DXシリーズ(経済産業省デジタル高度化推進室(DX推進室)連携企画)

変化・進化し続けるSMBCグループのデジタル戦略

開催日 2021年10月29日
スピーカー 谷崎 勝教(三井住友フィナンシャルグループ執行役専務 グループCDIO)
コメンテータ 渡辺 哲也(RIETI副所長)
モデレータ 木戸 冬子(RIETIコンサルティングフェロー / 東京大学大学院経済学研究科 特任研究員 / 国立情報学研究所研究戦略室 特任助教 / 日本経済研究センター 特任研究員 / 法政大学イノベーションマネジメントセンター 客員研究員)
開催案内/講演概要

金融機関を取り巻く環境は、世界的な超低金利環境の持続、新型コロナウイルス感染拡大による社会全体の急速なデジタル化、規制見直しなどにより、急激に変貌している。三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)は、こうした状況に対応すべく、早くからデジタル戦略を進化させ、中堅・中小企業向けのプラットフォームサービスや生体認証など、金融・非金融の垣根を越えた新たなビジネス創出に取り組んできた。本セミナーでは、SMFGの谷崎勝教執行役専務・グループCDIO(チーフ・デジタル・イノベーション・オフィサー)が、SMFGのデジタル戦略について新たなサービス事例を交えて紹介するとともに、現在展開している脱炭素支援や広告事業などの取り組みの狙いについて語った。

議事録

金融機関を取り巻く環境変化

世界的な超低金利やコロナ禍を契機とした社会全体の急激なデジタル化、さまざまな規制見直しなどで、顧客と競合相手、われわれ自身の3つの領域で大きな変化が起こっている。非金融のプレーヤーが金融に参入し、金融業界も非金融領域に進出するなど、競争・共創領域が拡大している。われわれ金融機関と非金融プレーヤーは、コンペティターでありパートナーでもある。われわれはデジタル戦略を毎日のようにアップデートしなければならない。

Platform & Embedded Solution

未来の金融グループの在り方の1つと考えているのが、Platform & Embedded Solution。SMBCグループのサービスプラットフォームを充実させるとともに、ビジネスにembedded(埋め込み)しやすいソリューションを開発し、パートナー企業(プラットフォーマー)や事業会社とつながることで、幅広く価値を創出できる新しいビジネスモデルを目指している。

例えば、決済やファイナンスの機能を裏側でembeddedしてソリューションを提供している事例がある。われわれはモビリティサービス事業者などのプラットフォーマーの黒子として金融機能を提供し、プラットフォーマーを通じた購買やお金の安心・安全なやりとりに貢献している。

また、われわれは国内からアジア、海外へと行き先を進化させている。特に、東南アジアを中心とするAPAC地域でEmbedded Solutionが進んでいるため、まずは東南アジアで現地のデジタルプラットフォーマーとの連携を進め、ビジネスモデルの高度化を図っている。

例えば、東南アジアの企業グループやAPACに展開している日系企業に対して、デジタルを活用して複数国にわたる外国為替(foreign exchange)のポジションを可視化したり、子会社間を統合した上で運転資金の分析など、一歩踏み込んだソリューションを展開している。

さまざまなデジタルサービスの創出

より優れたサービスを提供したいと考えた結果、数々の非金融デジタル子会社を設立した。

プラリタウン(PlariTown)は、2020年5月にできた新会社で、「DXといっても何から手を付けたらいいか分からない」という声に応え、中堅・中小企業のお客さまのデジタル化を支援している。テレワークなどのオンラインコミュニケーションやスケジューリング、名刺管理や人事管理の機能など、外部のパートナーのサービスに直結できるような、Software as a Service(SaaS)のプラットフォームを提供している。より良いサービスを求め、われわれだけで作るのではなく、外部のパートナーと一緒に構築した。

ポラリファイ(Polarify)は、アイルランドのDaon社とNTTデータとの合弁会社で、スマホ上で行う認証機能を顔・声・指紋など複数のバイオメトリクスを使って行うサービスを提供している。なお、同社は2017年4月に施行された改正銀行法における銀行業高度化等会社として金融庁に個別認可された第1号。これまでに累計1000万人のユーザーが利用し、現在は顔パス認証決済なども開発している。

SMBCクラウドサインは、2019年10月に弁護士ドットコム社との合弁で設立した電子契約サービスを提供するデジタル子会社。契約手続きの作成、締結、保管、履行のプロセスのうち、締結と保管をクラウド上で処理する。これにより契約の大幅なスピードアップとコスト削減が図られ、リモートワークが普及する中、印鑑を押すために出社する必要もなくなる。この会社の社長には、サービスを発案した37歳の若手社員を登用したことも、当時、マスコミなどで取り上げられ、話題になった。

ブリース(brees)では、スマホにバーコードを表示して支払いをコンビニで行えるサービスを提供している。請求書が紙のままでは、煩雑な作業が残り、コンビニの負担が大きかった。足元で取り扱いは急激に伸びており、今や国内コンビニ店舗の約95%をカバーしている。

三井住友銀行本体としては、“医療データの情報銀行”に取り組んでいる。個人が自身のパーソナルデータを、自分の意思で管理・利活用できる社会の実現を目指し、大阪大学医学部附属病院にて、患者が自分の医療データを確認できるアプリ「decile(デシル)」を提供している。

また、この情報銀行事業の展開加速化に向けて、医療系のベンチャー企業プラスメディを連結子会社化した。同社は診療費の会計後払いや診療の待合順番通知、処方の履歴確認等のサービスを「MyHospital(マイホスピタル)」というアプリで提供している。マイホスピタルとデシルを連携させて、さらに便利なサービスを提供していきたい。

SMBCグループは、従来対面でのビジネスマッチングを強みとしてきたので、それをデジタルの世界で完結させる「Biz-Create」というサービスも提供している。現在約1万2000社が登録し、毎月約2000件の商談が行われている。

コロナ禍を契機にお客さまの行動パターンや嗜好が大きく変化し、金融機関のサービスをオンライン経由で利用するお客さまが急増し、モバイルバンキングを日常的に活用するまでになっている。今後、ますます変化・多様化していくお客さまのニーズに応じ、われわれはデジタルとデザインを活用して、場所や時間、手段を問わず、シームレスなお客さま体験を追求し続けている。

こうした使いやすさへの取り組みが評価され、三井住友銀行が提供するインターネットバンキング「三井住友銀行アプリ」は2019年度に続き、2021年度もグッドデザイン賞を受賞した。

個人向けの銀行アプリに加え、三井住友銀行は、みずほ銀行、三菱UFJ銀行、りそな銀行、埼玉りそな銀行と合弁で2021年7月、多頻度小口決済のための新しいインフラの運営を行う「ことら」を設立した。ことらのインフラは2022年度の開始を予定しており、加盟金融機関を通じた個人間送金サービスでは、利用者が携帯電話番号やメールアドレスなどを指定することで、少額の手数料で、相手の銀行口座への送金が可能となる予定。

法人向けに提供している決済サービス「Web21」と「Web21ライト」のユーザーインタフェース(UI)、ユーザーエクスペリエンス(UX)向上にも努めている。なお、後者は、登録件数の制限等はあるが、導入時の初期費用や月々の利用料も無料で、三井住友銀行に口座を有する法人のお客さまは、原則、追加の申込書の提出をすることなく、利用可能となっている。

キャッシュレス時代に備え、三井住友カードは、ビザ・ワールドワイド・ジャパン、GMOペイメントゲートウェイ株式会社と共同開発した次世代決済プラットフォーム「stera」を通じて、さまざまな決済手段を組み込んだ決済端末を加盟店に向けて提供している。キャッシュレス・クレジットカード決済等を通じ、加盟店の売上や会員さまの属性等の蓄積された決済データを分析する顧客のデータ分析支援サービス「Custella」も提供している。

お客さまが使いやすいようにUI/UXを向上させ、お客さまとの取引ボリュームが増えることで蓄積されたデータを大切なデータアセットと見なして分析し、金融機関のビジネスモデルを高度化するとともに、新たなサービスとしてお客さまに還元していきたいと考えている。その一環として、2021年7月、電通グループとの合弁で、SMBCグループの持つ金融データを利用した広告・マーケティング事業を営む「SMBCデジタルマーケティング」を設立した。

三井住友銀行の持つ約2800万IDにのぼるデータから、個人のお客さまの属性、消費意欲、ライフイベント等を推定することが可能で、これらデータ分析を通じて、お客さまのニーズに合わせて、銀行のアプリを通じて、広告を配信している。

すでにいくつかの企業から受注し、広告を配信しているが、広告の表示数、クリック数共に、非常に良好な結果が得られており、リピートの引き合いも頂いている。

今後とも、個人情報を扱うビジネスとして運営や管理はしっかりと行い、金融機関の提供する広告・マーケティング事業として、安心・安全な仕組みを作っていく。

広告のようにデジタルで貢献できるものはないかと考え、SMBCグループは、グリーンの領域にも参入した。企業の経営課題として、サステナビリティやESG(環境・社会・ガバナンス)の重要性は高まっている。最終的にはサプライチェーン全体で温暖化ガスの排出量を削減する必要があるが、100社程度にヒアリングしたところ、データの抽出や算定・可視化といったフローの前半でつまずいている企業に多く出合った。その領域であれば、デジタルの力でソリューションを提供することが可能であると考え、排出量データの算定・可視化「Sustana」を開発した。

こうした脱炭素支援は、金融機関単独でできるものではない。顧客である大企業や国内外のグリーンテック、グリーンスタートアップなどとパートナーシップを結び、具体的な支援策を、スピード感を持ってサービスを開発・提供していきたいと考えている。

実際にグリーンスタートアップへの出資や、気候変動への情報開示支援ソリューション提供に向けたIBMと米国企業との協働についても発表しているが、今後も加速させていく。

デジタル戦略を支える仕組み

デジタル戦略の推進に当たり、社員から出てきたアイデアを事業化まで行う仕組みを、時間をかけ、試行錯誤しながら創り上げてきた。

企業カルチャーへの取り組みとして、社長の太田(太田純 執行役社長 グループCEO)は「社長製造業」をうたい、意欲のある若手社員には起業家精神を持って従来の殻を破れと訴え続けている。私自身、そうした若手のアイデアを採り上げ、プロジェクト化して、会社を立ち上げ、その若手を社長に抜擢している。金融業界は年功序列が常識だが、異なるルートを作りたいと考えており、これがマインドセットの変化につながっている。

また、社内コミュニケーションを促進すべく、社内SNSを導入し、実際、その中から新たなビジネスのアイデアが生まれ、事業化されるという、新たなプロセスもできている。先日ローンチしたマンション管理業務向けデジタルソリューションは、一社員がSNSに投稿したアイデアに対し、部や地域を超えて、多くの従業員が「いいね」を押したことがきっかけで動き出した。

これまで説明したデジタル・プロジェクトの事業化に関する最終的な意思決定は、私と太田社長が出席するCDIOミーティングで行い、この会議で決まった案件は、即断即決で進み、承認と共に予算も付くので、スピーディに事業を展開していける形になっている。これがデジタル戦略を支える仕組みであり、これを作っていくことがCDIOである私のミッションだ。

コメント

Q:

SMBCグループという、日本を代表する超の付く大企業が、これほど急速に変化に対応できたのはなぜか。

A:

7~8年ぐらい前、デジタルの取り組みを検討し始めたときから、テクノロジーの進化で業態が変わっていくという危機感が経営陣にはあった。金融機関にありがちなのは、業務・資本提携は結んでも、実ビジネスにならないことだ。提携は結んでも、実際のビジネスにならなければ意味がないという感覚を持ち続けていたことが、われわれが少し違っていたところかもしれない。

Q:

データサイエンティストの数が意外と少なく、逆に業務が分かる人間の割合が多いと感じた。これは、ビジネスを考える人間と技術が分かる人間の両方が必要という考えか。

A:

私はデジタル・ビジネス人材と呼ぶが、技術を理解している人たちを十分使えるだけの、ビジネスをイニシエートできる人材が必要だと考えている。こうしたデジタル・ビジネス人材は、金融機関も含めて、日本には圧倒的に足りていないと感じている。

質疑応答

Q:

地方銀行のビジネスを高度化する取り組みとしてどのようなことが考えられるか。

A:

地方銀行には地方銀行ならではの目指すべきビジネスモデルがあるが、メガバンクと同じサービスを自分たちで作るには時間とコストがかかるので、メガが採用するサービスに加盟する方がスピーディかつ、地方銀行のお客さまに適したサービスが提供できることになると思う。例えば、マッチング・サービスであれば、地方銀行加盟によって、マッチングの精度がさらに高まり、参加者のコストも抑えられるなど、地銀・顧客・われわれの三方にメリットがある。

Q:

振込手数料ゼロのような新たなサービスを始める際に、既存ビジネスの打撃になる心配はなかったか。

A:

競争のある領域では、手数料は減り続け、やがてゼロに近づいていくのは避けられず、手数料据え置きはあり得ない時代だと考えている。従って、既存ビジネスの手数料が減っても、他で収益が上がるよう新しいサービスを考える必要がある。

Q:

データサイエンティストは従来から社内にいたのか。デジタル人材の育成・確保についてお聞きしたい。

A:

われわれはデータサイエンティストを「棟梁」以下4段階に分けており、模範となるような「棟梁」クラスが数人いれば、組織全体がレベルアップされると考えている。SMBCグループはデジタルユニバーシティという仕組みを作り、データ分析の講座を設け、すでに2万人以上の従業員が受講した。同時に、グループ内には「Kaggle」というデータ分析の国際コンテストで世界4位に入賞した猛者もいる。そうしたスペシャリストたちに活躍してもらいながらデータサイエンスに対する基本的な裾野を広げる試みを行っている。

Q:

他のプラットフォーマーが御社より優位にあるとすればどこか。

A:

SMBCグループは金融機関なので、サービスをローンチするにはそれなりに時間がかかる。一方、新興のスタートアップたちの、プロダクトアウトまでの速さはまねできるものではないし、特殊な能力を持つ人材も多くいる。従って、そういった優れたタレントたちを、パートナーとして迎え入れ、自分たちの足りない部分で、100%、200%活用しようという考え方でいる。

Q:

デジタルユニバーシティの進捗はどうか。

A:

デジタルユニバーシティは、これまで2万人以上が受講した。いわゆる見習い、独り立ち、棟梁のようなランクを設けて、データ分析ができる人材を育成し続けている。専門的なレベルに近いデータサイエンティストには手厚い教育をしつつ、同時に会社全体のリテラシーを上げ、レベルの底上げをしている。

Q:

デジタルという新しい動きに直面した時、経営陣や管理職は、自分事ととらえず、若手に任せてしまうこともあり得たと思うが、SMBCグループは、経営陣や管理職など中核となる層がデジタルをけん引しているのか。

A:

5年ほど前、経営陣の意識を変えさせるべく、東京大学の松尾豊先生を招き、これからAIやデータ分析を学ぶ必要性について講義をしてもらった。また、中間層の従業員に対しては、公開のパネルディスカッションなども開催するなどあらゆる階層に対して、考え方を変えてもらうためのアプローチをし続けてきた結果だと思う。

Q:

新しいビジネスを始める際の行政面でのボトルネックは何か。

A:

金融機関と非金融プレーヤーのレベル・プレイング・フィールド(公正な競争条件)が確保される必要があると感じる。日本企業は各領域でトップティアの企業群が領域を超えて競争しない限り、みんな底辺に残ってしまうような気がしている。その際に、業態の壁を超えていかに競争させるかという観点が重要だと考えている。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。