グローバル・インテリジェンス・シリーズ

中国経済の中長期展望―公平性と効率性の両立を目指して

※このBBLセミナーは引用禁止です。

開催日 2021年3月24日
スピーカー 孟 健軍(RIETI客員研究員 / 清華大学公共管理学院産業発展・環境ガバナンス研究センター (CIDEG) シニアフェロー)
コメンテータ 関 志雄(RIETIコンサルティングフェロー / 株式会社野村資本市場研究所シニアフェロー)
モデレータ 佐分利 応貴(RIETI国際・広報ディレクター / 経済産業省大臣官房参事)
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開催案内/講演概要

中国は、2019年に1人あたり国内総生産(GDP)が1万ドルの大台に乗り、2020年には経済成長率が改革開放以来最低の2.3%に落ち込みながらも、GDP総額は100兆元(約1600兆円)に達した。2020年には絶対貧困が消滅したことで、中国の歴史上、長年にわたり悩まされてきた農村貧困問題が社会の不安定要因から取り除かれることになった。しかし、相対格差の解消という公平性の問題は、依然として深刻なままである。一方、中国政府は内外情勢の急激な変化に対応するため、経済の効率性を重視する「双循環」戦略を軸に、第14次5カ年計画(2021~2025年)と2035年のビジョン目標を策定した。本セミナーでは、孟健軍RIETI客員研究員が、2021年度の全国人民代表大会(全人代)の議論を踏まえ、公平性と効率性の両立を目指す中国経済の将来像を展望した。

議事録

中国経済の現状

中国は過去40年、公平性と効率性の両立を常に考えながら様々な政策を行い、すさまじい発展をしてきました。しかし、国内総生産(GDP)が100兆元を超えたものの、経済格差はむしろ大きくなっています。孔子の言葉に「不患寡而患不均」(不平等をなくせば国は自然と豊かになる)があり、中国は数千年前からその夢と戦ってきました。

2020年の中国の経済成長率は2.3%で、この40年で最も低かったのですが、それでもコロナ禍の中で順調に成長しており、産業構造の高度化も進んでいます。

中国が目指してきたのは、全面的「小康社会」の建設です。小康社会は日本との縁が非常に深く、1979年に鄧小平氏(当時は副総理)が、訪中した大平正芳首相(当時)と会見したときに打ち出したコンセプトです。以降、中国の歴代指導者は小康社会の実現を最重要課題として取り組んできました。

貧困削減から郷村振興へ

公平性に関しては、中国では三農問題(農民の所得低迷、農村の疲弊、農業の低収益性)が深刻化していました。古くから農民には農業税がかけられていたのですが、2006年1月1日に廃止されました。また、習近平主席は2020年に、絶対的な貧困を撲滅したことを宣言しました。この2つの出来事は、中国が1つの大きな段階を超えたことを表しているといえます。

2021年2月25日には全国貧困削減表彰大会が開催されました。習政権に移行した2012年以降、12万8000あった貧困村がすべて解消したのです。中央・地方政府が8年余りの間に投下した財政投資は、1兆6000億元(約27兆円)に上ります。中でも大きかったのは、地方官僚の業績を査定するときに、地元が貧困から脱却しなければ昇進できないというルールを作ったことです。

貧困削減を撲滅した後、中国ではまた次の段階の大きな仕事が始まりました。それは2021年1月4日に打ち出された「郷村振興戦略」です。2月19日には閣僚級のトップを有する国家農村振興局が正式発足しました。

習政権の8年間で格差は縮小しましたが、都市の1人あたり可処分所得と農村の1人あたり純収入を比較すると2.5~2.6倍の開きがあり、都市・農村格差は依然として大きく開いています。「郷村振興戦略」では口だけの約束ではなく資金投下、例えば農業機械化やハイテック化などを盛り込みました。それだけ政府は農村振興にかなり力を入れようと考えているのです。

第14次5カ年計画が目指すもの

中国にとって重要な5カ年計画に関しては、私の理解からすれば1つの「施工図」のようなものです。完璧ではなくて途中で改善したりすることもあると思いますが、1つ1つのことを着実に見ながら経済発展の計画を進めてきました。

1949年の建国以来、この「施工図」は3つのストラテジーステップから構成されると考えられます。第一のストラテジーステップ(1949~1980年)は、独自の完全な工業システムと国民経済システムを完成させたことでした。第二のストラテジーステップ(1981~2020年)は小康社会の建設です。1人あたりGDPの1万ドル達成に向けて、市場経済を取り入れながら社会の安定を守るという両立をしながら進めてきました。そして第三のストラテジーステップ(2021~2049年)は、共同富裕社会という「社会主義現代化強国」の目標を達成することです。

2021年からスタートした第14次5カ年計画では、毎年のGDP成長率の数値目標を設定していません。合理的な期間で維持され、各年度の数値は前年度の経済状況に応じて提出するというふうに、非常に柔軟に考えています。実際に2~3年前、我々の政策グループは「打ち出す必要はない」と提言したのですが、やはり1つの目標がないと努力の方向が分からないということです。恐らく李克強首相はそう考えていると思います。ちなみに2021年は6%以上という目標を打ち出しています。

それから、常住人口の都市化率を2020年の60%から2025年に5ポイント引き上げることを目標としています。これは第11次5カ年計画のときに我々の政策グループが行った提言を受け入れたものです。

第14次5カ年計画は盛りだくさんの内容なのですが、中でも私は、基礎研究を新たに創って科学技術の最前線で難関を突破することと、応用技術を開発して製造業の核心競争力を向上することという2つの目標に着目しています。これらを見ると、中国は「中国製造2025」をやめたと見ることもできますが、逆に言えばトランプ氏と戦ったことで目標がもっと具体的内容になったともいえるでしょう。

第14次5カ年計画では、対外開放政策も非常に重要なスタンスとなっています。計画の中では「ハイレベルの対外開放の実施、協力とウィンウィンの新局面の開拓」というタイトルで、第40~42章の3章にわたって明記されています。前の2章は一帯一路や対外開放の新体制など、どちらかというと中国国内の技術環境などを整備する内容ですが、第42章では環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)への加入を積極的に検討し、より高いレベルの自由貿易協定・地域貿易協定を推進することを盛り込んであります。

これには私は若干驚いたと同時に、真剣に対外開放を進めたいという指導部の考え方が表れていると思いました。CPTPPに中国が加われば、経済が拡大するのは間違いありません。経済発展に対して中央政府はかなり真剣に対応したいと考えているのだと思います。

2035年のビジョン目標

中国は、2035年のビジョン目標として9項目を掲げています。経済成長を考えると、1人あたりGDPはおそらく2万ドル台を達成できると思います。あと15年あるので、ひょっとすると3万ドル台も達成可能かもしれません。日本は1981年に1万ドルに到達し、わずか11年後の1992年に、3万ドルに達しました。もちろんその間には円高ドル安などがありましたが、この15年間でそういうことがないとは考えられないと思います。

ただし、習近平時代の中国の歴史的使命は、中国自身のリズムで改革開放と発展を図っていくことです。重要なのはガバナンスであり、中国は政府の役割と市場の役割の両立を目指していきます。

コメント

コメンテータ:
足元の景気動向を振り返ると、2020年1月に中国・武漢から新型コロナウイルスの感染拡大が始まり、2月には全国規模の大流行となりました。当初は中国の対応にいろいろな批判がありましたが、政府がとった大規模な都市封鎖や徹底した感染者の隔離政策が功を奏し、3月以降は感染拡大がほぼ収束しました。

それを反映する形で中国のGDP成長率は、2020年の第1四半期にマイナス6.8%まで下がりましたがV字回復し、第4四半期にはプラス6.5%となりました。他国でも遅れて新型コロナが流行し、2020年第2四半期のGDP成長率は、日本、米国、欧州連合(EU)のいずれも中国の第1四半期を上回る落ち込みとなりました。その後は持ち直しながらも、いまだ前年比プラスには戻っていません。世界経済において中国経済が回復過程で一歩リードする形となっています。

2021年に入って、中国の主要経済指標はさらに力強い数字を示しており、工業生産、固定資産投資、小売売上のいずれも前年比30%程度伸びています。一方、消費者物価指数(CPI)は若干のマイナスを示し、物価は安定しており、当面はインフレが景気回復の制約にはならないでしょう。2021年第1四半期のGDPは、前年比20%を超える可能性があります。

外需に関しては、特に2月の輸出が前年比150%程度伸びました。もちろん2020年が低かった分の反動もありますが、2020年後半からほぼ一貫して中国の輸出の伸びが輸入の伸びを大きく上回っているのです。一般論として中国の成長率が高く、海外の成長率が低いということは、中国の輸入が伸び、輸出は伸びないはずなのですが、どういうわけか逆のパターンになっています。

その要因は、中国国内と海外の需給関係のインバランスが逆パターンになっているからだと考えられます。つまり、海外では生産活動の回復が停滞したままなのですが、各国政府の思い切った景気対策の影響で需要が先に回復し、一種の過剰需要が海外で生じているのです。

一方、中国では逆のパターンになっていて、生産活動が先に回復しているのですが、リーマンショック後と異なり、今回、大型の景気対策が打たれていません。ですから、需要回復がむしろ遅れています。そうなると、海外とは逆に国内で供給過剰となっています。それで、中国が純輸出を拡大することによって両サイドの需給ギャップを埋める形になっているのです。中国の景気回復の背景には、こうした外需拡大の影響があります。

一方、中長期的に見ると、2021年の成長率が高くなるのはいいことなのですが、あくまでも景気循環の一局面であって、持続的ではありません。持続させるためには、さらなる構造改革を通じて生産性を上げたり、過去10年間下落傾向にある潜在成長率の低下に歯止めをかけたりすることがポイントになります。

こうした認識の下、中国政府は2020年から、新しい発展戦略として「双循環戦略」を打ち出しています。双循環戦略とは、国内循環を主体として国内と国際の2つの循環がお互いに促進し合うことです。報道では内需への転換という側面が強調されていますが、これは決して対外開放を後退させることを意味しません。その上、潜在成長率を上げるためには引き続き供給側改革の重要性が高まっていると思います。双循環戦略は新しい5カ年計画の柱となっています。

双循環戦略を整理するために、サプライチェーンの各段階における付加価値を示すスマイルカーブに沿って考えてみました。中国は長い間、加工貿易を中心とした国際循環に大きく頼っていました。スマイルカーブに沿っていえば、付加価値の高い川上と川下に関しては海外に大きく依存していました。

ただ、この状況は近年大きく変わり、労働力不足を背景に賃金が上がって周辺国と競争しなければならなくなり、安い労働力という優位性を生かす形で輸出を伸ばすことは難しくなりました。また、米国との貿易摩擦で中国企業が米国の経済制裁の対象となり、技術の入手も難しくなっており、サプライチェーンの寸断で部品の入手も難しくなっています。製品も海外の保護主義の台頭で厳しい壁にぶつかっています。

こうした新しい環境に対処するための答えが双循環戦略なのです。加工貿易のビジネスモデルを見直し、川下に関しては国内販売に切り替え、川上に関しては自ら研究開発に力を入れて、国内のサプライチェーンを強化する戦略です。

特に日本との関係では川上の部分の変化が重要です。日本の対中ビジネス関係では、中間部品の対中輸出が大きなウェイトを占めています。もし中国が双循環戦略に成功すれば、日本に頼らなくても自ら研究開発できるようになり、重要な部品を国内でも生産できるようになって、日本との関係は従来の補完関係から競合関係に変わっていくので、一歩間違えればゼロサムゲームになります。日本企業としてはそこへの備えを考えておく必要があるでしょう。

内需に関しては、中国はリーマンショック後も4兆人民元の景気対策を打って、インフラ投資を中心に拡大を図りました。今回は同じ内需拡大でも、投資が中心ではなく消費が中心となります。

ただ、中国の民間消費の対GDP比は少し持ち直しているとはいえ、まだGDPの4割程度です。過剰消費といわれる米国は70%ですから、まだその半分程度であり、伸びる余地はいくらでもあるといえます。しかも、民間消費の対GDP比は農村部と都市部の1人あたり所得の比率ときれいに連動しています。つまり、農村と都市の格差が大きいほど消費が低迷するのです。消費拡大の鍵は、都市部と農村部の格差是正にあると思います。

質疑応答

Q:

中国が1人あたりでも総量でもGDPが成長するのは確実だと思いますが、貿易面ではどうなるのでしょうか。

コメンテータ:

双循環戦略の大きな流れとしては、輸出も輸入も国内にシフトするので、対GDP比ではリーマンショック前後が貿易量のピークで、その後は一貫して低下傾向をたどっています。双循環戦略が本格化すれば、対GDP比でこの比率は一層下がるのではないかと見ています。実際、対輸出全体で見ても、対輸入全体で見ても、加工貿易の割合は下がっています。しかも、加工貿易に関しては輸入コンテンツの方が相対的に少なくなり、国内での付加価値の方が大きい傾向は最近のことではなく、10年ほど前から顕著です。その点では中国の輸出構造の高度化もある程度進んでいるといっていいでしょう。

地域別ではやはり米国への輸出はさらに難しくなるという前提の下、中国は国内市場へのシフトに加えて海外市場の分散も進めています。一帯一路をはじめ、最近はRCEP(地域的な包括的経済連携)、CPTPPの参加にも積極的なのは、双循環といいながら海外市場を無視しているわけではないことの表れともいえます。

スピーカー:

根本的に現在は米国次第であり、米国との問題が解決しない限り、まだこれから少し変わると思います。

Q:

第14次5カ年計画の中でデジタルトランスフォーメーションはどのように位置付けられていますか。

スピーカー:

中央政府はかなり力を入れていて、第14次5カ年計画ではいくつかの分野で自前の開発をしています。もちろん海外との共同研究も進むでしょう。

コメンテータ:

産業の高度化に関しては、デジタルエコノミーに大きな期待が懸かっています。国内投資に関しても、ニューインフラという言葉が盛んにいわれるようになりました。従来のインフラといえば鉄道や港湾、空港などでしたが、最近は5Gネットワークやデータセンターなど、デジタルエコノミーに関わるインフラに力を入れることが政府の方針となっています。基礎研究に関してもこれから何らかの形で積極的に支援していくと思います。

Q:

今後の米中関係が中国経済の長期的展望に与える影響についてどうお考えですか。トランプ政権からバイデン政権に移行したことで大きな変化はありますか。

スピーカー:

アンカレッジでの米中高官の会談を見ての直感ですが、長期的な影響は、最初はあると思います。

コメンテータ:

短期の影響としては輸出が困難になると思うのですが、中長期的にはやはり供給側の影響が大きいと思うのです。特に中国企業は技術を取得するために、米国をはじめ先進国のハイテク企業を買収しようとしていました。そこで、トランプ大統領になってから安全保障の理由で、そうした企業を中国の手には渡さないように法律を改正し、結果として対先進国の直接投資は極めて低迷しています。

こうした海外からの技術導入は本来、発展途上の中国にとって一種の後発の優位性なのですが、それが発揮できなくなります。すでに中国は、豊かにならないうちに人口が老いていくという問題に直面しているのですが、加えて先進国にならないうちに後発の優位性を失う恐れがあります。そこで、日本や、欧州、イスラエルなど、米国以外の技術の供給源をより大事にしています。双循環の説明にもあったように、国内の資源もフルに生かしながら、総力戦の姿勢で研究開発に取り組もうとしています。

Q:

米中対立の中で中国の産業構造も変わっていくことでしょう。そうした中で、日本に対して何かアドバイスを頂けますか。

スピーカー:

中国が大きくなって利益をどう分配するかという新たな時代が、国際社会は想定されていないのではないかというイメージがあります。新しい国際分業がどうなるのか、米国、中国、日本も含めて考えざるを得ない時代だと思います。

コメンテータ:

今までは先進国である日本から一方的に学んでいました。ただ近年、国際会議に出ると、「日本から学ぶのは経験ではなくて教訓でしょう」と言われる機会が多くなりました。その分、中国は自信を持つようになったのだと思います。実際、分野によっては中国が日本よりも進んでいる面もあります。おそらくデジタル分野では、相当の部分で逆転しているといっていいでしょう。イデオロギーなどいろいろな問題はありますが、日本は中国から学べるところがないか、もっと謙虚に考え直す必要があると思います。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。