開催日 | 2021年4月7日 |
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スピーカー | バヤルサイハン・バンズラグチ Ph.D(モンゴル国前国家開発庁長官 / 駐日モンゴル国大使館・経済貿易参事官) |
コメンテータ | 小野寺 修(経済産業省通商政策局通商交渉官 / RIETIコンサルティングフェロー) |
モデレータ | 安藤 晴彦(RIETI理事) |
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開催案内/講演概要 | 中国とロシアに挟まれたモンゴルは、面積は日本の約4倍あるものの、人口は340万人と現在国際的な議論となっているウイグル人(1,280万人)、香港人(750万人)より少なく、内陸国という厳しい地理的状況のなかで、日本とのつながりを重視した独自の平和外交を続けている。モンゴルは、2019年10月に憲法を改正して「持続的、安定的な開発政策」を行うことを明記し、2020年5月には、民主化後30年の歩みを振り返りつつ今後30年間の長期開発政策の方針を定めた「長期ビジョン2050」を策定した。本セミナーでは、長期ビジョンの策定に尽力したバヤルサイハン・バンズラグチ前国家開発庁長官が、モンゴルの今後のビジョンや日本との協力の可能性について、流暢な日本語で解説した。 |
議事録
モンゴル「長期ビジョン2050」の目指すもの
モンゴルの長期開発政策のロードマップ「長期ビジョン2050」は、官僚や研究者など1500人以上が参加し、当時内閣官房長官だったオユンエルデネ現首相のリーダーシップの元で、国家開発庁でまとめて作り上げました。憲法を改正して「開発政策・計画は持続的、安定的であるべき」と明記し、そのための開発政策関連法律も2020年5月に改正されました。選挙や政権交代の有無に関係なく、長期開発政策を最上位政策として維持することが、法的に保証されたのです。
「長期ビジョン2050」では、各プログラムがSDGsと関連付けられています。SDGsに関しては、2019年7月に私と財務大臣が国連に出席し「自発的国家レビュー2019」を発表しました。ここで焦点となった大気汚染については、2020年に首都圏の大気汚染の40%カットに成功しています。
モンゴルの知的能力は常に世界10位以内ですが、その活用ができておらず、各種発展指数は世界の中でかなり後れています。貧困率(2019年)は28.4%と高く、1人あたりGDPは4294ドルとなっており、これを2050年までに3万8000ドルに引き上げ、貧困率も5%に下げることを目指します。
長期ビジョンでは、国民の共通価値としての遊牧民族文化の維持を宣言しています。世界のどこにもない遊牧文化ツーリズムや持続可能な家畜産業を事業化していきます。また、新国際空港や衛星都市を開発していくことで、2050年に首都圏が北東アジア物流のハブとなることを目指します。
モンゴルの現在の人口は340万人ですが、毎年10万人ずつ増えており、2050年には540万人となる見込みです。この国民に安定した雇用と収入を確保する経済開発が重要であり、現在の経済成長率5~6%を維持したいと考えています。
日本への期待
モンゴルと日本との経済連携協定(EPA)は2016年6月7日に発効し、今年で5周年になります。協力可能性のあるプロジェクトはたくさんあり、国際的サプライチェーンでは物流インフラの開発・整備の協力がありますし、スプリンクラーの整備で莫大な農地の確保が可能です。畜産業では、食肉加工製品、カシミア、ウール、革製品、乳酸菌関連商品の開発が想定されます。観光産業では、道の駅の開発、宇宙旅行訓練センターなど。情報処理産業では、AIの開発、ICT、大型データセンターの開発も実現可能です。エネルギー産業では、再生可能エネルギー、蓄電産業などがあり、地下資源の開発・加工製造も進めていきます。株式会社メガテックという日本企業がモンゴルでシリカ採掘・加工のプロジェクトを実施していますし、高品質のコークス製造や石灰石のプロジェクトも進んでいます。
モンゴルは世界2位の馬肉生産国ですし、羊肉・ヤギ肉の生産も盛んです。住友商事がすでに事業化調査をしていて、IoTを活用したトレーサビリティのある「畜産業2.0」で中東向けの輸出の可能性を探っています。畜産業を輸出産業に変革することは大きなミッションとなっています。モンゴルはカシミアと羊毛の世界シェア40%を占めていますが、カシミアの80%は原毛のまま輸出されているので、その半分を国内で2次加工・製品化できれば4万人以上の新規雇用を生むことができるでしょう。
観光産業は多くの人々に職と収入、喜びを与える平和産業です。日本を手本として、道の駅のネットワークをぜひ開発したいと考えています。地方に物流・ロジスティックを構築することも地方経済開発の一助となるでしょう。要するに両国で持つものをかけ合わせて、インターナショナルサプライチェーンの共同プロジェクトを推進して行けると思います。出来立ての新ウランバートル国際空港に関しては、三菱商事株式会社、成田国際空港株式会社、日本空港ビルデング株式会社(羽田空港)、JALUXが共同で15年間運営に参画するコンセッション契約を、私が国家開発庁長官だった時代に結びました。中央アジアのハブ空港を目指して共に開発していきたいと考えています。経済金融特区や統合型リゾート(IR)観光特区、国際物流センター、広大な土地を利用した大規模ビニールハウス事業など、新空港を巡ってあらゆる周辺プロジェクトの可能性があります。
日本と共に30年後のカーボンニュートラルを目指して協力して参ります。モンゴルは石炭大国であり、日本のクリーン・コール・テクノロジーの導入を検討しています。資源の再利用についても課題があります。モンゴルは自動車(中古車を含む)の94%を日本から輸入しており、使用済みバッテリーの放置は社会問題となっています。これをリサイクル処理することで社会貢献ができると思います。
長期計画の達成には、人材育成が非常に重要です。日本へのモンゴル人留学生は3170人と年々増えており、小中高や学校間の協力、大学間の協力がさらに必要です。工業分野においては、エンジニア育成に向けて高等専門学校(高専)が世界的に注目を集めていますが、現在、国際協力機構(JICA)で「1000人のエンジニア育成プロジェクト」が実施されており、2023年3月までに1000人のモンゴル人が日本の高専に留学する予定です。
モンゴルは、日本とのEPAもありますし、米国と欧州連合(EU)との特恵関税制度に参加しているので、モンゴルで製品を作れば欧米のマーケットを狙えます。私が国家開発庁長官時代に、関係5省庁をまとめ、投資誘致のOne StopService Centerを立ち上げました。現在62種類のサービスを提供しており、日本語デスクも作る予定です。
今後はモンゴルのイベントをオンラインで定期的に行っていきたいと思います。モンゴル国家開発庁と駐日モンゴル国大使館で毎月情報誌を配信しますので、ぜひご覧ください。
Q&A
- コメンテータ:
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今後の日モンゴル関係の大きなポイントは3つあり、1つは円借款で建設した観光拠点となる新ウランバートル国際空港です。2つ目は、農産品・畜産加工の活用です。JICAで農牧畜バリューチェーンマスタープランを2020~2023年に実施し、観光産業と連携することが期待されます。モンゴルの歴史や風景などの豊かな素材を生かし、どうストーリーをつくっていくかが重要です。3つ目は、IT産業などの新産業の育成です。内陸国としてのハンディキャップもIT産業であれば克服できますし、親日的で理数系能力の非常に高い日本語人材が多いことも分かってきています。
これら3つの柱全てにおいて人材が鍵になるのですが、実は30 0 0人超のモンゴル人留学生が帰国留学生の会JUGAMOを組織して助け合っています。さらに、モンゴルには日本式の高専が3校あり、日本の国立高等専門学校機構としっかりと連携しています。また、JICAのモンゴル人材開発センターは、現地での人材開発に貢献しています。今後も日モンゴル間のビジネス連携の深化を期待しています。
- Q:
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モンゴルの留学生は皆さん本当に優秀で、モンゴルの未来は明るいと思いました。モンゴルは内陸国ですが、DXが進めば遠隔地の不利益はなくなります。日モンゴル間でICT分野の協力をもっと進められないのでしょうか。
- コメンテータ:
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サイバー分野は各国政府独自に進めることが難しく、日モンゴル政府間で協力を進めつつあります。ICTは、非常に有効な両国の協力分野だと思っています。
- Q:
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モンゴルはサテライトオフィスの立地として最適だと思うのですが、4Gや5Gなどの通信環境はどうでしょうか。
- スピーカー:
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モンゴルは地震などの自然災害が非常に少なく、データセンターの立地に最適です。通信環境に関しては、全21県と主要町村にまで光ファイバーの敷設が進んでおり、また、モバイル4Gについても、全国で人々の居住エリア、鉱山などの事業エリア、観光エリアなどをほぼカバー出来ており、現在も拡大が進んでおります。4G とスマートフォンを利用したあらゆるアプリケーションサービスも政官民での開発と導入、一般の利用がかなり進んでおります。日本のKDDIが出資するMobiComというモンゴル最大手の携帯電話会社では日本人の社長が経営を行っており、モンゴルの通信産業を牽引しております。5Gについても近い将来の導入に向けて、日本でのノウハウなどを勉強しながら準備を進めております。 ちなみにモンゴルでは7月1日を目標に新空港の開港を進めています。開港しましたらぜひいらしてください。
この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。