました。それによって大きく悪化した財政スタンスを、2021、2022年で少しずつ改善していこうとしていたわけです。

しかし、2022年に再び財政を拡大せざるを得なくなったことによって、経済・財政対応の余地が相当縮小しています。中でも途上国は、日本のように国債を発行すれば市場から容易に資金調達できるわけではないので、何とか財政バッファの再構築に努めています。

2022年4月のWEOでは、世界全体の2022年の成長予測は3.6%と見ており、ウクライナ紛争前の2022年1月と比べて0.8ポイント落ちています。内訳を見ると、先進国では、ユーロ圏や英国がロシア・ウクライナの関係から大きな影響を受けています。

日本はマイナス0.9ポイントですが、その半分がオミクロンによる影響です。日本の場合、2022年に入るとリベンジ消費を含めて経済が復調するという見通しを立てていましたが、年明けごろから急にオミクロン株の感染が拡大し、2022年の伸びが後ろにずれた分、2023年が少し上がっています。

米国はインフレに伴う金利引き上げを受けてマイナス0.3ポイントとなっております。一方、新興市場国・発展途上国はマイナス1ポイントです。ロシアがマイナス11.3ポイントなのは紛争当事者ですから当然ですが、中国やインドもオミクロン株等の影響でマイナスとなっています。

興味深いのは、一次産品価格の上昇もあり、一次産品輸出国の見通しが前回より0.4ポイント上昇し、4.5%の成長となっている点です。それに対し低所得途上国は0.7ポイント減少しており、途上国・新興国の中でも一次産品を輸出しているかどうかによって大きな差が生まれています。

2020年の世界経済はおしなべてコロナの影響を受けて需要が大きく縮み、2020~2021年の需給ギャップは日本で3%程度、スペインは7%弱など先進国が軒並みマイナスとなりましたが、2022~2023年は需給バランスが取れるのではないかと見ています。米国は需要超過になると見られ、これがインフレの大きな原因の1つにもなっています。他方、新興国・途上国については、ギャップの縮小傾向が見られるものの、先進国ほど改善が顕著ではありません。

パンデミック前と比較してアウトプット(生産)、すなわちGDPの伸びの損失がどれだけあったかというと、中国を除いたアジアの新興市場が世界で最も大きくなっています。要因の1つとして、パンデミック前の成長率が非常に高く、影響が差として大きく表れることが挙げられます。中国を除くアジア新興国は、これまでサプライチェーンを活用した経済効率化の効果を追い風にしていたのですが、それがぱたっと止んでしまったことによる差も大きく出ています。

米国は、パンデミック前のトレンドと比較してもプラスに転じています。これは、非常に大きな財政政策を打っているためです。日本はほぼ戻っています。中国は、世界全体と同程度の3-4%の損失幅となっています。

パンデミック前と比較した雇用の損失に関しては、米国は大きなマイナスになっています。パンデミックで離職した人たちがなかなか元の職に戻ってこず、労働需要が逼迫しているのが現状で、それがインフレの一因にもなっています。

潜在GDPを先進国と途上国に分けて見てみると、先進国は2022年に向けて、パンデミック前に想定していたトレンドに相当近づいてきていますが、途上国は2020年からあまり改善を見せていません。従って、コロナの影響は途上国においてより大きく、かつ継続している状況はこれまでとあまり変わっていません。

先進国の回復が早まっているのは医療政策の影響が大きく、ワクチンが行き渡っている国では生産予測の上方修正が起こりやすいという正の相関が見られます。

インフレの高止まりは長期化へ

先進国におけるインフレの状況を見てみると、米国では特にエネルギーと食品の上昇率が高まっていますが、それでも3%に満たない程度で、その他の影響が大きいのが特徴です。欧州、その他の先進国ではエネルギー・食品の影響が極めて大きくなっています。

グローバル・サプライチェーンが従来ほどうまく機能しなくなれば、例えばそれまで中国で作っていたものが、値段は少し高くてもマレーシアで作った方がいいということになります。それに伴い、価格弾力性のある部品の供給が各地で増え、全体的なボトルネックがある程度緩和されるのですが、そうはいっても全体的な供給不足はまだまだ長引くでしょう。

こういった中、コアCPI(消費者物価指数)とPPI(生産者物価指数)の差は、いずれの国でも非常に大きくなっています。つまり、生産者にとって生産コストが非常に上がっているけれども、全てが消費者物価に転嫁されているわけではないのです。従って、この差がある限りは、CPIにずっと上向きの圧力がかかり続けることになります。こうしたことは日本でも言われておりまして、卸売物価や生産者物価の値上がりに対して、消費者インフレはそれなりに収まっております。逆に言えばその差がある限り、物価上昇圧力はなかなか収まらないことになります。

サービス消費はパンデミックに伴う行動制限で大きく落ち込み、それを補うように財消費(日本でいう「おうち消費」)にシフトしましたが、サービスのインフレは製品のインフレにまだ追い付いていません。人手不足も相まって、サービス消費がこれから上がっていくことも、インフレがこれから簡単には落ち着かない要因の1つになっています。

米国の労働市場について見ると、低賃金産業における賃金の伸びが、その他産業に比べて高いということが見られております。ただし、各国でのインフレ期待を見ると、短期的な予想が大幅に高まった一方、長期的には期待が抑制されている点は、少し安心材料といえるでしょう。

下振れリスク

世界経済に対する下振れリスクとしては、ウクライナ紛争に伴う人道危機や社会的緊張のリスク、地政学的環境の悪化が挙げられます。国連安全保障理事会の機能が危うくなっており、欧州で長らく中立を保ってきたフィンランドやスウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟の動きが見られるなど、様々な問題でロシア・中国と欧米の対立図式の拡大が懸念されます。

金利のさらなる上昇も考えられます。特に低所得途上国について見ると、過去の利上げサイクル時に比べても金利の上がり方が大きいと見られています。ただし新興国債券のスプレッドを見ると、金利の変化は国によって異なり、市場では影響を直接受ける国と間接的に受ける国とを区別するだけの冷静さは残っているようです。こうした中、新興・途上国では、債務残高は増加する一方、外貨準備が減少しています。利払いは債務残高×金利なので、低所得途上国はこれから債務が増大する上に金利上昇の圧力を受けることになり、債務返済が困難になるリスクが高まる可能性もあるでしょう。

パンデミックの再燃も挙げられます。新規死亡者数を見ると2022年に入ってから一度ピークがあったものの、今は落ち着いてきています。このまま落ち着いてくれればいいのですが、新たな変異株発生の可能性もあります。

中国経済の減速も挙げられます。高い成長をしている間は、成長することでいろいろな問題(不良債権問題など)を飲み込めていたのですが、中国経済が減速すればその構造的な弱さが露呈します。また、ゼロコロナ政策が、引き続き経済活動の阻害要因にもなり得ます。

そして、気候変動も中期的に見た場合には大きな下振れリスクとなるでしょう。

回復維持と中期的見通し改善に向けて

コロナが完全に終息したわけではありませんし、引き続き脆弱な人々への支援が必要なわけですが、性善説に基づいて幅広く・早くお金を届けることが必要だった段階からは徐々に変わり、的を絞った財政支援が求められるようになります。

それから、中央銀行がインフレと戦うといっても、中央銀行のコントロールが及ばないインフレ要因が一定程度存在するわけです。特に現状は、需要側の要因によるインフレではなく、一次産品価格や輸入価格の上昇といったコストプッシュが主なインフレ要因にもなっています。その中で、インフレ期待が伸びていくのを抑えることが求められます。また、二次的な影響を抑えるためにもデータや政策見通しをしっかり明確化する必要があるでしょう。

金利は全体的にどの分野にも同じように影響を及ぼすところ、資産インフレが起こっているような分野については、マクロプルーデンスツールなどを使って選択的に対処する必要があります。ですから、今年2022年の政策運営は、トレードオフを考えながら「的を絞った」対策を行うことが大切だと思います。

政策課題への対処に向けた多国間協力

ウクライナ問題については周辺国だけでなく多国籍・多国間機関を使って対応し、痛みを広く分かち合う必要があると思います。コロナ対策においても、新たな変異種が出てくる可能性もありますから、自分の国さえワクチン接種が広まればいいのではなく、全世界的にワクチンや治療薬等への公平なアクセスを広める必要があります。

グローバルな金融システムにおいて引き締めが行われる中で、途上国・脆弱国が急に金詰まりを起こしたりしないように目配りもしなければなりません。IMFでは新たな特別引出権(SDR)の割り当て6500億ドルを使って、各国が使える外貨準備金を増やしています。

その上で、秩序ある債務解消システムの保証をしなければなりません。2021年のG20において、貧困国の持つ債務に関して元利払いに猶予を与える措置が決定されたのですが、同措置が期限切れとなっており、今後の対応が大きな課題となっています。

気候変動問題に関しては、多くの国で、パリ協定に基づく削減目標と実際に表明した政策措置の間に大きなギャップが残っています。そこで力を込めて言いたいのがカーボンプライシングです。日本は炭素税に対してネガティブですが、これは世界の趨勢として必ず主流となります。ですから、目を背けていては対応が遅れて後々大変なことになるでしょう。

「温室効果ガス排出ネットゼロ」を2050年までに実現するためには、産業構造自体を相当変えていかなければなりません。温室効果ガス排出量の多いセクターから少ないセクターへの雇用の移動が不可欠です。日本では、過去に経産省のイニシアティブで産業構造の転換を図ったこともありますので、その点に期待したいと思います。

コメント

中島:
現状としては、数十年ぶりのインフレや供給制約などにより、経済状況がそんなに簡単には改善しないと考えられ、世界経済の不安定な状況は今後も続いていくことが懸念されます。

その中で主要国では積極的な財政金融政策が取られているのですが、副作用として米国やドイツでは不動産バブル期に匹敵する住宅価格上昇が起きており、所得格差も拡大しています。

今回の見通しはパンデミックの後遺症に重点が移ったようにも見えるのですが、その中で下振れリスクの拡大も懸念されます。これからの世界経済は、パンデミックの後遺症に対応する局面が続くのでしょうか、それともウクライナ紛争を契機にして新たな不安定な世界経済の局面に入るのでしょうか。

また、日本ですが、消費者にとって価格転嫁が抑えられているのはプラスとしても、企業物価が上がっているので企業にとっては収益が圧迫されます。日本が安定した経済成長を実現するにはどのような対応が期待されるでしょうか。

鷲見:
現在は、コロナ自体というよりは、コロナのために打った対策がもたらすいろいろな状況にどう対応するかという段階に移ってきています。大きな対策を打ったことによってコロナの影響は相当程度抑えられたのですが、それには反作用・副作用があります。その1つがインフレであり、債務の増大でした。これから金利が上がる中でそれが脆弱性として表れてくることになるので、明らかに次の局面に入っていると思います。

また、不動産価格の高騰や、それに伴う格差の拡大への目配りも必要というのはおっしゃる通りですが、これらは金融政策での対応には限界があり、むしろマクロプルーデンスツールを活用した規制によって対処していくことが有効と考えられます。

格差について1点補足すると、2020年3月に金融不安が起こりかけ、それに対して米中銀(FED)をはじめとする世界の中央銀行が連携して早めに手を打ち、世界経済を救った功績は非常に大きいと思います。一方で、金融市場を守り、資産価値の暴落を防ぐということは、現在のシステムにおける勝者を守ってしまっている点にも留意が必要でしょう。

2つ目の質問に関しては、日本は我慢し続けて自縄自縛になり、貧乏になっているというのが私の持論です。設備投資が進んでおらず、賃金もなかなか上がらない中で、値上げを我慢して企業収益が小さくなり、人件費や設備投資を抑えるといった形で、どんどん自分の首を絞めているのだと思います。日本は長らく物価や賃金が上がりづらい環境を経験してきましたが、世界を見ればこれらの値段は動いているのですから、日本の民間セクターでも、商品・サービスの価格を変化させるとともに労働者自らが自分の賃金も要求すべきは要求し、経営者も労働者への給与水準を適切に判断することが必要です。

中島:
企業の財務状況が厳しい中でも付加価値を上げて、その分を価格に転嫁するとか、投資を増やしていい製品を作っていくことが必要な気がします。

質疑応答

Q:

中国経済の減速により米中対立の緩和は期待できるでしょうか。

鷲見:

緩和される部分とされない部分があると思います。米国の対中貿易赤字が米国の仕事を奪っているというような議論が発端だったので、中国経済減速によってこういった摩擦が減ることへの期待はあると思います。他方、依然として香港・台湾・北朝鮮・ロシアとの関係等、地政学的なリスクは存在していますし、中国が国際協調思考をせずに何とか過去の栄光を取り戻そうとする姿勢に対しては米国内で党派を超えて違和感が強いと思うので、そう簡単には米中対立は緩和しないと見ています。

Q:

円安ドル高の影響は今後も構造的に続くのでしょうか。

中島:

かなり続くと思います。やはり私は日本の輸出力が明らかに落ちてしまっていることが気になっていて、その要因としては国内で付加価値が付けられなくなっていることが挙げられます。

さらに問題なのは、労働人口自体は減っていない中、1人あたりの資本装備率が落ちていることです。先進国の中でこんな国はなく、労働集約的な付加価値の作り方に戻っているということを意味しかねません。設備投資を新たに行い、付加価値を取り戻していかなければなりません。

Q:

日本政府ないしは日本人に対するアドバイスを頂けますか。

中島:

コロナや地政学リスクへの対応など、政府として求められる対応は多岐にわたり、財政の厳しさが一層高まる中、企業の自立を促すような政策転換を図る必要があると思います。弱者だから支えるのではなく、産業競争力が落ちている中で、もう少し違った厳しい面があってもいいと思います。

鷲見:

まず公正取引委員会がやるべきことは、価格のつり上げを防ぐ方向で取り締まりを行うことよりもむしろ、大手企業が優越的な地位を使って下請け企業による価格転嫁を認めない現状を変えることです。下請企業の製品の付加価値を上げるためにも、価格が理不尽に抑えられていないかということをよく考えてほしいと思います。

また、政府がやるべきことは、1社もつぶさないというのではなく、経営再建の見込みが立たない企業は、傷が浅いうちに諦めさせること、また諦めたときにあまり大変なことにならないように支援することだと思います。退出と新規参入がしやすく、経済の新陳代謝によって新たな分野への資源配分を促進する政策が必要だと思います。そのために労働者への技能再訓練などを通じ、成長分野へ人材・労働力が回っていくことが重要です。

例えば、労働基準法を守らず「残業代をちゃんと払っていたらつぶれてしまう」という企業が生き延びると、真面目なところ、ちゃんと給料や残業代を払っているところが割を食ってしまい、付加価値が上がらず、がんばってもみんなで貧乏になってしまいます。経済の新陳代謝が行われやすくなるような政策を取ることで、将来にも見込みが出てくるのではないでしょうか。

モデレータ:

政策の根拠をしっかり持つという点では、RIETIは4月1日にEBPMセンターを設立し、政策をエビデンスのあるものに転換すべく取り組んでいます。

鷲見:

エビデンスベースは大切ですし、レビューも大切ですが、世の中で新たに起こったことに対応するときに、エビデンスが積み上がるのを待っていたのでは対応が遅れます。エビデンスベースが逆に、エビデンスが積み上がるまで何もしないことの言い訳になってはいけないと思っています。

モデレータ:

本日は貴重なお話をありがとうございました。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。