日本文化を守る外国人起業家:その魅力に迫る

開催日 2022年1月20日
スピーカー ビヨン・ハイバーグ(中川ジャパン株式会社 代表取締役)
スピーカー 深沼 光(日本政策金融公庫総合研究所 研究主幹)
コメンテータ 石井 芳明(経済産業省経済産業政策局 新規事業創造推進室長)
モデレータ 佐分利 応貴(RIETI国際・広報ディレクター / 経済産業省大臣官房参事)
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開催案内/講演概要

外国人経営者は、その新鮮な着眼点や海外市場へのネットワークなどから、日本経済の重要な担い手として注目されている。政府も「未来投資戦略2018」で外国人起業家の受入れ拡大を表明し、経済産業省でも「外国人起業活動促進事業」などにより地方公共団体による外国人起業家の受入れを支援している。
今回のBBLでは、『増加する外国人経営者: 日本を愛する人たちの魅力的な中小ビジネス』(同友館)をまとめた日本政策金融公庫総合研究所の深沼光研究主幹から外国人経営者の実像を紹介いただくとともに、日本の優れた包丁にほれ込みその魅力を世界に向けて発信している外国人起業家ビヨン・ハイバーグ社長にお話を伺った。

議事録

外国人経営者の現状

深沼:
海外出身の外国人経営者が最近非常に増えています。「経営・管理」の在留資格を有する外国人は約2万7000人(2020年)で、2000年の約4.7倍に上り、海外出身の中小企業経営者はわれわれの推計で約2万6600人(2021年)いるとみられます。

外国人経営者は、中小企業の新たな担い手になるとともにイノベーション促進への貢献も期待されています。オーナーが外国人である企業の方がイノベーションを行う傾向であるとか、起業人材としての外国人の受入れはイノベーション促進につながるといった研究もあります。一方で、外国人が事業を行うときには、語学力や文化的背景の違い、資格制度の違いといった特有の問題も発生するといわれています。

日本における外国人経営者に関する研究は、これまでヒアリングや小規模なアンケートが中心でした。それは、国籍情報を含む経営者リストの入手が非常に難しいためだったと考えられます。そこで、外国人経営者の実態を明らかにするために、日本政策金融公庫総合研究所で今回のアンケートを実施しました。

アンケートは2020年10月に郵送で行い、回収はインターネットを併用しました。東京商工リサーチのデータファイルから経営者の出身地が分かるので、海外出身者が経営者である中小企業にアンケートを発送し、日本国籍でない経営者に回答をお願いしました。

アンケートの結果、外国人が経営者である企業の業種は非常に幅広く、卸売業が約4割でした。これは貿易関係が多いからではないかと思います。出身国は中国が45%、韓国・北朝鮮が20%、台湾が7%程度とアジアが全体の85%を占めますが、国別に見てもかなり幅広いものでした。

外国人経営者の現在の年齢は、40~50代が中心で平均は51.2歳です。日本人経営者の平均年齢と比べてかなり若いことが分かります。来日したときの年齢は20歳代という回答が一番多く、来日理由は「留学のため」が37.7%で最多でした。特に20歳代では留学目的の来日が50.7%を占め、キャリアパスとして留学で来日し、十数年経って事業を始めるケースが一般的に多いようです。

学歴は非常に高く、大学院卒が30%、短大・大学卒を入れると90%近くでした。経営者になる直前の職業は、サラリーマンなどの勤務者が非常に多く、学生から直接ビジネスを始めたケースは非常に少ないことが判明しました。

このうち創業社長の方々に日本で事業を始めた理由を尋ねると、「マーケットとして魅力があったから」「長い間日本に住んでいるから」「日本で暮らしたいから」が上位を占め、日本が好きで日本で開業している人がかなり多いことが分かります。

日本独特の商品を取り扱っているかどうかを尋ねたところ、「とても独特」という回答が約2割、「やや独特」が35%で、日本の“よいもの”を国内外に紹介している人がかなり多いことがうかがわれます。

海外出身であることが有利な点としては、「出身国とのつながりを生かせる」「外国語が話せる」「国際感覚がある」が挙げられました。一方、不利な点としては、「細かいニュアンスが分からない」「新規取引先の開拓が難しい」「借入れが難しい」が挙げられました。

どうすれば外国人経営者が増えるかという問いには、ビジネスを支援してほしいとか、在留資格を取りやすくする、不動産を借りやすくするといった意見がありました。

永住権について聞いてみると、すでに7割が永住権を持っていました。将来取りたい人を含めると約9割で、日本で長く暮らしたいと思っている方が非常に多いようです。

追加的な研究としては、出身国独自の商品の取扱いは非常時に業績を下支えする、日本語能力が高い方が業績が良い、金融機関からの資金調達にも日本語能力が影響しているといった結果が出ています。

外国人経営者にはさまざまなタイプがあり、経営する中小企業も多種多様であることが分かりました。今後は留学生や日本で働く外国人が増え続けていくでしょう。現在はコロナの問題もありますが、トレンドとしては増えていますから、外国人経営者の増加はこれからも続く可能性が高いといえます。外国人経営者は創業の新たな担い手として、あるいは中小企業の後継者として大いに活躍することが期待されます。そう考えると、彼らが経営する中小企業へのサポートは政策的にも重要ではないかと思います。

日本の包丁文化に魅せられて

ハイバーグ:
私は現在、大阪と東京で包丁専門店を営んでいます。カナダ生まれで、2歳からデンマークで育ちました。来日して29年になりますが、それはたまたまではなくて自分で選択したのです。デンマークでは森の中に住んでいて、斧(おの)や鉈(なた)などの道具をとても大事に使っていたので、当時から刃物とはつながりがあったわけです。幼少期から『子連れ狼』などの劇画を見ていて、日本に興味を持つようになりました。

23歳のとき、ワーキングホリデーで初めて来日しました。大阪でさまざまな仕事をした後、貿易関係の仕事に転職しました。あるとき、刃物を研ぐ機械の営業で訪れた企業で、とてもよく切れる和包丁を紹介され、私は魅了されたのです。「これはすごい。みんなに伝えたい」と思いました。それをきっかけに、刃物の会社で9年間勤め、いろいろな勉強をしました。

日本の包丁文化には素晴らしいものがありますが、包丁販売において、職人の思いや包丁の特徴、使い方などが消費者に伝わっていないと感じ、2011年に「タワーナイブズ大阪」という包丁専門店を大阪の通天閣近くに開店しました。

日本の包丁にはさまざまな種類があります。種類が多いのは、それぞれにニーズがあるからです。さらに、日本製の包丁には、切れ味にこだわりがあります。日本では基本的に固い鉄を使っており、本当に素晴らしい切れ味です。包丁の切れ味によって食材の断面もきれいになります。

しかし最近残念に思うのは、低価格・低品質の包丁が大量生産されていることです。もっと切れ味のポテンシャルを出せるはずなのに、消費者は値段ばかり気にします。値段ではなくて「値打ち」が大事なのです。価格競争になると、低利益になって日本のものづくりに悪影響が出ますし、大量生産すると大企業が大々的に宣伝するばかりで、利益が職人になかなか回りません。職人が減少しているのは、もうけが生産者のところまで流れていないからです。

そこで、職人たちと業界全体を守るためにタワーナイブズを設立しました。なぜこうした店を出すことが必要だったかというと、“いいもの”を伝えるためです。せっかく職人たちがいいものを一生懸命作っても、誰も説明しなければその良さが分かりません。日本の包丁の素晴らしいところは、見た目だけでなく切れ味です。切れ味のおかげで断面がきれいになり、ものが長持ちするだけでなく、食材が舌に当たるときにおいしくなるのです。

特に日本では、旬にこだわりがあります。これは絶対に守りたいです。料理の業界では、道具がよくなかったら格段に料理の味が落ちます。料理の味が落ちれば、業界全体のお客さんも減るでしょう。外国人観光客が日本に多く訪れるのは、日本の料理がおいしいからです。絶対に質を下げてはいけないと思います。

現在は東京ソラマチにもタワーナイブズを構えており、スタッフは大阪と合わせて22人います。私がお店にずっと立ってお客様に説明するよりも、他のスタッフたちがちゃんと説明できるようになることが重要です、そして、その人たちがまた新たなスタッフに教えられるようにしています。

スタッフは20代が中心でエネルギーにあふれています。日本人だけでなく台湾やスリランカ、米国の人もいます。伝えるためには言葉が大切ですから、英語、フランス語にも対応しています。店内では言葉による説明だけでなく、お客さんが実際に試し切りをできるようにし、経験を通して理解してもらうようにしています。

私が店を設立したのは、やはり伝えるためです。これからもずっと伝えたいと思います。「この店をなぜ外国人がやっているのか」とよく聞かれます。「これは日本人がやるべきではないか」と私も思います。たまたま私がその立場になったわけですが、こうした日本文化が消えるのは非常に残念ですので、これからもずっとがんばって伝えることを行っていきたい。売るだけでなく、業界内でしっかりとものづくりができる環境を整えることで、職人たちが「自分の子どもにも継がせたい」と思うようになるでしょう。そうしたつながりも大切ですので、これからも続けていきたいと思います。

外国人が起業しやすい環境作りに向けて

コメンテータ:
われわれがイノベーション創出の観点からいろいろな施策を考える上で、やはりダイバーシティが非常に重要です。その点では、外国人の視点や独特の経験に基づくいろいろなアドバイスは非常に大切だと思っています。

グローバル展開においては、日本から海外にどんどん展開していくことも大事ですが、海外の人に来てもらって日本にいろいろなコミュニティーを広げてもらうとともに、海外とのつながりを作ることも重要です。

深沼さんのご研究は、本当にきちんと調査・分析されていました。日本政策金融公庫さんの調査・分析はわれわれが政策検討をする上でもよく使っており、今回の分析もなるほどと思うところが多かったです。引き続き政策検討のときに使っていきたいと思うので、ぜひまたいろいろ教えていただきたいと思います。

ハイバーグ社長には、本当に感謝したいと思います。実は私も時々料理をするのですが、やはり包丁がいいと料理が楽しいのです。メンテナンスは大変ですが、やはり道具は使ってみないと分からないので、そうした文化をどんどん広げていっていただくのは本当に良いことだと思います。

ハイバーグ社長のお話の中で一貫していたのが、伝えることの重要性だったと思います。これはわれわれにとって本当に大事なことだと思うのです。日本のいろいろな技術やビジネスを海外展開したり、日本に来ていただくことを考えたりするときに、日本はやはり伝えるところ、ストーリーを作るところが弱いと思います。そうしたときに、ハイバーグ社長のように外国からの視点も含めて丁寧に伝えることは非常に大事だと思いました。

政策を少しご紹介すると、日本にはスタートアップビザ(外国人創業活動促進事業)という制度があります。在留資格にはいろいろな種類があって、経営者ビザなどもあるのですが、日本に来て起業の準備をするときにはなかなかステータスが明確にならないので、今までビザがありませんでした。そこで、起業準備のために最長1年間の入国・在留を認める政策を行っています。現在15自治体でこのスタートアップビザを展開しており、入国管理をしっかりと行いながら、金融面や生活面などで起業準備を支援しています。

ビザで最も進んでいるのは福岡市です。海外から来られた方は銀行口座を開いたり、住む場所を探したり、ネットワークや学校、病院などで苦労するので、そうした部分も含めて支援して迎え入れる体制を作っています。こういったところをさらに拡大し、投資家も含めた外国人起業家の方々にどんどん日本へ来ていただけるようになればと思っています。

最近、スタートアップの海外展開がどんどん進んでいますが、日本への投資がここに来て増えている印象があります。日本でこれから既存産業のデジタルトランスフォーメーション(DX)が進むときに大きなマーケットがあるのではないかいうことで、SaaS(Software as a Service)の企業などに海外の機関投資家から投資が入っています。

また、いろいろなところから日本で起業したいという声もあるので、追い風が吹きつつあるようです。日本として海外とつながりを作る大きなチャンスであり、これを生かさないとこれから厳しくなると思うので、しっかりやっていきたいと思っています。

外国人留学生に関しても、やはり日本にもう少し長く滞在してほしいと思います。どうすれば留学生がもっと日本にいてくれるようになるのかといったことも含めて、またいろいろディスカッションできればと思っています。

質疑応答

Q:

ハイバーグさまに質問です。刃物の技能はどのように習得されたのでしょうか。日本以外の国でもバーチャルリアリティー(VR)などの手法で習得することは可能でしょうか。

ハイバーグ:

私は包丁を作っていると結構勘違いされるのですが、そうではありません。私は一生懸命作っている職人たちのことを説明する立場です。弟子になるのはそんなに簡単ではなく、職人の技をしっかりと受け継ぐ環境をどう作るかということを日々考えています。

しかし、研ぎの技術は言葉だけでなく自分でも覚えたいので、研ぎの先生に毎週教えてもらっていました。自分が覚えたら次はスタッフのみんなにも教えて、今はお客さんにも無料で研ぎ方を教えています。そうするとお客さんに自信がついて、自分でメンテナンスができるなら良いものが欲しいと思うようになります。ですから、それは絶対に必要なことです。

VRでもたまに研ぎのレッスンをしていますし、YouTubeでも基本の研ぎ方などの動画をアップしています。そうしてお客さんが自分でメンテナンスできるようにすれば、マーケットがうんと大きくなり、お客さんが増えるだけでなく、お客さんの要求の質が変わって、もっと良いものが欲しいと思うようになります。

Q:

深沼様にご質問です。アンケートの中で、日本で暮らしたい人が4割近くいるのは大変うれしいデータでした。そうした外国人経営者を増やすためにはどのような政策が必要でしょうか。

深沼:

外国人経営者をどう増やすかという問題は、日本人の起業家や経営者を増やすにはどうすればよいかという問題と重なるところも多いと思います。まず、経済産業省も含めていろいろな制度やサポートの仕組みが作られていますが、意外と知られていないことが課題です。

特に外国人の場合、言葉の問題があって意外と知られていないことが2021年の調査でも分かりました。在日外国商工会議所を5カ所回ったときに、中小企業庁がコロナでいろいろな対策をしているという話をしたのですが、そういうものがあるのかという反応が結構ありました。ですから、もちろんサポートも大切ですが、それをどう知らせていくかということも重要です。場合によっては日本語だけでなく、少なくとも英語によるサポート情報の発信が重要ではないかと思います。

ビジネスには「よそ者」の視点が大切だとよくいわれます。外国人という違った視点からビジネスや地域おこしの問題を見ることは非常に重要ですが、受け入れる側の姿勢も重要だと思います。

Q:

最後に皆さまから一言ずつコメントを頂きたいと思います。

コメンテータ:

やはり政策が知られていないのは大きな問題だと思うので、その点を強化していきたいと思います。今日改めて認識したのは、伝えることの大切さです。値段ではなく「値打ち」を伝える方法も政策的にいろいろ考えたいと思います。

深沼:

これまでのトレンドを考えると、外国人経営者が将来どんどん増えていくのは間違いないと思うので、先ほど申し上げたような受け入れ側の姿勢や体制をこれからきちんと作っていくことが非常に重要だと思います。

ハイバーグ:

日本には皆さんが当たり前に思っているものでも素晴らしいものがとてもたくさんありますので、いいものが次の時代にも残るよう、しっかりと伝える必要があると思います。包丁以外にも日本の素晴らしいところはいろいろありますから、これからもみんなに知ってもらえるように、次の時代にも伝わるように頑張ろうと思います。

モデレータ:

伝統文化を支えるためにも海外の方のサポートが必要です。京都では、職人を募集すると山ほど応募が来るそうですが、職人を増やしても仕事がないらしいので、あとはわれわれが仕事をどう作るかだと思います。「値打ち」を大切にして、一生使えるものは高価でも大事に使う文化を作ることで、伝統文化を支えながら日本の文化を海外に発信していければと思います。本日は貴重なお話をありがとうございました。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。