DXシリーズ(経済産業省デジタル高度化推進室(DX推進室)連携企画)

ヤマトグループの経営構造改革-DXとCXの一体推進-

開催日 2021年9月29日
スピーカー 牧浦 真司(ヤマトホールディングス株式会社 専務執行役員 経営構造改革統括・イノベーション推進担当)
コメンテータ 佐分利 応貴(RIETI国際・広報ディレクター / 経済産業省大臣官房参事)
モデレータ 木戸 冬子(RIETIコンサルティングフェロー / 東京大学大学院経済学研究科 特任研究員 / 国立情報学研究所研究戦略室 特任助教 / 日本経済研究センター 特任研究員)
開催案内/講演概要

「宅急便」で知られる物流業界大手のヤマトホールディングスは、eコマースの急発展などに伴う物流業界の環境激変に対応するため、2020年1月、中長期の経営のグランドデザインである「YAMATO NEXT100」を発表し、抜本的な経営構造改革に取り組んでいる。「YAMATO NEXT 100」の重要な概念である「DX(デジタルトランスフォーメーション)とCX(コーポレートトランスフォーメーション)の一体推進」を進めるため、同社はこれまで外部人材を積極的に登用するとともに社員の意識改革に努めてきた。本セミナーでは、ヤマトホールディングス専務執行役員の牧浦真司氏に、「DXとCXの一体推進」にどのように取り組んできたかを伺った。

議事録

講演

私はヤマトホールディングスに2015年に入社し、2016年1月から構造改革プロジェクトを立ち上げました。

まず初めに、テクノロジーによる経営構造改革を掲げました。ヤマトにはセールスドライバーをはじめ22万人を超える社員がいます。当社が持つアナログの強さ、人間力の強さにデジタルの力を加えれば大きな成果を出せると考えました。

もう1つの強みはデータの力です。宅急便の取扱個数は年間21億個に上ります。巨大な宅急便というネットワークの周りには物流・金流・商流のデータが漂っています。これらの強みを活用し、社会的インフラの一員として、次の時代も豊かな社会の創造に持続的な貢献を果たす企業となることを目指し、経営構造改革プラン「YAMATO NEXT100」を策定しました。

「YAMATO NEXT100」には3つの基本戦略があります。1番目は、「お客さま、社会のニーズに正面から向き合う経営の転換」、要するに顧客起点への経営の転換です。宅急便の生みの親である故小倉昌男氏は、徹底的に主婦や個人のお客さまに向き合いました。そして主婦の方々が物を送るのに非常に困っていることに気付き、宅急便を考えました。この小倉氏の理念に立ち戻ってお客さまを起点とした経営に転換しようと考えたのです。

2番目は、「データ・ドリブン経営への転換」です。現場からは、「AIと人間力のハイブリッドがヤマト流だ」という言葉が生まれました。当社は、データ・ドリブンでアナリティクスを行っていますが、AIだけに頼るのではなく、これまでの現場での経験も組み込んでいます。AIが出した答えを現場で修正しながら活用していくということを当社では日常的に行っています。

3番目は、「共創により物流のエコシステムを創出する経営への転換」です。われわれは「運送業」から「運創業」への転換を掲げました。荷物の増加に対応するため、外部のパートナーとアライアンスを組み、新しい運ぶプラットフォームをつくっていく意味合いで「運創」という言葉を作りました。

「運送から運創へ」という言葉は、業態転換を志向している言葉です。そのことを明確に打ち出すために「構造改革宣言」を作成しました。そして、私たちは社会的インフラ企業としての使命を果たし、豊かな社会の実現に貢献するというパーパス(目的)を社員に再度訴えかけました。eコマースの急拡大やサステナビリティなど大きな課題に対し、イノベーションで解決していくためのキーワードとして「運送から運創へ」をうたっています。

これら3つの大きな戦略をもとに、中期経営計画「Oneヤマト2023」で実践しようとしている1つが、宅急便を中心とする経営構造改革です。

旧ヤマトグループには、ホールディングス制の下に複数の機能別の会社があり、それぞれが自分たちの持っている商品・機能を提供していました。これを抜本的に変えるため、2021年4月1日からホールディングス傘下の8つの会社(内、1社は事業)を統合し、グループ経営体制を刷新しました。

リテール事業本部、法人事業本部、グローバルSCM事業本部、EC事業本部と、4事業本部を支える4つの機能本部(輸送本部、デジタル機能本部、プラットフォーム機能本部、プロフェッショナルサービス機能本部)を設置する大改革を行いました。

「データ・ドリブン経営への転換」に関しては、4年間で1000億円をデジタル分野に投入するとともに、社内外のデジタル・IT人材を結集し、2021年4月に300人規模の新デジタル組織を立ち上げました。

そして、オープンイノベーションを行うためのCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)ファンドをつくりました。シリコンバレーのスタートアップに数億円の投資を行っています。このように、内部だけでなく外部の力を使いながらデータ・ドリブン経営への転換に向け、ヒト・モノ・カネを集中投入しています。

「YAMATO NEXT100」では、「宅急便を中心とした経営構造改革」を中心に据えていましたが、これを「過去の成功体験に基づく日本企業の経営構造」に置き換えてみると、かなり多くの日本企業(特に大企業)に当てはまると思います。

多くの日本企業は、戦略、経営システム、組織・風土のそれぞれについて、勘と経験に頼った属人的な業務が多く素早い意思決定ができなかったり、外部環境への対応力がなかったり、ニューノーマルの下での新しい働き方に転換ができていなかったりしています。当社が進めている「DXとCXの一体推進」は、日本企業にも一般的に必要なのではないかと思います。当社も、世界各地からベストプラクティスを入れながら社内の芽を拾い上げ、DXとCXを一体に取り組んでいきたいと考えています。

質疑応答

佐分利:

改革はどの組織にもなかなか難しいことですが、何から始めればいいでしょうか。

A:

改革の3ステップと呼んでいるものがあります。ゼロベースの問題点把握、課題の構造化、アクションプランの策定・実行の3つのプロセスが基本だと思っています。

プロジェクトメンバーに経営陣が社内の精鋭を集めてくれたのは、重要なメッセージになりました。経営陣が経営構造改革に本気だ、というメッセージを社内に伝えられたことは大きかったと思います。

それから、これは絶対にしてはいけないというものがあります。「慮るな」、デジタルの世界では上司が正しいとは限らないので、上司に対しても徹底的に議論しろということです。「黙るな」、とにかく議論して声を上げようということです。「抱え込むな」、できないことがあればチームで早めに共有し、議論して解決しようということです。これらを、改革の3つのステップとともに徹底してきました。

Q(松本理恵コンサルティングフェロー):

社内にデジタルが分かる人間、DXに貢献できる人材はどのくらいいて、人材確保の面でどんな苦労があったのでしょうか。

A:

中核人材を外部から採用し、その方々を中心にチームをつくっています。さらに、素養がありそうな社内の人材を集め、さまざまな教育プログラムを利用し育成しています。当社の優位性は、社会インフラ企業であることと、大量のデータを持っていることです。デジタル人材から見て面白いデータをたくさん持っているため、仕事の充実感に訴求し、採用につなげています。

Q:

デジタルで運創事業を興すときの具体的なKGI、KPIは何だったのでしょうか。

A:

KGIは、ボトムラインにどれだけ貢献するかという数値を計画に入れました。シリコンバレーで言われているように、計測できないものは管理できないのだと思っています。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。